速水と静香
2人の関係は......
オープン前のプ-ルで大はしゃぎした夜。
俺と静香さんは久しぶりに二人の時間を過ごしていた。
「今日は楽しかったですねぇ」
「そうね。マリアはちょっとテンションがおかしかったしね」
「そのマリアさんはもう寝たんですか?」
「ええ。ぐっすり寝ちゃってるわ。そのおかげで速水君との時間が取れたんだけどね」
この世界に来て色々あったけど、一番良かったのは勇気を出せたことだろうか。
日本で過していたら中々告白なんて出来なかっただろうし。
「それでね。速水君。私ね......来月で30歳になっちゃうの」
「え? そ、そうか。もうそんなに月日が経ってるんですね」
「......」
「え、えっと。そ、その。静香さん! お、俺と結婚してください!」
「......はい。もう! 私は30歳までに結婚したいって言ってたでしょ?」
帰ると言う目的があり静香さんの言葉を忘れていた訳じゃ無いんだ。
でもこれも良い訳になっちゃうか。俺はこの人とずっと一緒に居たい。
短い間ではあったけど過ごした時間はとても幸せな気分を味わえた。それに俺が沈んでいる時に一番側にいて欲しいと思ったんだ。
「静香さん! 明日、指輪を買いに行きませんか?」
「えへへ。そうね。ほんとは戻ってからでも良かったんだけど」
「いえ! いっその事この世界で結婚式もしちゃいましょう!」
「はい? でもそんな時間無いんじゃない? 皆にも報告するの?」
一応、俺達の関係は仲間達に伝えてある。真剣な交際だという事もね。
日本へ帰る事は絶対だけど、正直今どうなってるかもわからないんだよ。
帰ったらこっちに来る前なのか? それとも同じだけの時間が過ぎているのか?
そう考えるとやれる事を済ませておきたい。来る前に戻れるのなら、日本でもう一度結婚式しても良いし。
「ちゃんと皆にも俺達の事を報告して、しっかりお祝いして貰いましょう」
「あはは。良いのかなぁ?」
◇◇◇
翌日、俺と静香さんは王都へ向かった。ウェックウッドの街はレジャーランドで盛り上がっているけど、宝石関係を買うなら王都じゃないとね。
目的の店はリサ-チしてある。実は朝に田村に相談したんだけど、あいつ意外とお店の事知ってるんだよね。
きっと倉木さんにプレゼントでも買うつもりだったんだろうけど。
「速水君がこういうお店知ってるなんて意外だわ」
「あはは。実は教えて貰ったんですよ。田村に」
「ああ。成程ね。田村君と愛も付き合ってるんだもんね」
「それが一番の驚きなんですけどね。ほんといつの間にか仲良くなってましたし」
「私は千鶴に羨ましがられたわ。あの子もその速水君の事......」
「......それについては直接聞いてないので。それに俺には静香さんがいますから」
ちょっと話の内容が聞いたら駄目なやつだよ! 俺はそう言う話は困る!
んでもって今日は二人にとって大事な日だし!
何となくさっきの話は濁し、目的のお店に到着した。男が1人で買いに行けって言う人もいるけど、ペアリングは二人で決めたいんだよ。
聞いていた通り貴族御用達のお店だ。店の内装がいちいちうるさい。まぁ宝石はチャラチャラしないだろう。
「いらっしゃいませ。本日などの様な物を」
「はい。えっと。2人で指輪を選びに来ました!」
「え? お二人ですか?」
「速水君。ちょっと良い?」
店員さんが不思議そうな顔で喋ってる時、静香さんが耳打ちしてきた。
どうやらこの世界って結婚指輪とか無いらしい。女性も男性も指輪はするけど、マリッジリングはしないんだって。
そこで俺はどう言う意味で付けるのかを力説した。すると店員さんは店長を呼びに行き、同じん話をさせられたんだ。
「成程! それは良い話を聞きました。速水様の世界では当たり前の習慣なのですね!」
「は、はい。あれ? 俺って名乗ってませんよね?」
「私共も商売に身を置くのですから、お客様の事は調べております。それに速水様は特に有名な方ですし」
「え? そんなつもりはないんですけど」
それからは店の店員さんに色々と勧められた。でも普段から身につける物だし、出来るだけシンプルなデザインが欲しい。
そこで俺は銀の指輪を選んだ。本当はプラチナとかが良かったんだが、この世界には無いしね。金も捨てがたかったんだけど、静香さんが銀の方が好みだった。
静香さんの指輪にはダイヤの様な宝石を加工してもらう。見た目的にはそう見えるんだが、ちょっと分からないみたい。
「それでは6日程頂ければ、確実にお渡しできますので」
「分かりました。ではその日程で取りに来ます」
こうして俺と静香さんの結婚指輪は注文された。心なしか気持ちが引き締まった気がする。
後は仲間達にちゃんと報告しなければならない。
「じゃあウェックウッドに戻って皆に報告しましょうか」
「そうね。ちょうど今日専務達も来るんだったよね?」
「専務と部長も今日の夜には来る予定ですよ。ほんとは社長に報告したいですけどね」
田中社長には本当にお世話になったし、ここまで育ててもらった恩もある。ちゃんと帰って二人で報告しなければ!
そんな会話をしながらウェックウッドの宿屋へ戻った。
◇◇◇
その夜、俺達二人は先ず専務と清水部長へ結婚の報告をした。2人はとても喜んでくれたよ。
専務なんか泣きながら祝福の言葉をくれたんだ。専務にとって息子と娘みたいなもんだってね。
「ありがとうございます! 未熟な二人ですがこれからもよろしくお願いします」
「ああ。こんな世界でも嬉しいよ。それに二人の結婚となると本当に嬉しい」
「速水、中村。帰ったら親にもちゃんと報告するんだぞ。特に娘さんを......」
ここで清水部長のスイッチが入った。自身にも娘さんがいるらしく、自分に重ね合わせちゃったんだよ!
部長の娘さんの旦那さんになる人はきっと大変だろうね。
「清水君。その辺にしておきなさい。それで二人は結婚式はどうするんだ?」
「専務。それなんですが......」
俺は自分の考えを伝えた。専務は少し考えた後、快く了解してくれた。
そして次の日の朝ご飯の際、二人で皆に伝えたんだ。
もうその日は皆からの祝福の嵐だったよ! 俺は男連中に頭を叩かれるし、朝から飲まされる始末。
静香さんも女性陣に色々聞かれてた。まぁこれも仲間からの気持ちだと思おう。
「はいはい。ほんなら二人の結婚式の計画を立てるでぇ!」
「篤さん! それなら私に考えが!」「ちょっと私も考えるよ!」
何故か田村と倉木さんが率先して計画を話しだした。そこに安田さんも。
結婚式自体は教会でやるつもりなんだけどね。マリアさんが何故かやる気なんだけど!
それならトミ-神父呼ぶかな? とか考えながら俺もちゃんと話に参加した。
もうここぞとばかりに祭りでもする勢いだ。
そして俺と静香さんの結婚式の準備が着々と進んでいった―――
もうかなりの月日が流れていた。この世界で結ばれる二人。
次話は二人の誓い。