二人の誓い
いよいよその日が近づく......
仲間達が計画してくれている結婚式なんだが、思っている以上に大事になっていた。
話を聞いた各国の代表者も出席してくれるようなんだ。
俺と静香さんは身内だけのつもりだったんだけどね。今の立場的にそれは難しいらしい。
「ちょっと大丈夫なのかしら?」
「そうですねぇ。これは予想を超えていますよ」
俺達二人が結婚式をする場所として考えていたのは、やっぱりこの世界に初めて来た国。
その中でもグランベルクの街が思い出深い。会社の建物もあるしね。
「まさかアルメリア王国の王都で結婚式する事になるとは......」
「私も何か緊張してきちゃったわ」
「グランベルク教会でささやかな結婚式をイメ-ジしていたんですけどね」
「そうね。私達には思い出深いし、マリアも喜んだと思うんだけど」
この希望は皆にも伝えてあったんだけど、自分たちの立場的に参加者を絞れなかったんだよ。
それだけ『神の御使い』『幸運の君』なんて呼ばれる者の影響力が大きいんだってさ。
こんな会話を二人でしていたら、田村と倉木さんがやって来た。
「なんや此処におったんかいな」
「静香さん探しましたよ!」
「ん? 田村と倉木さん。俺達に用事?」
「愛? どうしたのよ?」
「速水、今から打ち合わせや! 中村さんは愛さんと一緒に!」
「え? 何なんだよ! ちょっと......」
俺は田村に引っ張られる様に連れられて行った。静香さんも何が何だかわからないまま、倉木さんと移動した。
グイグイ引っ張られて行った先には、見慣れない人が集まっていたんだ。
「速水がご到着やで! ほんなら採寸お願いしまっさ!」
「え? 採寸って?! おいっ! 田村! 何だよこれ!」
「何ってあほか! 速水の着る服作るんやないか。お前まさか結婚式用の服、着いひんつもりか?」
「いやいや! タキシード風な服は注文したよ! 流石にそこまで抜けてない!」
俺の言葉に田村はニヤニヤしながら首を振る。
「披露宴もあるんやで! 主役は男でも衣装替えするんや! ダンスもあるからな!」
「え?! 一体どんな結婚式なんだよ!」
どうやら俺の想像する結婚式とはかけ離れて行っているようだ。仲間達が作ってくれる式だから、嬉しい反面怖いなぁ。
俺はされるがままに体中を採寸された。そんな所まで図るの?! って思ったけど!
そして解放された後は何故か打ち合わせも無く、田村は慌てて出掛けて行った。
静香さんも似た様な感じだったらしい。少しは説明が欲しいんだけどね。
◇◇◇
それからひと月、とうとうその日はやって来た。俺は緊張で心臓が飛び出そうだ。
自分の式だと言うのに準備関係は秘密が多いし、静香さんも女性達に引っ張りまわされていた。
そして今いる場所なんだが......
「なんで王城にいるんだよ俺! 控室がおかしいよ!」
「あはは。速水、もうあきらめろ。国王のご厚意で王城を使わせて貰ったんだだから」
俺の叫びに清水部長は冷静に返す。一応仲人さん代わりが清水部長なんだよ。
どんどん緊張してくる中、俺の控室の扉がノックされる。
コンコン!
「速水様、そろそろお時間でございます」
「は、はい! す、直ぐに出ます!」
俺は控室を出て式場へ向かう。王城の通路も今日は一面花が飾ってあり、両側に王城の人間が並んでいた。
皆が笑顔で並んでいる中、俺は緊張でまともに顔も見れない。だってこう言う雰囲気慣れてないんだよ!
侍女さんの案内で王城内を進んで行くと、ちょうど中庭に辿り着いた。広い庭に式場が出来ていたんだ。
「おお。これは華やかだな」「そ、そうですね」
俺と清水部長は神父様のいる場所へ向かう。その際、大勢の参加者の視線が突き刺さるんだ。
俺は笑顔? で頭を下げながらバ-ジンロ-ドを進んだ。その時皆から1本ずつ花を渡された。
ん? 何だろうと思いながら受け取っていたら、大きな花束になった。
清水部長が小さな声で『ダーズンロ-ズだ』と囁いてくれたので、そこで理解した。
ダ-ズンロ-ズって言うのは、参加者から1本ずつ花を受け取り花束にして、ゲストの前で新婦にプロポ-ズするんだ。
その花束を持って俺は静香さんが入って来るのを待つ。何か色々な物が混ざってる気がするが、やりたい事を詰め込んだんだろうか?
静香さんと二人で式場へ登場すると思ってたんだけど、もしや専務が父親役をやりたかったんだろうか?
そんな事を思い少しにやけてしまったが、顔を引き締めた。
「おお!」「奇麗!」「あれが花嫁か!」
なんて声が聞こえて来たと思ったら、専務の腕に手をかけた静香さんが入って来た!
何だあれ?! 天使?! めちゃくちゃ綺麗じゃ無いか!
周りからため息が聞こえる中、純白のウエディングドレスで真っすぐに俺を見ながら静香さんが歩いてくる。
本当に綺麗だ。あのウエディングドレスも倉木さん達の作品だろう。よくこの短期間で出来たものだ。
こちらに来た静香さんに跪き、俺は花束を渡しながら言った。
「静香さん。貴女を愛しています。この先の人生の時間を一緒に過ごしてください」
「はい。よろしくお願いします」
そう言い受け取った花束の中から、1本を俺の胸に刺してくれた。これがダ-ズンロ-ズの一連の流れだ。
本来ならこれも誓いなんだけど、俺達は神父の立つ壇上へ上がった。
ん? この神父さん何かおかしい? ってなんでこの人がここに?!
「新郎慎一。貴方は新婦静香を、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しい時も、妻として愛し、敬い、いつくしむ事。そして大事なマリアを忘れない事を誓いますか?」
え?! 今何か余計な文言無かったか?! 俺も緊張しているんだろうか?
「は、はい! 誓います!」
「新婦静香。貴女は新郎慎一を、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しい時も、妻として愛し、敬い、いつくしむ事。そして大事なマリアを忘れない事を誓いますか?」
「誓います」
「それではお二人に伺います。今日と言う素晴らしい日にお二人は夫婦になりました。今日と言う日を忘れず、マリアも忘れず、これからどんな困難も乗り越え、幸せを分かち合い、幸せな家庭を築く事を誓いますか?」
「「はい、誓います」」
そして神父様・・・うん。から指輪を受け取りお互いの指に。
「では誓いのキッスを!」
静香さんのベ-ルを慎重に上げて......うわぁ綺麗だなぁ。
そして誓いの口づけをした。潤んだ静香さんの瞳がとても神秘的だった。
この後、祝福の大歓声があり、俺達は2人でそれに答えた。何故か神父だったはずの人も、付け髭を外して一緒に手を振っていたんだが。
恒例のブ-ケトスもちゃんとやったんだよ。もう女性陣は必至でもぎ取ろうとしていたけど(汗)
ひとしきり皆からの祝福の言葉をもらった後は、室内へ移動する事になった。
いわゆる披露宴なんだけど、ここでアルメリア国王様や他国の国王様から祝辞があった。
「此度は『幸運の君』として現れた速水殿と中村殿の、素晴らしい結婚式をこの国で行えたことを誇りに思う」
なんてジョ-ジ国王が言うもんだから、他の国の国王が渋い顔をしていた。まぁこの国に最初に来たんだから、仕方ないんだけどね。
俺と静香さんはこの披露宴で衣装替えもした。ちょっと和風な服装をしたり、この国の貴族の様な服も着せられた。
静香さんは何着ても似合うから良いんだけど、俺はただの着せ替え人形だったよ。とほほ。
その披露宴の最中に、式でのマリアさんの話題も出た。もうみんな吹き出す一歩手前だったって。
俺は緊張しすぎて流してたんだけど、静香さんも実は笑いを堪えていたらしい。
俺が一番驚いたのは、ダンスだった。この世界でも結婚式でダンスを踊る国もあるそうだ。ファ-ストダンスって言うんだって。
俺は自信なかったんだけど、静香さんと踊ったよ。社交ダンス? なんて経験ないよ-!
俺達の結婚式はこんな感じで夜まで続いたんだ。幸せいっぱい気分を味わうより、忙しかったと言うのが感想かなぁ。
この世界で色々とあったけど、この日ばかりは忘れられない日になった。
皆が一生懸命考えてくれた結婚式。
この時周りにも変化があったみたいだけど、その話はまた後日。
次話はファインブル王国の話に戻ります。