変わる帝国
俺と静香さんは帝国へ向かうのだが......
そんな訳でハーメリック帝国へ向かう俺と静香さんだったが、二人きりにはさせて貰えない。
「ねぇねぇ静香ってばぁー」
「はいはい。さっきから何なの?」
「着いたら何食べる? 私はパンケーキ食べたい!」
そう。俺たちには、マリアさんがセットなのである。
何処で聞きつけたのか分からないが、出発する朝にはマリアさんが居た。
まぁこれだけ長い付き合いだし、俺と静香さんにとって妹みたいなもんだけど。
「ああ。パンケーキって岩本さん考案のやつ? アレは美味しいよね♪」
「そうそれ! あの甘いの最高だよ!」
あの甘いのは、メープルシロップだ。確かに一度食べたら病みつきになる。
甘い物が大好きな岩さんだから、拘り方がハンパないんだ。
そんな会話をしながらも、道程は順調そのものだった。
静香さんやマリアさんは気がついて無いけど、暗部の方々がしっかり護衛してくれている。
ハーメリックに着いたら、ジャニス様とロザヴィア様にお礼を言わないと。
結局あの襲撃からこれまで、ずっと守られて来た。
今現在は俺とマリアさんの護衛として常に警護してもらっている。
エイシャさんの足音の聞こえない接近は、未だにビックリするんだけどね。
そんな事を列車で考えながら、ハーメリック帝国の帝都へ向かった。
◇◇◇
途中の街で2泊した後、無事に帝都へ到着。
その足で向かったのは、セレス教本部だ。
「速水様、静香夫人、お久しぶりですね。マリアちゃんもご苦労様」
「夫婦で来るなんて、職権濫用じゃない?」
「ジャニス様、お久しぶりです。ロザヴィア様? たまたまですからね!」
相変わらずの2人だなぁ。ちなみに静香さんは俺の部下ではありませんよ!
そんな歓迎に静香さんは赤い顔してましたけどね。
「ジャニス姉ちゃん、ロザヴィア姉。ハロハロー♪」
「お、おほん。ジャニス様、ロザヴィア様、揶揄わないで下さい!」
「あらあら。静香夫人はシャイなのねぇ。可愛らしいわ」
「ほんと。いじりがいがありそうだわ」
この2人って怖いよ! 静香さんもちょっと引いてるからね!
「はぁ。と、とにかく。ジャニス様もロザヴィア様もありがとうございました」
お礼を言った後、俺達が離れてからの国内の様子を聞いた。
新皇帝の治政は安定しており、以前の様な殺伐とした雰囲気は無くなったそうだ。
側近には若手も多く登用しており、古株の人達とも良い関係を築いているらしい。
そして今回、信頼雑貨の支社設立も帝国がかなり力を入れているんだって。
「速水様達は、明日城へ行かれるでしょ?」
「ええ。新皇帝にご挨拶と支社の話をしに行きますよ」
「わかりました。私達も同席しますから、ご一緒に参りましょう」
ん? 一緒に? 何かあるんだろうか?
俺が聞こうとすると、明日のお楽しみですと言われたんだ。
とっても気になるけど、あまり聞くと騙されそうだからやめた。
だってこの姉妹怖いんだもん!
この後、ファインブル王国の話なんかもしながら過ごした。
宿泊する部屋なんかも用意してくれていたんだ。
夕食時は俺と静香さんの馴れ初めやら、根掘り葉掘り聞かれたよ(汗)
出されたお酒が美味しくて、ちょっと飲みすぎた俺は早々に退散。
残った女性陣は、遅くまで盛り上がったそうだ。
◇◇◇
翌朝、ちょっと眠い目を擦りながら食堂へ向かう。
するとジャニス様、ロザヴィア様は既に起きていた。
「おはようございます。朝早いんですね」
「私達は何時も5時には起きてますわよ」
「あはは…...えっと静香さんやマリアさんは?」
「静香はそろそろ来るわ。マリアちゃんは......」
うん。マリアさんは朝弱いしなぁ。
それにしても、ロザヴィア様が静香さんを呼び捨てにしている?
あの後仲良くなったんだろうか?
そう思っていたら、静香さんがマリアさんを引っ張りながら食堂へ。
「ほら、ちゃんと自分で歩きなさい!」
「だって眠いしぃ。もうちょっと寝たい! でもお腹減った!」
「あらあら。マリアちゃん、しっかりしないと」
「マリアは変わらないから」
「あーん。ジャニス姉ちゃん優しい!」
朝から急に騒がしくなったが、食に貪欲なマリアさんはよく食べた。
見てたら胸やけしそうだよ。
そんな朝のひと時が落ち着いた後、皆で帝城へ向かったのだった。
◇◇◇
そうしてやって来た帝城。
なんか色々な気持ちが湧いてくる。
帝国では辛い思い出があるからさ。
「ようこそ。マリア様、速水ご夫妻、そしてジャニス様、ロザヴィア様もよくおいでに」
新皇帝であるメリア皇帝は、とても気さくな人だ。
「メリアちゃん! お久しぶり!」
「皇帝陛下。お久しぶりです」
こういう時、マリアさんて凄いと思う。
まぁこの世界で宗教のトップは、王より偉いんだったなぁ。
「速水さん。お久しぶりです」
「あっ、ジュリアス様。お久しぶりですね」
俺に声をかけて来たジュリアス元王子は、現政権で軍部のトップに就任したらしい。
宰相には皇帝選挙でも目立っていた、リンデラ伯爵が。
挨拶の後、今回の支社設立の話を開始した。
「では本日の会合の司会は、私リンデラが行います」
既に予算組みは終わっており、支社となる建物も帝都で手配してあった。
「速水様、中村様。資料にあります様に、工事の開始は直ぐにでも行えます」
「わかりました。着工は始めてもらってかまいません。後は雇用ですね」
「採用基準は信頼雑貨様の方でお決めになられるのでしょうか?」
「採用に関わるものは資料を準備しております。後、私は速水を名乗らせて頂きますので」
「こ、これは申し訳ない。中村様は速水様とご成婚なさったのでしたね」
あはは。静香さんは速水になりました!
とは言え、この世界で戸籍とか無いから、厳密にはグレーなんですが。
「その採用の件ですが、私共セレス教からも人材を登用して欲しいのです」
え? 教会から人材?
「えっとジャニス様、それは問題があるのでは?」
そう発言したのはメリア皇帝だ。
基本的に信頼雑貨の採用には、貴族や国の関係者を優遇しない事になっている。
これは権力者の介入を防ぐ意味もあるからだ。
「それは分かっていますよ。採用基準を満たした人材を面接して欲しいのですよ」
「という事は、不採用でも構わないんですね?」
「はい。セレス教としては、今回の支社設立で国と密接に関わりたいと考えています。その手始めと思って頂きたい」
ほう。これまで完全に独立した勢力だった教会が、国との関係を深めたいって事か。
「後、うちの暗部の人間も警備として考えて貰えないかしら?」
ロザヴィア様の発言は、俺としては大歓迎だ。
この世界の治安は良いとは言えない。
特に俺達の技術や知識を狙う人も多いからね。
「もしや暗部の解体を考えておられるのか!」
あれ? 何かリンデラ宰相が焦ってる?
「ええ。その通りよ。新たな帝国は戦争をしないんでしょ? それに軍部にはジュリアスがいるじゃない」
「ロザヴィア様。私の力の限り頑張ります!」
なるほど。前皇帝の時代は、軍部も汚染されていたからね。
その勢力を抑える為に暗部が活躍していた。
これも改革なんだろう。生まれ変わる帝国かぁ。
「そうですか。これも未来に向けての改革なのですね」
メリア皇帝はそう言い、この提案に賛成した。
良い方向に変わる帝国は、新たな考えて方を取り入れて行く。
その改革に俺達信頼雑貨も関わっていくのだ。
この後も色々な意見を取り入れてる事で、合意した。
こうして信頼雑貨ハーモニック支社計画は始まったんだ。
戦争をしないと誓った新帝国は、その考えの元で変化していく。
そして教会の役割も変わって行くのだった。