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現実を知る

急遽段取りされた社内会議。

 新たな動きもあった事で、帰還に向けて社員会議の場を作った。


 澤田専務に加え清水部長もこの地に到着している。


 社員にとってこの二人は、心の拠り所でもあるんだよね。


「じゃあ今後の動き方と各自持っている情報を聞かせて欲しい」


 清水部長を議長として、会議は始まる。


「清水君。皆の発言の前に話をしても良いだろうか?」


「専務。何かありましたか?」


「ああ。いずれ話そうと考えていたが、今日まで各自が忙しかったんでな」


「分かりました。皆も良いな?」


「「「大丈夫です」」」


「先ずはここまで多くの苦労もあったが、皆の働きで帰還の道筋が見えた事に感謝する」


 専務は静かに語り始めた。初めてこの世界に来た当初の困惑や恐怖。


 普段は見せない弱い部分に、俺を含め多くの社員が驚いたよ。


 どこか上司であり年長者である専務に、皆が幻想を抱いていたのかも知れない。


「社長が作り上げた社風が、明るい雰囲気とやる気を作ってくれていた」


 話の中でこの言葉を聞いた時、共感する社員が多かった。


 常に前向きで居られたのは、会社がそう言う雰囲気で仕事に励めていたからだ。


 俺自身弱気になった事もあったが、明るい仲間と静香さんの存在に助けられていたしね。


「ここで皆にも改めて確認したい。本当に日本へ帰りたいか?」


 え⁈ 専務⁈ 俺はとても驚いていた。だって帰る為に頑張って来たんだから。


 周りの社員を見ても皆一様に困惑した表情を浮かべていた。


 誰もが何か言いたそうにしていたが、何を発言すれば良いのか分からないみたいだ。


「専務。それはどう言った意味なんでしょうか? 皆日本へ帰る為に活動してきたはずですよね?」


「速水君。残念だがそれは社員の総意ではない。知っているだろう? 一部の社員の事は」


 一部の社員の事。それは俺が意識的に避けていた事案だ。


 4年近くこの世界で活動する中、様々な人々と出会った。その中で恋仲になった社員もいるんだ。


 そう言った社員は、この世界に残る事を希望している。これに対し誰も否定的な意見は言えなかった。


「私はまだ帰還できるのか不安だ。若い世代はこの世界に順応出来ているが」


「専務? どういう意味でっしゃろ?」


「田村君。私はどうも疑り深い性格でね。神が存在する事が当たり前のように、信じられているのが受け入れられないんだよ」


 ん? 確かに俺も日本で生活している時、その存在は否定的だった。神頼みなんて言葉はあったが、神そのものが存在するとは思っていなかった。


 でもこの世界では神は存在する......と思う。実際あった事も無いし、奇跡を見せられた訳では無いが。


 そう言えばどうして信じてるんだろう? 聖女の存在? マリアさん? あれ? 


「何か大きな意思が働いていて、今日まで活動していた事は否定しない。過去この世界に我々と同じように、連れて来られた人の存在も否定できない」


「なら専務はこれまでの活動が、帰還に結びつかないと考えておられるんですか?」


「速水君。私自身は信じているよ。だが信じられない人もいる事を忘れてはいけない」


 ここから専務は何故、今この様な話をしたのか。その真意について語ってくれた。


 専務には日々多くの社員が悩みを相談しに来ていたらしい。


 その中で上手くこの世界に順応できない社員。現実を受け入れられない社員。


 今の活動が帰還に結びつくのか不安な社員。家族に会えない不満を訴える社員。


 専務はその度にその社員達を宥め、快く相談に耳を傾け続けた。しかし専務自身も明確な答えを出せなかったんだ。


 当たり前だ。専務も1人の人間だし、悩みを解決出来る手段もない。


 その立場故、弱みを見せる事が出来なかったんだよな。俺を含む社員は改めて考える必要があった。


「誰もが弱い人間だという事を忘れないで欲しい。そして皆で助け合ってくれ」


「専務有難うございました。私からもこの件で補足がある」


 清水部長は帰還を望んでいない社員について話し出した。恋人と共に生活したい人。


 日本に家族が無く、この世界での生活を望む人。この世界でやりがいを見つけた人。


 様々な考えで残りたい社員達の話。


「上層部として残りたい社員の希望は否定できない。それは改めて理解して欲しい」


 俺達は無言で頷くしかなかった。確実に帰還できる保証が無いのだから。


「これから帰還へ向けて踏ん張るタイミングで、この様な話をしてすまなかった。だが目を背けてはいけないという事も、理解して欲しいんだよ」


「専務の気持ちは皆に伝わってますよ。私も含め社員全員が、現実を見つめる必要がありますから」


「専務、部長。言いにくい話を有難うございました! おいお前ら顔を上げろ! 今の現実を見つめて、やるべき事をやるんだ! ほら速水も田村も切り替えて、今後の話をしようぜ!」


 高橋課長がそう声をあげた。そうだよな。とにかく帰還できる日が見えてきているんだ!


 きっと明るい未来が待っているはず! 俺は両手を握り締めた。


「慎一さん。私も隣にいます」「静香さん」


「はいはい。ラブラブな新婚プレイは二人の時にしてください」


 鋭い花崎さんのツッコミで現実に戻された。静香さんは赤い顔で下を向いている。


「あはは。じゃ、じゃあこの国の情報や、今後の動きについて話をしましょうか」


 先ずはここグ-テモルゲン王国について。この国は農業と鉱石の輸出が主要産業である。


 特筆すべきは医学についての研究機関がある事。ただ科学的な実証は不明瞭で、薬草などによる薬の効き目も判断しにくい。


 外科治療は簡単な縫合のみ。ただ一部の医療行為は危険を感じる。


 悪い血を抜けば病気が治るなどと言う、迷信に近い治療がされているらしい。


 それ以外では、先進技術を取り入れる土壌がある事。情報伝達の重要性を理解している事。


「そう言えば医療については、マ-ルス教に研究機関があるんでしたね」


「薬の調合なんかもしているって、エルファ様が言ってたよ」


「静香さんはマリアさんと一緒に話聞いてましたもんね」


「その医学的な事については、俺が担当して話を聞きたいと思っている」


「では岡田君がマ-ルス教と話をしてくれるんだね?」


「はい専務。うちの間宮が例の天然樹脂の利用について活動してますから。それ以外の品管の社員で対応します」


「じゃあ俺は鉱石の活用について調べて来るわ。工事の監督は、来栖と草薙でやれるだろうし」


「蓮見君。ではその方向で頼みます」


「なら俺はいつも通り流通の方へ行きますか」


「速水。そっちは俺が担当するわ。それよりも女神関係を調べた方がええんちゃうか?」


「田村君。私もそれが良いと思う。速水は教会にも顔が利くし、この国の文献も調べた方が良いだろ」


「なら私が田村君を手伝おう。それで良いかな? 花崎君」


「え? は、はい。それじゃあ私は速水さん達と活動します」


「残りの社員で店舗や工房、支社設立に向けて動きます。では明日からそのつもりで」


 こうしてこれから各自がどう動くかが決まった。


 俺・静香さん・花崎さん・蓮見課長は、王都のマ-ルス教本部へ向う事になる。


 女神についての文献は、教会本部にあるらしいのだ。


 女神がこの国で何を求めているのか? 


 これまで分かっている事を含め、改めて調べる必要がある。





現段階の現実を受け止めた上で、帰還に向け動き出す社員達。


さぁこれからが正念場だ!

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