マリア教皇誕生 後編
マリアさんの爆弾発言により一時中断となった話。静香さんと花崎さんにドナドナされ、別室に連行されるマリアさんだった。
「これはアカンやつやなぁ。速水ってモテモテやったんか?」
「篤さん。速水さんって人気あるんですよ?」
「そうねぇ。速水さんって朴念仁だから、静香さんも気が気でないみたいだし」
「それを俺の前で言わないでくれる⁈ 何か心に刺さってるから!!」
田村と倉木さんの会話に安田さんが乗っかってるんだけど、俺からどう言って良いのか分からん!
「うふふ。速水様は私達聖女にとっても大切な方ですよ」
何やら妖しい笑顔で追い打ちをかけて来るアナマリア様達。
絶対に遊ばれてる気がする! きっと『導き手』の役割なんでしょ?
暫くしてマリアさんを先頭に、静香さんと花崎さんが帰って来た。静香さん達も落ち着いているし、何か話はついたみたいだけど。
「話は終わった様ね。それでマリアちゃん、ちゃんと話は出来たの?」
「うん。私も自分が何をしなきゃいけないか? これからどうするのかを理解できたの!」
「そう。ならちゃんと自分の口で皆さんにも説明しないとね」
アナマリア様の問いかけにマリアさんが両手をグ-にして答える。ちょっと鼻息が荒いのが気になるけど、それよりもどう言う事なのか早く聞きたい。
「えっと、私がジュノ-教の教皇になるって話はさっきしたんだけど。これから何をしたいかを説明します」
マリアさんはそう言い、皆を見た。俺以外のメンバ-も気になるので頷きだけ返す。
「私はこの後、ジュノ-様の考えをこの世界中に広めたい。その為にお姉ちゃん達の協力は勿論、絶対必要なのは、はやみんなのよ!」
「は、はぁ。マリアさんのやるべき事は、ジュノ-教の布教ですよね。それで何で俺が必要なんですか?」
「私の存在を世界の人が認知する為に、はやみんが必要なのさ!」
左手を腰に当て右手の人差し指を向けるマリアさん。どうだ! っていう顔でそう言われてもなぁ。
「うん。よく分かりません」
「速水様。マリアちゃんの言いたい事は、私達から補足させて頂きます」
ここからアナマリア様が代表で説明してくれたんだけど、この世界で『導き手』として選ばれた俺。
この『導き手』の役割は、この世界の聖女を繋げる事。そして最終的に女神ジュノ-が求める事を成し遂げる事らしい。
俺達がこの世界に転移してくるまで、この『導き手』と言う存在は現れた事がない。そもそも全てが初めてに近い事なので、聖女達もはっきりとどう行動するべきか分からないそうだ。
しかし女神のお告げでは『導き手』が『特異点』を導く存在で、聖女はその補佐するべしというジュノ-様の意志が伝えられている。
「そうですか。未だに何故俺が『導き手』なのか分からないですが。俺が役割を全うする事で、皆が現実世界に帰れるなら頑張るしかないですね」
「速水君。私達も何か手伝うつもりよ。マリアも頑張るって言ってるし」
「静香さん、ありがとう。ちょっと俺には荷が重いですけど、やれるだけ頑張ります」
「速水君、私の事も忘れないでね」
「は、花崎さん? え、ええ忘れてませんよ?」
ん? 何だろう? 花崎さんに何かあったんだろうか?
「とにかく、ここハ-モニック帝国に神殿を建て、正式にジュノ-教を全世界に広めます。その際、マリアちゃんの教皇の就任と『神の御使い』の関係性も広く宣伝します」
「なら俺達も協力しない選択肢はないな」
アナマリアさんの言葉に来栖さんがそう言った。神殿建設も急がないといけないと感じたんだろう。
この話の後、女性達はその場に残った。何やら男性抜きで話があるそうだ。
俺達も何かを感じ、そそくさと教会本部を出る事にしたよ。
「速水、神殿の建設について情報を集めてくれるか? 俺はこの国の職人に話を聞いてみる」
「来栖さん、分かりました。会社にもこの件について手紙を送っておきますね」
◇◇◇
それから神殿の建築について、会社として請け負う事に決まった。ただこう言った建造物の知識は無いので、各国から職人が集められる事になる。各教会の協力があったから、スム-ズに話は纏まったんだけどね。
この新たな神殿なんだけど、前皇帝時代の側近の土地が譲られたんだ。帝都の中心部にあって、ミネルヴァ教の本部にも近い。立地的には最高の場所だった。
「まさかこんなに早く色々決まって行くとは思いませんでしたよ」
「確かになぁ。職人も100人近く集まってるし。皇帝選挙よりも注目されてるようだしな」
俺と来栖さんは建設現場を見ながら話をしている。資材も続々と集まっていて、この分なら予定を大幅に短縮できそうな勢いなんだよ。
「速水、皇帝選挙の方はどうなってるんだ? もうそろそろ投票始まるんだろ?」
「そうですね。立候補者達も各地で選挙運動やってましたよ。誰が当選するにせよ、最初は大変でしょうけどね」
降って湧いた今回の話で、皇帝選挙の方は積極的に関与してないんだけどね。情報は色々と回って来るから、どの陣営が優勢なのかは聞いている。
「この国の他の工事もそれなりに順調だし、蓮見さんもこっちに来るらしいな」
「ええ。グランベルクはもう他の社員に任せて、こっちに戦力を集中するって聞いてますよ」
沢田専務や清水部長も帰りたい気持ちは同じだ。会社の建物が無ければ、全社員がこっちに来ても良いんだけどね。
「蒸気機関車の運行が始まったから、ここまでの移動もかなり楽になったしなぁ」
「現地社員もかなり増えましたから、蓮見さん達以外の社員もこっちに来るんじゃないですかね?」
これまで開発を行って来た国々で多くの現地社員を雇って来た。その社員達も日々成長しているし、店舗運営も任せられる様になって来た。
「後は現実的に帰れるとなった場合の話だな。職人の中で残りたいって言い出した奴もいるんだよなぁ」
「独身者でそういう社員がいるって聞きましたよ。大人ですから各自の考えもあるんでしょうけど」
この世界に来てから各自が頑張って来た。その中で出会いもあったんだろう。
まだ先は長いが、最終的に重い判断も迫られるんだろうか?
速水も来栖もこの件は一旦棚上げした。まだ確実に帰れると決まった話では無かったからだ。
ジュノ-教の神殿は、約半年後完成することになる。
そして初代教皇にマリアが就任し、各教会を通じその存在が伝えられた。
マリアの就任時、その周りには聖女達と速水達の他に帝国新皇帝も居た。
「ルーベンス教皇、此度はご就任おめでとうございます」
「ありがとう。貴女も新皇帝として頑張ってるんでしょ?」
「はい。国内がまだ安定してませんが、側近が皆優秀ですので」
マリアと話をしているのは、帝国の新皇帝、メリア・ハ-モニックだ。今回の皇帝選挙では5人の候補者の中で最年少の21歳。そして初の女帝となったのだ。
選挙前はジュリアス元王子やリンデラ伯爵が優勢と思われていたのだが、彼女の積極的な選挙活動が思わぬ結果をもたらした。
彼女は新皇帝就任後、今回の選挙で敗れた候補者を要職につける。そうする事で無駄な軋轢を生む事無くしたのだ。
「この世界にジュノ-様の祝福がありますように」
マリアは就任の挨拶をこう締めくくったのだった―――