新たに実用化が進む物
何やら新たな物が開発?
アスタリカの街での開発は、順調に進み既にひと月。
いつもの様に下水設備から工事は進んでいたのだが、問題もあった。
これまでの国とは違い、水源が深い位置にある事。そしてこの街は河川が遠いのだ。
この為、現在利用中の井戸を使い、町全体にパイプを通す作業に時間が掛かった。
これには住人から多少なりとも苦情があり、教会や役人が走り回る事に。
「今まで順調だった分、ちょっとしたトラブルでも気を使いますね」
「速水。工事なんてそんなもんだ。日本なら山の中以外は、下水工事も進んでるしな」
「ですね。でも国も教会も協力的で良かったです」
「まぁ自国の発展の為だからな。力も入るだろうさ」
速水と蓮見がこの様な会話をしている時、予想外の報告が入る。
「蓮見課長! 例の場所からアレが実用化出来そうだって!」
焦った様子で報告に来たのは、工場部門の草薙だった。
「蓮見さん。例のアレって?」
「ああ。速水も聞いてるだろ? 岡田がファインブル王国で調査していたやつ」
ファインブル王国で調査していた物。
それは石油の鉱脈だ。しかし残念ながら流通出来る程の埋蔵量では、無かったはずなんだが。
「あれ? でも実用化って? ん?」
「そうか。速水は石油だと思ってたんだよな。今回実用化へ進んだのはLPガスだ」
詳しく説明を聞くと、液化ガスを採取できたらしい。まぁ一般に流通出来る程の量ではないらしいが。
それでも今後石油鉱脈が見つかった場合、ガスの普及も出来る事になる。
正直俺達が帰還するまでに、見つかるかは微妙だけどね。
因みにLPガスは液化された石油ガスの事ですよ。
「しかし品質管理部って、凄すぎませんか?」
「......本当はうちなんかに、居るべき人間じゃ無いのかもな。岡田は楽しそうだったがな」
蓮見さんが笑いながらそう言うんだが、その蓮見さんを含む工場部門も大概だよね!
そう考えたら俺や田村とか普通ですよ。女性の服飾部門も才能を感じるしなぁ。
あれ? 何か目から汗が......。 田村に後で慰めて貰おう。
◇◇◇
その頃、田村達は悩んでいた。この問題は男性も女性も関係ないのだ。
「俺は木製でもええと思います! カバ-付けたらええし」
「でも汚れたらどうするんですか?」
「その時はごめん言うて謝ったらええがな!」
「いやそれは駄目でしょ!」
「田村君も愛も楽しそうだけどさ。ちゃんと根本的な解決を提案しなさいよ」
田村と倉木がじゃれ合う様子を見て、ちょっとお冠な安田だった。
「はいはい。それに関しては一応の解決策があるんだよ」
「間宮さん。どうしますんや?」
「便器本体に樹脂コ-ティングするんだよ。この世界の造船でも使われてるんだけどね」
「ああ。あの水分を弾くってやつですか?」
「そうそう。下水パイプにも使ってるしね。プラスチック製品が無いから」
田村達が真剣に考えていたのは、便器の事だ。日本では洋式便座はかなり高性能だが、この世界では信頼雑貨でも用意は出来ない。
そこで木製の物とか岩を削った物を使用している。だがこの場合劣化の問題もあるし、汚れの問題もあるんだ。
何故今になってこの問題を話し合っているのか? それはグ-テモルゲン王国からお願いがあったんだ。
今のままで設置するとコストが掛かりすぎると言うのだ。そう言われるとこちらも、何らかの提案をしなければならない。
「大理石とか使ったら肌に優しそうやねんけどなぁ」
「田村君。それは金持ちだけだよ。一般市民に普及しないじゃん!」
「田村の言いたい事は分かるが、現実問題として厳しいよ。実用できるかは分からないけど、思いつく事はあるんだけどな」
「間宮さん。何か方法があるんでっか?」
「ほら。ゴムの木見つけただろ? なら天然樹脂を使う方法もありじゃないか?」
間宮や品質管理部の社員の考えは、ゴムの原料を使って作る事だった。
現在馬車のタイヤ何かに使用している、天然樹脂を使えば少しコストも抑えられると言うのだ。
「ほう。間宮さん。面白い事考えたな」
「ん? 安藤じゃないか。工事の方は良いのか?」
「ええ。大丈夫です。さっきの話ですけど、こう言う方法はどうですか?」
①便器の形で型枠を作る。
②ゴムを流し込んで固める。
③固まったら型枠を外す。
④最後に防水の樹脂コ-ティング。
「これなら完成品が量産できるし、工場の職人なら型枠ぐらい作れますよ。ただ経年劣化は調べる必要ありますけどね」
「なるほどなぁ。流石は工場部門や。そんな発想は俺らでは浮かびませんわ」
「いやいや。天然樹脂を使うって言う発想は、普通思いつかないからな」
こうして新たな発想で、天然樹脂を使った便器が開発される事になる。
ゴムの木自体はグ-テモルゲン王国でもある様なので、成功すれば他国へも波及できるはずだ。
それにこの方法が確立され人体に影響が無ければ、新たな商品も生まれるかもしれない。
「プラスチック製品の代わりに利用できるなら、色々と他の問題も解決できるかもな」
「それやったら、この国の研究者にも協力して貰ったらどうでっしゃろ?」
「そうだな。先ずは領主を通じて話をしてこようか」
間宮と安藤はこの後、領主に話を持って行く事になった。
グ-テモルゲン王国もファインブル王国と同じで研究が盛んな国だ。
もし多方面で活用できるなら、まず間違いなく国は動くだろう。
◇◇◇
その後、ある程度の資料を揃え領主へ話を持って行った。
それから1週間後には王都から文官が派遣され、信頼雑貨と共同研究する事が決まる。
又この研究の為に、間宮と安藤は王都へ行く事になった。
「へぇ。便器問題がそんな事になったのか」
「速水。思わぬ発想ちゅうやつや。頭の回転が違うねん!」
「ってお前が考えたみたいに言うな」
「俺もその場におったんやからな! 自慢してもええやろ!」
「はいはい。凄い凄い。とりあえず、それは置いておいて。この後の動き考えたか?」
「ん? いつも通り店の開店やら支店開設やろ?」
「それもやらないと行けないけど、この国の抱える問題も解決しないと」
生活環境や技術の持ち込みは何時もやっている。だがこの国でやるべき事。
女神が求めている事を探らないといけないんだ。今分かっているのは女神の権能のみ。
「ああ。せやったなぁ。それを解決せんと日本へ帰られへんのか」
「その通り。だから皆で手分けして、情報収集もお願いしたいんだ」
「わかった。ほんなら今晩皆を集めて話しようや。役割分担決めた方がええやろ?」
「そうだな。俺も声掛けるから、田村もお願いするな」
そしてこの夜、社員が集められる事になる。
この日が帰還に向けての分岐点になる事を知らずに―――
資源を有効活用出来れば良いのだが、色々な問題をクリア出来るかは未知数。
さてこの国の問題とは何だろうか?