絆(きずな)
傷心の速水。まだ現実を受け入れられないでいた
タオカさんが亡くなった事で、かなりのショックを受けていた。
しかしこの件も仲間に伝えたい気持ちがあり、何とか切り替える事を優先したんだ。
本来なら葬儀に出席するつもりだったのだが、タオカさんはこの国では既に亡くなった存在になっていたんだ。
処刑された皇帝も隠したい事があったのだろう。周辺国ではタオカさんの実績は、文献に乗っていたんだけどね。俺としては同じ転移者として、葬儀ぐらい行って欲しかった。
しかしジャニス様からは葬儀は出来ないと言われ、密葬する事に決まったんだ。
「理由が理由だけに、仕方ありませんね。時間を見つけて、皆と一緒に墓参りに行く事にします」
「速水様はもう行かれるのですか?」
「はい。気持ちを切り替える為にも、皆のいる街へ帰ります」
「そうですか。また何かありましたら、何時でも相談して下さいませ」
ジャニスさんへ挨拶して、馬車へ乗り込んだ。御者さんは来た時と同じ人にお願いしたよ。とっても良い人だしね。
◇◇◇
その頃、静香達の元には騒がしいメンバ-が戻って来ていた。
「マリア! 久しぶりね。見た所元気そうだけど。トミーも変わりないようね」
「静香ぁー! 成分補給なの! クンカクンカ」
「きゃあ! 毎回何なのよ⁈ 匂いを嗅がないで!」
キッチンカーで国中を回っていた3人だったが、マリアが急に静香成分が足りないと騒いだらしい。
「全くあのお嬢ちゃんには敵わねぇよ」
「マリアにはお手上げでおじゃるよ」
岩さんとトミーは、良い顔で笑っている。今回の旅で仲良くなったみたいだ。
田村達は岩さんから国内の様子や、新しい食材等の話を聞かせてもらっている
「静香成分補給かんりょー! ほんとに何時も隣にいないんだからぁー!」
「マリアが勝手に動き回ってるじゃない! それに成分って何なのよ」
「私の元気の源で-す♪ 静香? はやみんも帰ってくるよ。何か悲しいみたいだけど」
「え? 速水くんと会ったの? 彼は今帝都のはずだけど?」
「えへへ。なんか分かっちゃう系? 凄いでしょ?」
マリアは褒めて欲しい犬の様に、頭を出しながら静香に甘えた。言われた静香は頭を撫でながら、悲しいって何なんだろう? と不思議に思っていたのだが。
それから3日後、本当に速水が帰って来た。直ぐに駆け寄った静香だったが、やはり元気が無い様に見えた。
「速水君、お帰りなさい。どうしたの? 何かあった?」
「静香さん。実はタオカさんが亡くなりまして」
速水の返答に他の社員達も困惑する。色々な話をしてタオカの今後についても覚悟を決めていたからだ。それが何故? 突然亡くなる事は想像できなかったのだ。
速水は事実だけを端的に説明した。何者かによって毒殺された事、そして犯人と思われる人物は見つけた書類に関わる事を。
「なんやそれ。ほんなら悪い奴が自分を守るために殺害を企てたんかいな!」
「田村。犯人と思われる人物は、ロザヴィア様達が捕縛してると思う。俺としても帝都に向かう際中に、危篤の連絡を受けたからな。あまりに急な展開で、正直今も受け止められないで居るよ」
「私は今聞いても、なんだか現実じゃ無いように思えるわ。目の前で人が亡くなるなんて、私は耐えられなかったと思う」
田村に続いて静香さんも驚いていた。その他のメンバ-は、言葉に出来ないショックを受けている様だ。
「葬儀などは行われません。密葬して遺体もあの家の近くに埋葬される予定です」
「速水。ご苦労だったな。とりあえず精神的にも疲れているだろう。今日はゆっくり休んだ方が良い」
「来栖さん。ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰いますね」
俺はそう言って宿の部屋へ向かった。俺もこの世界で人が亡くなる事を理解していなかったんだな。初めて襲われた時に、命の軽さを知ったはずなんだけど。
◇◇◇
その夜~
コンコン!
「速水君、起きてる?」
「静香さん? 起きてますよ。ちょっと寝れそうにないですから」
部屋を訪ねて来た静香さんに、部屋へ入ってもらった。恋人同士になってから、出来るだけ2人の時間も大事にして来たんだよ。
ベットに腰掛けた静香さんが、俺の胸に顔を埋める。静香さんもちょっとまいってるみたいだな。
「大丈夫ですか? やっぱり気持ち的にしんどいですよね」
「うん。暫くこうしてて良い? ちょっと現実が受け入れられないんだ」
「俺で良ければ。こうして居ると、俺も安心できます」
俺は暫くの間、静香さんを抱きしめて過ごした。ほんとならムフフな気持ちになるんだけどさ。流石に今日はそんな気持ちにもならない。
「ねぇ速水君。私達本当に帰れるのかな? 帰れたとして、日本も同じ時間が経っているのかしら?」
「必ず帰れるように頑張りましょう! でも静香さんの言うようにそれは心配ですよね。ここと同じ時間が経っていたとして、俺達は行方不明扱いですかね?」
静香さんの疑問はもっともだ。忽然と消えた建物と多くの社員達。絶対大ニュ-スになっているはずだ。そして何も情報が無いままに年数が経っていたとしたら、果たしてどう言う立場になるんだろうか?
一部の社員はこの世界の住人と仲良くなっていて、帰りたくないと言う意見もあるって聞いた。もしこのまま帰れないなら、この世界で生きる事も考えないといけなくなる。
「もし帰れなくても、速水君はずっと一緒に居てくれる?」
「当り前じゃないですか。俺は静香さんから離れませんよ。本来ならプ、プロポ-ズも」
「うふふ。楽しみにしてるね。出来れば日本で結婚式もしたい」
ああ。静香さん大好きです。2人で良い雰囲気になっていたんだけど、さっきからドアの周辺が騒がしいんだ。ほんとに空気読めない奴らだよ!
「もう分ってるから! そろそろ入って来て良いぞ!」
ガチャリ......
「あれ? 気が付いてらっしゃいました?」
「ちょっと押さないでって!」
......ドアの前で耳がダンボ状態だった皆が入って来る。
「お前らなぁ......心配してくれてるのは分かってるんだけどな」
「あははは。バレてたか?」「だから静かにって言ったのに!」「アンタ達が押すからでしょ!」
田村に倉木さんに安田さん。私関係ありません見たいな顔した花崎さん。
ん? 来栖さんに安藤さんまで! って岡田さんも⁈
「ちょっと皆さん?! ほぼ全員いるじゃない!」
静香さんはご立腹だ! プンプンしてる姿が非常に可愛らしい。
色々考える事はあるけど、皆が居れば何とかなる気がする。
「ご心配をお掛けしました。でも皆の顔を見たら、不安も吹っ飛びましたよ。ありがとうございます」
「ほ、ほら! 速水は大丈夫やって言いましたやんか!」
「あら? 篤さんが見に行こうって言ったんでしょ?」「そうね。田村君。面白がってたもの」
「わ、私はついでだったわよ」「俺は何か面白そうだったから?」「来栖さんが引っ張って来たんだ」
「はいはい。分かりました。皆が確信犯だって事は」
そう言う俺に皆が笑顔になる。やっぱり仲間って良いな。皆との絆があれば、絶対帰れるよ。
こうして俺は前向きになる事が出来た。さぁ明日からも頑張らないとな!
帝国での俺達の活動は、気持ちを新たに再開される―――
この会社はやっぱり仲間意識が高い。
きっと誰かが困っていたら、皆で手を差し伸べるはずだ!
少しゆっくりとした開発だが、この事件をきっかけにして動きがあるようだ......