加わる仲間と不穏な噂
先ずは情報集から始めたんだが......
レイドの街で情報収集に励んでいた時、王都からメロ-宰相が街の領主と共に現れた。
この街の領主は、クレイトン・レイド男爵と言う人で、見た目は文官と言っても可笑しくない人だった。
「初めまして。私の事は気軽にクレイトンと呼んで欲しい。あなた達に会うのを楽しみにしていたよ」
「お初にお目にかかります。信頼雑貨の速水 慎一です。暫くの間お世話になります」
「おほほ。速水殿お久しぶりですなぁ。ワシも楽しみにしておったぞ」
「メロ-宰相様もご無沙汰しております。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません」
この後、他のメンバ-の挨拶も終わり今後について話をした。ファインブル王国が一番期待しているのは、やはり俺達の持っている知識だったよ。勿論、生活水準の改善も含めてだが。
メロ-宰相とは開発工事をレイドから順番に王都へ向かって広げて行く事で同意している。
今回の訪問はその確認と予算についての話をしに来たんだ。元々ファインブル王国は作物の品質改良が盛んで、その改良された作物は他国へ輸出されていた。
この話には間宮さんも非常に興味があり、クレイトン男爵とその話で打ち解けていたよ。
そしてこの国で作物以外の分野についても、信頼雑貨と協力して開発して行く事になった。
◇◇◇
そんな宰相の来訪から1週間後、レイドの街に信頼雑貨の増援が到着した。
そのメンバ-は工場部門の長である蓮見さんを筆頭に、これまで開発を行って来た国々の職人も大勢やって来ていた。後は花崎さんの同僚である経理部門から数名と、各部署から俺達の補佐をする人員だ。
そして品質管理部門から岡田さんと2名程研究員もやって来ている。
「お久しぶりです蓮見さん。大人数ですね」
「おお速水か。ようやくハ-メリック帝国からファインブルに向けてレ-ル工事も始まってな。道路の整地も凄いスピ-ドで進んでいるから、俺はこっちへ来たんだよ」
「職人さんもかなり育って来たんですねぇ。蓮見さんのお弟子さんですか?」
「ん? まぁそうなるな。俺がファインブルへ行くと言ったら、各地から集まって来てな。工事の指揮を任せられる奴もいるぞ」
確かに精鋭揃いに見えるよ。蓮見さんがどれだけ慕われているのかも、話しかけている様子で分かる。
「それで? 何時ものように環境整備から始めるのか?」
「来栖さんとの打ち合わせではそうなりますね。とにかくこの土埃を何とかしたいですし」
「そうか。なら、先に指示しておこう。そう言えばあのメ-ガン様って凄いな。ちょっと俺でも引いてしまった」
「あはは......あの人は色々と凄いですから」
蓮見さん達もメ-ガン様の洗礼は受けたようだ。この世界の人でもびっくりするぐらいだから、日本人には刺激が強くて当たり前だな。
「メ-ガン様って教皇様だろ? なんか工事の事とか鉄の製造なんかも聞かれたんだが?」
「あの人も研究者みたいなんですよ。色々と興味津々だって言ってました。それにこの国の国民性も勤勉って感じですし」
「そうか! なら教えがいがありそうだな」
工事の方は道路工事・下水整備は何時もと同じように進めて行く。ただこの街には職業専門学校と学校も建てる事になった。
この方針は既にメ-ガン様やメロ-宰相とも話をしていて、一般国民からも才能のある人材を育てる目的だ。一部貴族からの反発もあるようだが、その辺は宰相とメ-ガン様に丸投げした。
道路工事に使用する鉄資材は、ハ-メリック帝国の工房からこちらへ手配している。元々鉄を扱う商会が多かったので、帝国の開発時に来栖さんと草薙さんが技術を教え込んで居たらしい。
「それにしてもこの国でアスファルトが手には居るとは思いませんでしたよ」
「そうだろうな。アルメリアで情報を取って居た時に、この国から取れるって聞いていたんだ。それと興味深いのは硫黄だな」
「硫黄ですか? 硫黄なら他国でも手に入るでしょ?」
「ちょっと大きな声では言えないが、例の火薬製造にこの国が関わってるんじゃないかって噂があってな」
その話に俺はあの出来事を思い出していた。俺にとっては忘れられないからな。
しかし火薬の製造にこの国が関わっていたとするなら、注意が必要だ。
「蓮見さん。もしそうなら皆に注意喚起をお願いします。実はこの国に来るまでに襲撃がありまして」
「何?! 本当か! 大丈夫だったのか?」
「ええ。襲撃自体は護衛の方のお蔭で怪我人も出ませんでした。でもそうなると......」
俺は蓮見さんを皆から離れた場所に移動してもらい、危惧する事を話した。注意する事は襲撃もあるけど、それ以外にもあるんだよ。
それは武器に転用できる技術だ。以前から俺達は武器は作らないと決めている。しかし強引な手段が取られる危険性もある。
「なるほどな。速水が心配するのも分かる。俺達が拒否しても人質なんか取られたらたまらないしな」
「ええ。もう終わったつもりでしたが、あのような悲劇を繰り返さない為にも注意してくださいね」
◇◇◇
その夜、宿泊する宿屋の食堂を貸し切って皆にも注意を促した。この話は護衛である暗部の方にも話し、ロザヴィア様にも報告を入れてもらう事にした。
「なぁ速水。あのメロ-宰相って人は信用できるんか? 見た感じええ人そうやったけど」
「今の所は良い人ッて印象だけどな。ただ国としての考えは分からないな」
「速水君。その件は私に任せてよ。一部悪い考えの人間知ってるからね」
「え?! ミ-ガン様?! 何時の間に⁈」
一体いつから聞いていたのか、マリアさんを抱きしめてそう言うメ-ガン様。あ......胸に挟まれたマリアさんが苦しそうだ。
「ちょ......ちょっと!! メ-ガンお姉ちゃん! 苦しい!」
「え? ごめんごめん♪ ちょうどいい位置に居たからさぁ」
良い位置って(笑) そのポジションは争奪戦になりそうなんだが。
って痛い痛い! 静香さんのひじが良い位置に決まってるから! 花崎さん?! 足踏まないで!
「わ、悪い人間って中枢の人ですか?」
「速水君。聞かない方が良いわ。あなた達はそう言う世界を知ってると思うけど」
メ-ガン様から表情が消えていた。そうだな。俺達が聞いてどうこうできる訳じゃないな。
皆もその空気を感じ取り、深く考えない様にしたようだ。身辺警備は暗部の人に増やしてもらった方が良いのかも知れないな。
この話の後は田村が空気を変える様に騒ぎ出し、それに合わせて皆で楽しんだ。
心配事はあるけどもやる事は決まってるんだ! さぁ開発を始めよう!
ここに来て嫌な記憶を思い出した速水。悲しい事態にならなければ良いのだが。
次話はファインブル王国の裏に潜む者