グ-テモルゲン王国
ここから最後の国へ
ファインブル王国からグ-テモルゲン王国への移動は、とても快適な物だった。
と言うのもこの2ヶ国はライバルであると同時に、以前から交流も深かったのだ。
既に国境の整備は終わっており、入国までの道程で人の行き交う姿が多く見られた。
運行の始まった蒸気機関車も、この付近では見慣れたものになりつつあるようだ。
「なんや拍子抜けやわ」
「確かにな。これまではここから工事だったし」
そんな話をしながらグ-テモルゲン王国へ入国した。
国境の街となるのはアスタリカという街。商業が盛んでとても活気のある街だ。
「......な、なぁ。あれはどう言う事なんやろか?」
「う、うん。なんかなぁ」
「あっ! エルファお姉ちゃんだ!」
俺達の到着を待つようにして、その団体は駅の前に居た。
服装からマ-ルス教の関係者なのは間違いない。そして真ん中で腕を組み、仁王立ちする女性。
「よ、ようやく来たのね」
「エルファおねぇちゃああん♪」
その女性に向かって走り出すマリアさん。するとその女性......エルファ様はやっと笑顔になった。
「マ、マリアちゃん! 待ってたのよぉおおおお」
さっきまでの雰囲気は? マリアさんが抱き着くエルファさんは惚けている。
おもいっきり抱きしめている姿から想像するに、マリアさんに会いたかったんだろうね。
そんな二人の様子を微笑ましそうに見守る教会の人達。
「なんだろう......あんな人だっけ?」
「速水......何も言うな。あれはそう言いう人なんや!」
暫く見守ってい居たが、長くなりそうだったので声を掛けた。
「えっと。エルファ様。お久しぶりです」
「......は、速水様。お、お久しぶりです......」
あれ? やっぱり人見知りっぽい? でもマリアさんとは普通に喋ってるような?
「速水殿。長旅ご苦労様です。教皇様と共に一度教会の方へお越しください」
「は、はい。分かりました。教会と言うのはこの街の?」
「ええ。ご宿泊できる場所もご準備出来ておりますし、先遣で来られた蓮見様達もそちらの方に」
という事で教会に移動する事になった俺達。因みに提案してくれたのミカエル枢機卿だ。
エルファ様はやはり人見知りだそうで、ミカエルさんが常に側に付いて対応しているらしい。
教会までの道々、街を観察してみたんだが人々の表情が活き活きしていた。
これまで行ったどの国の街よりも清潔で、ゴミなども比較的落ちていない。
しかし埃や匂いは下水設備が無いためにちょっと残念だった。
そして到着したマ-ルス教アスタリカ教会。
その敷地の広さからこの国でのマ-ルス教の力を感じた。国境の街でこの大きさなら王都は......
「おっ、速水! やっと来たか!」
「蓮見さん! お久しぶりです!」
到着した俺達に声を掛けて来た蓮見課長。そしてその後ろには想像していなかった人が居た。
「澤田専務やん!」
「みんな久しぶりだな。君達の活動に感謝する」
「専務。アルメリアの方は良いんですか?」
「速水。もうグランベルク含め引継ぎはほぼ終わったんだ。清水君達も雑事が済めばこちらへ来る予定だ」
「皆さま。ここで立ち話もあれですし、どうぞ中のほうへ」
ミカエルさんにそう声を掛けて貰ったので、全員で移動した。
エルファ様はマリアさんを離さず、自室へ連れて行った。落ち着いたら戻って来るだろう。多分。
◇◇◇
教会の敷地内にある宿泊施設に移動した俺達は、早速情報交換を始めた。
澤田専務からまずこの国について説明があった。俺達が来るまでに色々と調べてくれていたんだよ。
「このグ-テモルゲン王国はとにかく勤勉だ」
「それってファインブル王国に近いって事ですか?」
「それが少し違う。女神の権能を考えてみてくれ」
ん? 権能? あっそうか! 女神マ-ルスの権能は知恵だったな。
「知恵のある国民性って事ですか?」
「そうだ。どちらかと言えば我々の感覚に近いのかもしれん」
「我々って......もしかして情報伝達が早いって事ですか?」
「ああ。他国の新しい技術や情報をいち早くキャッチして、それを使う事に抵抗が無い」
なるほどなぁ。この街が清潔に保たれているのもそうなのかもな。
但し技術的な物はそんな簡単じゃない。だがやり易いかもしれないな。
「でも国内の情報伝達って馬でしょ?」
「聞いたところでは駅みたいなものがあってな。そこで昼夜問わず交代しながら国内を周っている様だ」
「へぇ。何や面白い国やなぁ」
田村の言う面白いと言う表現は俺も同意見だ。発想が現代人に近いのかも知れないな。
この国の国王かその側近にそう言う考えを持った人間が居るんだろうか?
「とまぁ実は私が調べても特に詳細な情報は無かったんだ」
澤田専務は申し訳なさそうにしていたが、仕方ないだろう。まだ国内の移動は時間かかるだろうしね。
皆もそれが分かっているので、悲観的な様子は無い。
国内の事はこれから徐々にわかるし、必要な物は開発や改革するのだから。
それよりも一番大事なのは、女神ジュノ-が求める事を達成した時だ。
「専務。ありがとうございました。後は俺達の動きですね」
「せや。色々終わった後の事を相談せなな」
「そうね。グランベルクやその他の国へ行った社員達はどうするのかしら?」
「田村、速水、中村。その事なんだが......」
少し言いにくそうに専務は語った。と言うのは俺達も聞いてはいたけど、触れて来なかった問題だ。
各地で活動する社員達の中に、この世界に残りたいって言う希望者が居るのだ。
「でもなぁ。来る時強制的やったやん? それやのに残れるんやろか?」
「そうだな。しかしあの時は敷地に居た人間が移動して来たから」
「ほんなら、最終的に一緒に居る人間が戻れるんやろか?」
そこが分からない部分だな。強制的に返してもらえるなら良いんだけど。
分からないなら出来るだけ同じ場所に居た方が良いよね? 静香さんとは一緒に居ようと思ってるけど。
「残留希望者は会社としても強制できない。それ以外の社員は、引継ぎが終わればこの地へ来る予定だ」
こればっかりは残念だけど仕方ないな。その中に仲良くしていた社員もいるかも知れないけど。
此処に居る社員はとりあえず帰還希望者だ。とにかく最後へ向かって頑張るしかない。
この日は教会の歓迎で豪華な夕食を用意して貰った。
その夕食会でもエルファ様はマリアさんに首ったけだったよ。
残る問題は一旦置いておいて、明日から再び俺達流の改革が始まる―――
グ-テモルゲン王国へ入国した速水達。この国の発展に協力するだけでなく、後の事も意識し始めた。
だが先ずは目の前の仕事が待っている!