新しい娯楽
速水達がルシャの街から戻って、更に半年が過ぎた頃。
ようやくファインブル王国の流通も整って来ていた。道路工事も進みレールは王都まで繋がっている。
この間にも発電設備の建設は進んで居るが、まだ完成までは暫くかかる見通しだ。
この世界で電力がとても喜ばれている一つに、今までなかった夜間の営業がある。アルメリアやサリファス、そしてスレイブ王国では夜間営業の店舗が賑わっているのだ。
それに対してハ-メリック帝国は未だ夜の店舗は少ない。まだ治安が安定して居なんだってさ。
「この国も夜に出歩ける場所があればええのになぁ」
「まぁ電力設備が無いと難しいだろうな。ランプかロウソクも良いんだけど」
「部屋飲みもええけど、やっぱり外で飲む酒はまた別もんやからなぁ」
「田村ってそんなに飲まないだろ?」
「酒に酔いたい時もあるんや! グランベルクが懐かしいんや!」
あはは。田村の言いたい事も分かるけどさ。グランベルクなら今頃専務や部長が飲みに行ってるだろうな。エ-ルもよく冷えた物が出るし、街の大人が集まるから楽しいしな。
「日本のビ-ルが懐かしいわ! こんなぬるいエ-ルは飲めたもんやない!」
「そう言いながら酔うまで飲むなよ。倉木さんと何かあったのか?」
「愛さんとは上手く行ってる。仕事も忙しいから二人の時間はあんまり無いけど!」
「ならなんだよ? 店の方も忙しいんだろ?」
「なんて言うかなぁ。おもろないんや! ストレスたまってるんや!」
ストレスが溜まるのも分からなくはない。この世界もこの国も娯楽が無い。テレビも無いしなぁ。
カードゲ-ムもあるんだけど、もう飽きたんだよな。まぁこの国でも売れてるけど。
何か新しい娯楽も考えないといけないな。と言っても俺も趣味が少なかったから、何が良いか想像もできないんだけど。
◇◇◇
この国に来てから6日に1日は休む事にしている。落ち着くまでは週一の休みしか取れないけどね。
この街の住人も特定の休みって無かったんだよ。王様が変わる時とか、飢饉で仕事が無いとかじゃ無いとね。
それを俺達が来てからカレンダ-を作ったんだ。週6日制の5週でひと月。ひと月30日だからさ。
最初の3ヶ月は慣れない人が続出したけど、身体を休める事に慣れた今はちゃんと休日として成り立っている。
この世界は子供も働く事が当たり前だったけど、学校も出来てとても楽しそうにしているよ。
「大人も子供も楽しめる物って何なんだろうなぁ」
「速水君。どうしたの?」
「静香さん。この国にも娯楽になる物が欲しいなぁって」
「うーん。娯楽かぁ。大人だとお酒飲むところぐらいしか思いつかないわね」
「ですよねぇ。いっそ遊園地的な物を作って貰おうかなぁ」
「でも電力が無いと遊具も難しいんじゃないかなぁ。ただの公園なら良いけど」
「ですよねぇ。やっぱり電力が無いと難しいですよね」
俺と静香さんが話していると、そこにやって来た安藤兄さん。俺達の話は聞いていた様で、面白い提案をして来たんだ。
「ならアスレチック公園とプ-ル作ったらどうだ?」
「え? アスレチック公園?」
「木と鉄で遊具は作れるし、子供ならジャングルジムでも喜ぶだろ? 大人もアスレチックで身体動かしたら楽しいぜ」
「確かに面白いかもしれませんね。それに暑い日にプ-ルもいいですねぇ」
「ああ。海は波が荒いし泳げないが、プ-ルなら安全だろうしな。どちらも怪我をしない様に注意は必要だけどな」
俺はこの案をメロ-宰相に提案する事にした。予算の関係もあるし、国から補助が出れば新しい仕事にもなる。
健康的な娯楽なら他の国にも勧められるよね。そのモデルがこの国に出来れば良いんだけど。
◇◇◇
俺は静香さんと一緒に王都へ向かった。安藤兄さんはこの件を蓮見さんに伝えておくと言ってくれた。実際に計画が動き出せば、職人さんたちの負担が増えるしね。
そして王城へ着いた俺達は、会議室へ通された。勿論、事前にアポは取ってます。
「速水殿、どうされたのだ?」
「メロ-宰相、お忙しいところすみません。実は提案がございまして」
「ん? 何か新しい提案だろうか?」
「ええ。実はですね......」
そこから今回訪問した理由を説明したんだ。するとメロ-宰相は乗り気になってくれた。
メロ-宰相自身も身体を動かす事は好きだが、運動と言っても走るぐらいなんだそうだ。兵士たちも訓練以外で身体を動かす事も無い。
早速、国の会議で予算を組んでくれると快諾を得た。後は土地の確保と工事の正式な計画書を提出する事になった。
土地の方は国に抑えてもらうのだが、細かな事は蓮見さん達と打ち合わせなければならない。
「じゃあ帰ったら蓮見さんと打ち合わせします」
「なら私は愛達と水着の製作を打ち合わせるわ。素材やデザインも考えて貰わないと」
「そうか。男性用も作って貰わないと駄目ですね。流石に下着では厳しいですし」
「そうね。速水君でも下着はちょっと」
そんな会話をしながら静香さんの水着を想像していた。直ぐにバレて怒られたけど(あはは)
街に戻った後、蓮見さん達と打ち合わせを行った。アスレチック公園で使う資材や職人の手配。そしてプ-ルの建設と総合デザインなど。
蓮見さんも今回かなりやる気な様だった。アウトドア派の工場メンバ-が、既に遊具の案を出しているらしい。大人も子供も楽しめる遊具がどんな物か気になるよね。
一方で水着の方も打ち合わせは進んでいる。水泳の文化が無かったこの世界でも、入浴の際に着る物はあったらしい。その素材を水着に活かしたいと張り切っているようだ。
それを聞いてまたもエッチな想像をしてしまった。どうやら俺もストレスが溜まっているらしい。
そうストレスが......。
◇◇◇
この話が出てからちょうど3か月後、隣のウェックウッドと言う街に建設が決まったんだ。ちょうど畑として使えなくなった土地を活用するんだって。
元々畑があった場所なので、水路もあるんだ。建築の条件的には最高の立地だよね。
中央にプ-ルを作り、その周りがアスレチック公園になる予定。
果たしてこの建設計画でどの様な施設が出来上がるのだろうか―――
身体を動かすって大事ですよね。健康維持にもストレス発散にもなる施設。
さてどうなることやら。