ありえない裏切り
マリアさんが怒っています
速水達が王都へ向かった後、マ-ルス教アスタリカ教会にお怒りのマリアさんが居た。
「ホントにムカつく! くそ女神共何やってんだぁ!」
「ちょっとマリアちゃん! 一体どうしたのよ?!」
「エルファお姉ちゃんも分かってるでしょ!」
「え⁈ だから何の事よ?」
「しらばっくれても、私はわかってるんだよ。お姉ちゃん達、はやみんや静香の邪魔してる!」
マリアはグ-テモルゲン王国へ到着してから、ジュノー教の布教活動を始めた。
その活動中にアルメリアやサリファス、そしてスレイブなどの噂を聞いた。
本来、各女神を祀る教会は『幸運の君』を助ける事が前提にある。
しかし表向き彼らの活動を助けている様に見えるが、実際はこの世界に取り込もうとしている。
何故なら帰還希望の彼らを残るように仕向けているのだ。
「でもマリアちゃんも速水さん達に残って欲しいと思ってるでしょ?」
「それはそれ。これじゃあ本来の意味を失う事になるよ? お姉ちゃん直ぐに皆を集めて!」
コンコン。荒れる教会の執務室のドアが叩かれる。
「お取込み中失礼します。信頼雑貨の岡田様が来られております」
「失礼。今の話いったいどういう事なんでしょうか?」
「......岡田様。今の話聞いておられました?」
「ええ。大きな声でしたので。それでマリア殿、エルファ教皇。説明はして頂けるんですよね?」
「は、はい」「岡田っち。その......ごめんなさい」
案内して来た教会関係者も、思いがけない話に驚いていた。
三人は執務室のソファ-に移動し、事の経緯を聞く体制に移る。
「えっと。もう知られてしまいましたので、正直にお話します」
エルファは岡田に頭を下げ、これまでの事を話しだした。
信頼雑貨の社員達がこの世界に来た当初、各聖女たちは期待をしていなかった。
何故ならこれまでに現れた異世界からの使者は、世界を変革出来なかったからだ。
しかし事態は大きく動き出した。それは本来現れる予定にない特異点が発生したからだ。
そこで先ずは聖女アナマリアが接触した。とにかく彼らの力を知る事。
アナマリアは直ぐに彼らの力を理解し、各聖女へ情報を流す。
「アナマリア様は、速水と会ったんですよね?」
「はい。速水様は『導き手』と呼ばれる使徒。その資格の有無の確認もありました」
速水は既にマリアとも接点があり、その人柄の報告は受けていた。
次々と新しい知識や技術がアルメリアで広がるにつれ、他の聖女達も重い腰を上げる。
自身の目で見た異世界の技術や品物。驚くと同時に変革を確信するに至りる。
そして各聖女達も本来の役割を果たすべく活動を開始。各国へ協力を呼びかける事に。
新たな技術や習慣などが各国に根付いてきた頃、多方面から提案があった。
「彼らをこのまま、この世界の発展の為に残せないのか? 彼らだってそう思っているんじゃないか?」
そんな声が囁かれる様になると、聖女も考えを改める。女神ジュノ-の意志はどうなのか?
「岡田様もご存知の通り、マリアちゃんは女神ジュノ-の化身。マリアちゃんは離れたく無いんじゃないか? と考えたのです」
そう考えた聖女達は行動に移る。街の住人に対し、彼らの存在の重要性を説く。
初めは小さかった声も大きくなり、彼らがどれだけ重要なのかを多くの民が認識した。
そうなれば各国も動き出す。学校や職業訓練校に人を送り込み懇意にさせる。
或いは街の住民として接触を図るなど。そう言った行動により、1人でも多くこの世界に残る選択へ導く為に。
そうした活動は今現在も続いている。
「馬鹿なっ! アンタら最悪だな! 俺達の弱い部分に付け込んだのか!!」
「申し訳ありません。ですがご理解頂きたいのです」
「エルファお姉ちゃん。そんな事言われて納得できないと思うよ。だって皆バラバラじゃん! どうやって最後の試練を乗り越えるのさ!」
「マリアちゃんは、速水様や静香様が帰られても良いのですか?」
「それとこれとは関係ないっ! どう謝って良いか分からないよ......」
「エルファ殿。この様な話は承服致しかねます。ふざけてる! この事は私から皆に報告しますから」
岡田はそう言うと執務室から出て行った。
残る二人は会話も無く、マリアも岡田を追いかけて部屋を出た。
◇◇◇
岡田は教会内の宿泊施設へ戻り、直ぐに今回の話を澤田へ話した。
それを聞いた澤田は直ぐに各社員に連絡。全ての工事、活動を止め社員を招集した。
そこには責任を感じたマリアが出席している。
「急な呼び出しを行い、皆には迷惑をかける。だが皆に聞いて欲しい話がある」
「何かあったんですか? いきなり呼び出しとか」
「田村君。それに皆。先ずは岡田君の話を聞いてもらおうか」
集まった社員達に今日聞いた話を岡田がする。それを聞いた社員達は怒った。
「何だそれ! じゃあ残るって言ってる仲間は騙されてるのか!」
「ありえないわ! それじゃあ仲良くしてた人達の中に、私達を騙してた人が居たの?」
怒号の飛び交う社員達の声を聞いていたマリアは、皆の前に立った。
「皆さん。本当にごめんなさい。本来は私が止めなきゃいけなかったんです」
「マリア殿。貴女は本当に何も知らなかったのですか?」
謝るマリアに澤田が問いかけた。
「はい。皆さんと過ごす毎日が楽しくて、自分の事しか見えていませんでした。でもここ最近、他国の噂話が耳に入り、今どうなっているのか分かりました」
「専務。マリアさんは嘘つける人ちゃいまっせ。それは一緒におった皆も分かってるよなぁ?」
「そうね。マリアは何も考えてないっしょ? 悪いのは聖女さんと国でしょ」
一緒に過ごす事の多い田村や安田は勿論、社員達もマリアと一緒に仕事をした時間が多い。
マリアの人柄もその性格も分かっているのだ。
「そうだな。私もマリア殿は信用しようと思う。私達はどう行動するかを話し合わないとな」
澤田もマリアを孫の様に思っている。なのでその信頼も厚い。
「離れている社員にどういう形で連絡を取るか? 誰かを派遣するのか? だな」
「なら丁度いい。俺が皆に会って話をしてくるわ。浜岡さんにも会いに行きたいしな」
澤田の問いかけに答えたのは、岩本だった。
「岩本君。かなりの移動になるが良いのかね?」
「元々旅に出ようと思っていたんですよ。私はこの世界の事、嫌いじゃないんでね」
「岩さん。もしかしてこの世界に残るつもりなんでっか?」
「田村。その答えも探したいんだ。それに本当に騙されてるのかも気になるしな」
思っても見なかった事実に困惑する社員達。
味方だったはずの聖女達の裏切り。
そしてこの事実を知らないまま、王都へ向かった速水達に待っているものは―――
予想しない裏切り。
この事が帰還にどういう影響を与えるんだろうか?