マリアの回想その1
今回はマリア視点の回想です
ジュノ-教の教皇となったマリアの目の前には、引っ切り無しに挨拶に来る人間が居た。
自身の教皇就任を祝う為にやって来た人々なので、会わないと言う選択肢は無いのだが。
(心の声)
「もうっ! いい加減に終わらないかなぁ! お腹空いたんだけど!」
知っている人が見れば彼女がプンスカ状態なのは分かるのだが、残念ながら周囲は気が付いていない。いつも一緒に居たトミ-も仲の良い静香達も居ないのだ。
目の前で挨拶をしている人々を適当にあしらいながら、ここまでの事を思い出しているマリア。
(回想)
あの日、何時ものように孤児院の家族達と一緒に寝ていた。だがその日は何かが違った。
マリア自身は夢を見ていると思っていた。だって目の前に真っ白な空間が広がって居て、誰一人いないのだから。
「あれ? 何にも無いよ? どうせならご飯とか出てきたらいいのに!」
まるで自身の足で立っている様に感じられたのだが、周囲を見渡しても何もない。普通ならちょっと怖くなりそうなものだが、マリアにそう言った感情は湧いてこなかった。
〝マリア。聞きなさい〟
「え⁈ 誰⁈ アナマリアお姉ちゃん?」
〝違います。私はジュノ-。貴女は私の分身〟
「分身って何? 意味わかんない!」
残念な事にちょっと天然なマリアは、この状況でも驚いては居ない。それどころか相手が女神であることも分かって居ないのだ。
〝今はわからなくていいわ。貴女は明日1人の男性に会う事になります〟
「何で? 男の人? 誰の事?」
〝貴女はその彼に導かれる事になるでしょう〟
「はい? ちょっと分かりません!」
初めての女神のお告げはこれだけだった。ふいにその白い空間は無くなり、次の瞬間お腹の重みで目が覚めた。
「マリア姉ちゃん! 起きないとクリスタお母さんに怒られるよ!」
「フぇ?! って重いよ! わかったからどいて!」
教会の孤児院では見慣れた光景である。ちょっと朝の弱いマリアは、毎朝ちびっ子たちに起こされていた。
「クリスタ姉、おはよ-」
「マリア、いい加減自分で起きなさい! ほら! ちゃんと顔洗ったの?」
寝ぐせもそのままで食堂に入って来たマリアに、クリスタの雷が落ちる。
「お母さん、早く食べたい!」「早くお祈りしようよ!」「早く-!」
「はいはい。マリアも早く席に着きなさい」
騒がしく朝食をとりみんなで片付けを済ませた後、マリアは何時ものように教会へ向かった。
朝ご飯を食べた事で昨日の夢などさっぱり忘れていたマリア。だが教会に訪れた2人の男性と1人の女性を見た瞬間、頭に昨日の言葉が蘇って来た。
〝貴女は明日1人の男性に会う事になります〟
だったよね? でも3人いるんだけど? しかしその疑問も話しかけて来た男性を見た時に、確信に変わった。何故ならその男性が放つオ-ラのような光を感じたのだ。
その彼は速水と名乗った。彼らは領主様の紹介状を持って現れ、何やら不思議な事を言う。話も出来て文字も読めるのに、書けないと言うのだ。
文字は書けないのに何で読めるのよ! と心の中で突っ込んでいた。しかし話を聞いているとかなりの人数に教えるらしい。でも教会の仕事もあるし、クリスタ姉にも相談した方が良いかも?
それとなく断るように話を進めていたが、それを見越していたのか速水が提案を持ちかけて来た。
何か建物の大きな部屋で教えて欲しいんだとか。ちゃんとお布施も貰えるんだって! しかも金貨! もうビックリしたよ! 金貨だよ? この人達すっごいお金持ちなのかなぁ?
やったぁ! クリスタ姉に自慢できる! 私だってやれば出来るんだから!
もう嬉しすぎて踊っちゃいそう! あ......何か笑われた......
速水達が帰った後、クリスタ姉に報告した。
「へぇ。そんな人が居るのね。そう言えば何か街のすぐ外に大きな建物? とか言ってたわね」
「え? そうなの? そう言えばそんな事言ってたかも!」
私が差し出した金貨を大切にしまうと、クリスタ姉は頭を撫でてくれた。いつまでも子供扱いされたくないんだけど、クリスタ姉の手は暖かいんだよね。あれ? 暖かい?
クリスタ姉の暖かい手の感触で、先程会った速水の事を思い出した。夢の事言った方が良いかも!
「クリスタ姉、昨日夢でこんなことがあったの!」
マリアの夢の話を聞いていたクリスタは、何時もと違い難しい顔をしていた。
「そう。貴女もなのね」
「え? 何? どうしたの?」
クリスタはマリアの問いかけには答えず、明日からの講師を頑張りなさいと言った。その後、手紙? を持って何処かへ出かけたが、帰って来ても何も言わなかった。
◇◇◇
翌朝、教えられた場所に向かったマリアの目の前には、見た事もない建物があった。
「な、なんじゃこりゃああああ!! 何処からこんな建物持って来たの!!」
周りがドン引きする様な大声を上げた後、ちょっと恥ずかしくなったので走って建物に入った。
中に入ってからも驚きの連続だった。ナニコレ? こんなの見た事無い!
案内してくれた女性も何か髪が艶々してて、綺麗だった。そして向かった先は大きな部屋。
「失礼します。教会から講師の方が見えました」
「花崎さん、ありがとうございます。マリアさん、本日はよろしくお願いします」
その部屋に入ると昨日出会った速水さんが居た。ああ、やっぱりこの人って暖かい気がする。
「し、失礼します? うわぁ!」
威厳を見せようと思い入ったんだけど、無理だったよぉ。だって部屋中机が置いてあって、いっぱい人が居るんだもん! びっくりするなって言う方がおかしいよ!
「皆さん、本日から文字を教えて頂く、シスタ-マリアさんです」
「ど、どうも。マリアと申します。よろしくお願いしましゅ」
はうっ。ちょっと緊張しちゃったよ! でも何だろう? この人達優しそうだな。
この後は普通にお勉強会が始まったんだけど、凄いんだよ。こんなにいっぱい人が居るのに、みんな集中して聞いている。孤児院の子供達なんて、絶対1人ぐらい寝てるのに!
この勉強会は朝からお昼までと、昼からの2回。午前中の授業が終わった後、速水さんからお昼を食べないかと誘われたんだよ。正直、お腹が鳴りそうだったから喰いついちゃった。
一緒について行った食堂って言うところも凄かったんだよ。高そうなテ-ブルに良い匂い。
どんな美味しい物があるんだろ? キョロキョロしてたら、おススメはカレ-って言われたんだ。
このカレ-がまた美味しいの! おかわり自由って言われたから必死で食べたよ! でね、何と! 翌日早く来たら朝ご飯もここで食べて良いんだって! 絶対早起きして来なきゃ! って心に誓ったんだ。
この日から速水さん達と一緒に過ごすようになったんだけど、毎日楽しすぎてビックリだよ。
私の話を聞いた幼馴染のトミ-も半信半疑で手伝いに来た。トミ-もご飯のあまりの美味しさにビックリしてたね。孤児院の子達が皆行きたがってたけど、一応お仕事だからごめん。その代わりに大きいおっちゃんが、皆にクッキ-とかくれたりもしたんだよ。
後一番びっくりしたのが、お店なの。なんか可愛い上着着て、見た事のない品物いっぱい! 私のお気に入りは法被って言う服? 背中に何か書いてあるんだけど、そのまま貰っちゃった。
そんな日が続いていたある日、またあの白い空間が夢に出て来たのよ!
〝マリア。貴女の大切な場所を守りなさい〟
「へ? 守る? 誰から?」
このジュノ-って人。多分女に人なんだけどね。いつもこんな感じなんだよ!
言いたい事言って終わるの! もう! 何の事なんだろ?
◇◇◇
次の日、何時ものように講義してたら何か入り口の方で騒ぎがあったみたいなの。
速水さんや静香達が王都へ出かけてるから、面白くないと思ってたんだけど。
「ちょっと何事なの? トミ-聞いてきてよ」
「わかったでごじゃる!」
トミ-が近くの人に聞いたところ、何処かの貴族が喚いてるんだって。
〝貴女の大切な場所を守りなさい〟
ピぃ-んと来たのよ! 静香達が居ないなら私が頑張らないと!
この後騒いでる貴族にはっきり言ってやったの! ファリス教が契約しているんだぞって!
真っ青な顔で帰って行った貴族を見て、周りの皆に褒められちゃった♪
トミ-もまんざらでもない顔して「どいたま-!」って言ってたんだけど? どういう意味?
静香達が帰ってきたらいっぱい自慢するんだからね―――
まだ続きます。