新たな展開
開発は進んでいたが......
ファインブル王国の開発もいよいよ終わりが近づいている頃。
俺は少し悩んでいた。と言っても嬉しい悲鳴なのだが......
「という事は才能のある人材が多いって事ですよね?」
「ああ。職人、学者、販売、営業と各分野で良い人材がかなり出て来た」
「販売やったら店で雇うんでええんちゃうか?」
「うちの工場の女性もかなり腕が良いよ? デザインも出来る子いるし」
「職業訓練校の生徒の中にも、腕のいい奴いるぜ?」
俺の問いかけに、高橋課長、田村、森田さん、来栖さんが順番に答えていく。
そう。良い人材がてんこ盛りなんだよね。その中にうちの会社に欲しい人材もいる。
ただうちの支部や支店で雇うにしても、全ての人間という訳にはいかない。
勿論、ファインブル王国にも登用する気持ちはあるんだ。だが未だに貴族の反発も根強い為、宝の持ち腐れ状態。
「それならいっその事、この国に支社を作って見てはどうでしょう? 話せば国からの資金援助も見込めるんじゃないかしら?」
「花崎さん。それは思い切った意見ですねぇ。しかし専務や部長が何と言うか......」
「それなら既に許可は貰ってあるわよ? 私達は元の世界へ戻る予定だけど、会社の建物も戻れると思ってる? 私は多分無理なんじゃ無いかと思ってるんだけど」
「千鶴。それは私も同感。サヨコさんの家もタオカさんの家もここに残ってるしね」
実は俺も花崎さんと静香さんの意見に同意している。今までの状況を整理してみて、戻れたとしても身体だけだろう。
「花崎さん、ちなみに専務や部長はその件で何か言ってましたか?」
「えーとね。建物ごと戻れたら申し分ないけど、置き去りになる場合の事をアルメリア王国と相談しているって言ってたわ」
流石は専務と部長だな。ここまでの事で帰る目途は見えてきている。この段階で既に動き出してくれてたんだな。
これを聞いたうちの社員達は、それぞれの意見を述べる。
「そうか。なら支社の話も本格的に詰めないといけないな。俺は宰相殿に話をしに行って来る」
「高橋課長。すみません。お任せしちゃって良いですか?」
「速水は色々とやるべき事も多いだろう。この国が終わればまたすぐに忙しくなる」
一足先に出て行く高橋課長。
「それなら工事の方は蓮見さんに任せておいて、俺は支社を担当する事にするよ」
「速水は支店となる建物の候補を当たってえな。俺は店の方を見に行くさかい」
「なら私もそっちに行きますね。倉木さんも店に居られるんでしょ?」
「森田さん。ほな一緒に行きますか」
来栖さんは何やら考え事をしながら出て行った。 田村と森田さんはファインブルの店へ向かい、残った俺と静香さんと花崎さんで流通管理組合へ行く事にした。
◇◇◇
そこからの話は早かった。国が支社となる建物を用意してくれたんだ。
元は何かのお店だった建物で、見た目は長屋の様な2階建。普通の店3件分の広さがあり、来栖さん達が壁をぶち抜いて大きなフロアに改造すると張り切っている。
この支社も俺達が元の世界に帰った後は国有企業になる。その為帳簿関係も纏めなければならない。
「では経理関係は花崎さんにお任せします。後必要な物がここに書いてあるので、予算を組みたいんですが」
「はいはい。速水君も必要な物の手配をお願いね。机に椅子とかは注文するの?」
「その事なんですが、蓮見さん達が工房も新たに作るみたいなんですよ。そこで作って貰おうかと」
「ちょっと! それは聞いてないわね。全くあの人達は!」
「あはは。もう張り切っちゃってますからねぇ。資料は用意されていると思いますので」
「千鶴も張り切ってるじゃない。 私もみんなに負けない様に頑張らないとね」
支社となる場所も決まり内装の工事が始まった段階で、人員の面接も始まった。
俺は面接とか向いてないので、高橋課長と静香さんに任せたよ。
因みに店舗の方の面接は田村と倉木さんが行っている。店舗の方は子供の居る家庭を優先したんだ。
面接が始まって驚いたことがある。アルメリアでもそうだったんだが、貴族の人間がとても多かったんだよ。
反対勢力もあると聞いていたので、ちょっと拍子抜けだ。
急に決まった話なのだが、国からも積極的に宣伝されているんだってさ。
採用人数は支社で50名。内訳は販売部10人。営業部10人。経理部5人。品質管理部10人。残りは工場部門だ。
お店の方はパ-ト社員を5名程と裁縫工場へ10名。
俺達はこの国でも積極的にスラムを撤廃する方向に動いている。お店や裁縫工場の人材はほとんどがスラム地区の人々だ。
とは言っても完全に無くす事は不可能だ。俺達も働けない人の事なら全力で応援するが、働きたくない人は擁護しない。
喜んで働きに来てくれる人には、賄の食事も付けているんだけどね。ほら、小さい子供達も多いし。
そして今回は何と岩さんの弟子たちも募集したんだ。これは岩さんが言い出したことで、将来的に軽食の屋台や店舗を持たせる方向だそうだ。
何故こんな話になったのかと言うと、この国は飯が不味いんだよ! 俺達も初めて来た時はびっくりしたんだよね。
宿屋のご飯も岩さんが作ってたりするし......
「あっ速水君。澤田専務から伝言。支社は予定通りなんだけど、他の国々も支社か支店が欲しいって」
「え? それって本気ですか?」
「なんか今回の話をフィンブル王国が自慢したらしいのよ。そしたら他の国も作りたいって」
「うーん。俺達が居る間は繋がりも深く出来るけど、居なくなった後大変じゃないですかねぇ」
「でもうちって情報はオ-プンじゃない? 他の国も上手い事やるんじゃないかしら?」
俺の言いたいのは、知識や技術の共有が出来るのか? って事なんだけどなぁ。
支店や支社を作って雇用を増やしたいんだろう。それ自体はとても良い事だ。
でも国って独占したがるんだよね。特に俺達の持つ情報や知識は、国にとっても喉から手が出る程欲しいんだから。
「まぁ話は分かりました。勿論、専務達や他の社員も手伝ってくれるんですよね?」
「アルメリアは本社だから良いとして。もう動き出してるんじゃないかしら? 大塚係長もサリファス王国へ向かったらしいし」
「そうですか。なら手が空いたらハ-メリック帝国に行ってきます。スレイブ王国は......」
「そっちは本社に任せましょ。私も速水君に着いて行くわ」
あはは。静香さんは絶対離れたくないみたい。ちょっと花崎さんのこめかみが!
そんな訳で俺は更に忙しくなった。支社の方は残った人員に任せるとして、俺と静香さんはハ-メリック帝国に向かった―――
開発以外にもやらなければいけない事が!
俺達が居なくなった後の事も考えて行動せねばならぬのだった。