賑やかな日常とこの国の貴族について
外壁工事もはじまりました
次の日の朝、ライアン男爵の使者がやって来た。午後から会いたいと言う内容だったので、人選は沢田専務に一任したのだが、何故か俺もメンバ-に入っていた。これまでは男爵に営業するという事で、同行していたんだよね。決まったメンバ-は、清水部長、高橋課長、倉木さん、花崎さん、そして俺だ。販売部1名、営業部2名、総務部1名、経理部1名という人選だった。営業するつもり満々だな。それはさておき、今日は朝から外が騒がしいと思っていたら、外壁に金網を付ける作業が始まったようだ。ラ-グ商会から必要な資材を仕入れ、工房スタッフとナダル商会の職人が協力して取り付けをしている。どうやら工房のスタッフが、技術指導も行っている様だ。しばらくの間は、取り付けの音が響き渡るんだろう。
文字の習得も、大半の社員が簡単な書類なら作れる程度になった。講義は1日1回になり、空いた時間に露店へ同行する社員も増えた。マリアさんとトミ-神父は、好きにしてもらっている。なんだかんだで社員の人気者だし、教会関係者がいることで抑止力にもなるからね。そんな二人は今日も朝から元気だ。
「これおいひぃ-! ちょっとトミ-、これ私のだから!」
「何を言うでござる! それは私が取って来たのであ-る!」
「ちょっと、喧嘩しないで。ほら、私の分あげるから」
「静香! かたじけないでござる。遠慮なく頂きまする」
毎朝、このテンションだもんね。大半の社員はもう慣れているが、最近食堂に来た護衛の人間たちは皆驚いている。だってシスタ-と神父ってそんなイメ-ジ違うよね。そんな事を思いながら田村と談笑しながら食事をしていた。
◇◇◇
「静香、おはよう」
「あら千鶴、おはよう。食堂で会うの久しぶりじゃない?」
「ええ、普段はもう少し早いのよ。今日は朝から来客が続いたから」
「そう言えば、男爵の関係者が来ていたわね。何だったの?」
「何か分からないんだけど、ちょうどいいから私も挨拶に伺おうと思って」
「珍しいじゃない、千鶴が自分から動くなんて」
「ちょっとね。面白い人選なのよ、今回は」
「え? 同行者誰なの?」
「私と清水部長、高橋課長に倉木さん。それに彼よ」
「彼って? 何よニヤニヤして。……わかった、速水君ね」
「へぇ、わかるんだね。静香のお気に入りだもんねぇ」
「ちょ、ちょっと! 聞こえるじゃない!」
「あら-? 図星だっただ? 私は、誰か言って無いから。静香って面白いわ」
「もう! 千鶴は昔から意地悪だよね。」
そんな会話をしているなんて知らない速水君。実は、両想いだったんだね。爆発すればいいと千鶴は思った。実は、千鶴も速水に興味が湧いていたのだ。早い者勝ちって言葉もあるのよ静香……。
◇◇◇
朝食をとった後、護衛2名と共にライアン男爵の屋敷を訪れた俺達一行は、いつもの応接室へ招かれた。
「急にすまないな。私の方でも色々あったもんで、呼ばせてもらった」
「いえ、とんでもございません。本日初めてお顔を拝見する者もいますので、先にご挨拶を」
「初めまして。信頼雑貨株式会社の倉木 愛と申します」
「同じく、信頼雑貨株式会社の花崎 千鶴と申します」
「ほう、やはり多くの人材を抱えている様だな。優秀そうだ」
「そう言って頂くと恐縮です。それで、今日の話とは?」
「うむ。まずは先日クラ-ク伯爵に作ってもらった名刺は、非常にお喜びになった。クラ-ク伯爵から金貨100枚預かっておるから帰りに持って帰ってくれ」
「それは、良かったです。しかしそれ程の大金よろしいのでしょうか?」
「ああ、それには事情もあるのだ。クラ-ク伯爵もアリスト伯爵との対立で優位に立ちたいのだ。そなたらは、この国の今の貴族の派閥について、どの程度の情報を得ているのか聞きたい」
「貴族の関係については、ライアン男爵からお伺いしたお話以上の事は知りえません」
「そうか、なら丁度いいな。それでは説明していこう……」
この話の前に、花崎さんと倉木さんは別室に招かれた。どうやらライアン男爵の奥様であるマリアンヌ様に呼ばれたようだ。女性2名の同行はこの為だったのだろう。ライアン男爵の話はこのような内容だった。
下記でもわかるように2公爵、1侯爵、2伯爵、1子爵、2男爵とバランスは良くなっている(準男爵、士爵、辺境伯は除く)。公爵同士の仲、伯爵同士の仲、男爵同士の仲は非常に悪い。どちらかの勢力に完全に別れてしまうと貴族同士で内戦になりかねないので、侯爵と子爵は中立の立場になっているんだ。そこで、クラ-ク伯爵が、俺達の作った名刺に注目したらしい。クラ-ク伯爵はサダラ-ク公爵派なんだが、エルモンド侯爵とゼットバ-グ子爵に名刺をプレゼントできないかと言う話になったそうだ。商売の話は良いのだが、貴族の争いには関わりたくない。だが仕事としては断る事が出来ないので、そのあたりの話をクラ-ク伯爵にもお願いしてもらう条件で、名刺作成を受けた。この事が予想外の騒動になる事は、この時誰も想像できていなかった。
★アルメリア王国★
国王⇒ジョ-ジ・アルメリア 王妃⇒クリステラ・アルメリア
王子⇒ブルック・アルメリア 王女⇒セラフィア・アルメリア
公爵⇒サダラ-ク、ハ-モニック
侯爵⇒エルモンド
伯爵⇒クラ-ク、アリスト
子爵⇒ゼットバ-グ
男爵⇒ライアン、レオナルド
異世界の貴族は大体仲悪いという決めつけ(笑) 次話も男爵との話からです。