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会社ごと異世界に転移してしまったが、うちの社員は商売上手だった件  作者: 早寝早起き
変化する国々編(ハーメリック~ファインブル・グ-テモルゲン)
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速水に迫る影

順調に開発が進むレイドの街

 レイドの街を中心としたファインブル王国の開発も既にひと月が経過した。


 心配された襲撃や良からぬ事を考える人間との接触も無く、順調だったんだ。


 俺もこの時は危機感が薄れていたと思う。そんな日常は一つの綻びで崩れる物だとは知らず......



「今日も疲れたわぁ。新しい店の準備は何回やってもしんどい」


「田村、お疲れ様。それで間もなく開店できそうなのか?」


「篤さんも頑張ってるものね。私の方も新作も揃えないと」


「愛、裁縫工場はどうするんだっけ?」


 一日の終わりに食事を取りながら、こう言った会話を毎日している。情報の共有やストレス発散の一貫としても良い事だと思う。


「ん? 中村さんと花崎さんは居らへんのか?」


「ああ。今頃お風呂に行ってるんじゃないかな。ほら安藤さんが浴場を作ってただろ?」


「はいはい。もう出来たんかいな。やっぱり兄さんは仕事が早い!」


 下水道工事の傍らでこの街にも公衆浴場が作られる事になったんだ。やっぱり風呂は無いと困るよね。


 特に女性達は風呂の無い生活は駄目だと懸命に訴えていたし。


「ああそれなら私達も後で行こう。恵たちも誘わないと」


「愛、それなら裁縫工場に寄って声掛けないと。もうそろそろ帰って来るとは思うけど」


 倉木さんや安田さんもお風呂には目が無いようだ。その会話を耳ダンボで聞いている、田村の顔が放送禁止だけど。


 この街も徐々に発展の兆しが見え始めた。ファインブル王国が特に欲しがっているのは、発電設備らしい。その為、蓮見さんと来栖さんが王都へ向かい打ち合わせを重ねているんだって。


「それなら皆で行きましょうか。暗くなってきてるしね」


 俺と田村も倉木さん達の護衛代わりに一緒に行こうと提案した。だから田村! 顔がきもいから。






◇◇◇





 新しく建てられた公衆浴場は既に凄い人だった。ちょうど仕事終わりの職人さん達と、バッティングしてしまったようだ。


「あちゃー、これはいっぱいだな」


「ほんまやなぁ。男風呂はちょと待たなあかんなぁ」


「あら残念ね。じゃあ私達はお先に♪」


「安田さん、殺生やぁあああ」


 別に一緒に入りわけでもないのに。田村は最近特に、倉木さんと言う存在に依存している気がするなぁ。もしかしたら異世界での生活がストレスになって居るのかも知れない。


 毎日が忙しく目の前の事に一生懸命な分、自分の事が見えていないと思う。俺も少し客観的に考えられる様になったのが、あの事件以降からだしな。あの事件でこの世界の理不尽さを味わい、自分自身を見直すきっかけになったんだ。


 こう言う事は一度会社の方にも相談するべきだろうな。頼れる専務や部長、それに女性なら浜岡さんもいるし。人生の先輩方にカウンセリングしてもらうのも良いかもね。


 その後しばらくして無事に入浴を終え、宿に帰った。女性陣は既に帰っていたよ。



「あら速水君遅かったのね」


「静香さん、お疲れ様。男風呂がめちゃくちゃ混んでて」


「あの時間帯は仕事終わりだもんね。あっ! そのお風呂で男の人に声掛けられたんだけど」


「何ですって! ナンパですか?」


 何だと! 俺の静香さんに声を掛けるなんていい度胸してるじゃないか! 


「ちょ、ちょっと速水君? どこ行こうとしてるの?」


「静香さん、ここは教育的指導をですねぇ」


「ま、待って! 勘違いしてるから! その声を掛けて来た人は、速水君に用事があるみたいだったの!」


 え? 俺に用事? 何か仕事関係の知り合いか? 俺はこの時その程度の認識だった。


「えっと私も速水君がお風呂に来てるの後で知ったから、流通管理組合支部の建物を教えておいたんだけど」


「そ、そうですか。はぁ。何処かの商会の人かもしれませんね。明日事務所でも聞いてみます」





◇◇◇




 

 コンコン!


 その夜、俺の宿泊する部屋の扉がノックされたんだ。


「は、はい。どちら様ですか?」


 時計が手元に無いから時間が分からないが、夜中だと思う。一体こんな時間に誰だ?


 まさか静香さん?! ってそれは無いはずだ。女性とは階を分けて泊まっているしな。


「速水様。夜分に申し訳ございません。少しご報告がございまして」


「その声は、エイシャさん? どうぞ入って下さい」


 エイシャさんと言うのは、ミネルヴァ様配下の暗部の人だ。主に俺達の護衛を務めてくれている。


 この人が来たって事は、何か問題が発生したんだろう。


 エイシャさんは歩く時に足音がしないから怖いんだよね。気が付いたら横に居るから何時もビックリしてしまう。


「では失礼して。実はうちの者の報告で、この国の貴族に怪しい動きがある様なんです」


「それってうちの社員が危険に(さら)されるって事ですか?」


「いえ。どうも速水様個人に興味がある様なのです」


 え? 俺? 俺なんか特別な事何もしてないよ? 特に人より知識がある訳でもないし。


「詳細はまだ不明なのですが、他国での活動等も調べている様でして」


「それは俺個人の事を調べてるって事ですか? 他国と言うとこれまで活動してきた国ですかね?」


「はい。そうなります。調べている内容が速水様が行ってきた事柄の様ですし」


 そうなんだ。特に調べられて困る事も無いんだけどなぁ。ん? そうなると静香さんに接触して来た人物も怪しいのか?


「エイシャさん。実は今日何ですが、うちの社員を通じて接触して来た人物がいるんです。もしかすると関りがあるかも知れません」


「そうですか。この国の貴族の手の者の可能性もありますね。分かりました。私共も調べてみます」


 エイシャさんはそう言うと、また足音をたてず部屋を出て行った。一体俺に何の用事があるんだろうか?


 そう疑問に思ったが、エイシャさん達が動くなら任せようと思い寝た。あまり考えすぎても良い事無いでしょ?







◇◇◇






 翌日、組合支部に顔を出すと、職員の女性からメモを渡された。そのメモにはアルタ-商会のファウスタ-と言う名前が書いてあった。俺はこの名前を見た時、あの出来事を思い出した。



 そう、タオカが亡くなった事件に関わっていた人物の名前だったからだ―――



速水に迫る影の正体はあの事件の関係者?


速水にとって忘れられない事件はまだ終わって居ないのだろうか?

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