こんな結末は違う
俺は覚悟を持って帝都へ向かう。
帝都へ着くまで、何度も自問自答を繰り返した。だけど今考えている決断は、自分で考えた答えだ。この世界の考えを否定する事に、なるかも知れないけど。
翌日には帝都に到着する所まで進んだのだが、宿泊する宿に訪問者があった。
「速水様。ジャニス教皇よりお手紙が届いております」
「ありがとうございます。何か急用なんでしょうか?」
「私は内容は知らされておりません。至急との事でしたが」
その言葉に不安を覚えた俺は、お礼を言って手紙を受け取った。
〝速水様。至急本部へお戻り下さい。彼の容体が悪化しました〟
その内容に驚いたが、時間がない。本来なら夜間の移動は避けないといけないんだ。だが後悔はしたくない。
馬車に飛び乗り、閉門する前にギリギリ街を出た。まだまだ情勢が安定しない国内を、夜に移動することは危険だ。
「もしも盗賊の類いが出た場合、あっしも責任持てませんよ」
御者の方に無理を聞いてもらったんだ。何かあったら、俺の責任になる。
「すみません。その場合は、抵抗せずに止まって下さい。命の危険を感じたら、逃げてもらって構いませんので」
何も無い事を祈っていたんだが、前方に灯りが見える。ああツキがない。
「速水殿、どうされますか?」
「仕方ありません。止まりましょう。命が大事です」
近くなる灯りに不安を覚えながら、進む。すると10人近い人影が見えてきた。
ああ。最悪だ。これが盗賊なら命の保証がないな。そう思っていたのだが......
「止まれー! そこの馬車。こんな時間に何処へ向かうのだ!」
「速水殿、あれは兵士じゃねぇですかね」
「うん。盗賊では無さそうだね」
馬車を止め、俺は降車した。そこにやって来たのは、鎧を着けた男達。
御者さんには下がってもらい、話をした。
「ご苦労様です。私は信頼雑貨の速水と申します」
「え?! もしや『神の御使い』殿でしょうか? 私、この地域を警備しております、ダハトと言う者であります」
「ダハトさんですね。仰られる通り、『神の御使い』と呼ばれる中の1人です。今、ミネルヴァ教の本部へ急いでまして」
俺の言葉に少し考えた様なダハトさん達。何やら話をした後、俺にこう言った。
「それならば、私共から護衛を付けさせて頂きます。貴方を危険に晒すわけには参りません」
「良いのですか⁈ お忙しいのでは?」
「この辺りは治安が良くありません。このまま進めば襲われていても、不思議ではないのですよ」
こう言われたら断る理由がない。俺は頭を下げてお願いした。兵士さん達はおろおろしてたけどね。
そして王都まで無事に到着したのだった。到着が深夜だったんだが、俺の身分と護衛してもらった兵士の方のおかげで、帝都へ入れたよ。
◇◇◇
そのままミネルヴァ教の本部へ向かい、声を掛ける。驚いた様子の教徒さん達だったが、俺の顔を見て中に通してくれたよ。
そのまま教会裏の施設へ向かおうとしたんだが、少し待たされた。焦って来たから非常識だったかも知れない。
「やはり速水様でしたか。来られると思っておりました」
「ジャニス様、夜分に申し訳ありません」
「良いのですよ。速水様なら何時でも歓迎いたしますわ」
ちょっと艶っぽい笑顔でそう言われると、恥ずかしい。だって男の子だもんね。
ブンブンと頭を振る俺を、不思議そうに見ていたジャニス様だったけど。
「では急ぎ参りましょうか」
ジャニス様はそう言って案内してくれた。俺も流行る気持ちを落ち着け、後に続いた。
◇◇◇
夜間ではあったが、タオカさんの周りには多くの人が居た。かなり衰弱している様で、顔色が悪い。話を聞けば、今日の朝は何の異常も無かった様なのだが。
「速水様。実はロザヴィア姉様から伝言があります」
「伝言ですか? タオカさんに関係あるんでしょうか?」
少し離れた場所に移動して話を聞く。そして聞かされた内容に、俺は震えたんだ。
「彼は毒を盛られた可能性があります。教会内部に何者かの協力者が、入り混んでいる可能性もあるのです」
「何故このタイミングで? まさか解放されて何かを喋ると思ったんでしょうか?」
「その可能性が1番高いようです。今、ロザヴィア姉様が調べてますが......」
何とか出来ないんだろうか? こんな時に医者がいれば、薬を作れる可能性があるんだが。それに一体何者なんだ? 今更、殺してまで隠したい物でもあるんだろうか?
そこまで考えて、自身のカバンを探る。もしかしたら、これに関係があるんだろうか?
「ジャニス様。実はタオカさんが家に隠していた物がありまして。見て頂けますか?」
「隠していた物ですか......こ、これは!」
俺の持ってきた書類を見たジャニス様は、すぐに教徒に何か伝えた。資料を預かりたいと言われたので、即お渡ししたよ。俺達が持っていても、使い道がないしね。日記は必要になるかも知れないが。
俺は邪魔にならない場所で、タオカさんの
様子を見ていた。何度も容体が悪化し、その度に多くの人が出入りしていた。
俺も何か手伝いたかったが、見ている事しか出来なかったよ。明け方まで頑張ったタオカさんだったんだが......
皆の懸命の処置も、タオカさんの命を繋ぐ事が出来なかった。とても苦しんでいたんだけど、最後は眠る様に亡くなったよ。
俺はその姿を見て、この人の人生って何だったんだろう? と思った。突然知らない世界に呼び出され、上手く使われてしまった。利用価値が無くなれば、拘束され拷問を受けた。そして最期も家族に看取られる事も無く、逝ってしまった。
「なぁタオカさん。貴方の幸せって何だったんだろうな。でも何でそんな晴れやかな顔なんだ?」
俺はタオカさんの細くなった手を握り、そう呟いた。自然に涙が出て止まらなかったよ。もっと何か出来たんじゃないか? 何で俺には力が無いんだよ。
暫く泣きながら自問自答していたら、俺の肩に暖かい手の感触があった。
「速水様はお優しいのですね。でもご自身を責めないで下さい。裁きは行われますから」
「はい。彼の無念を晴らして下さい」
落ち着いた後、応接室へ移動した。亡くなるまでの数時間の間に、進展があったみたいだ。
「速水様。今回の件の犯人が割れました。時期皇帝に立候補している、コロイド・ファウスターが関わっています」
「それはあの資料から分かったんですか?」
「はい。ファウスターは祖国を裏切り、帝国内部に影響力を持っていた様です。かなり巧妙で、私達もまさかとびっくりしています。タオカが舌を切り取られていたのは、それを知られたと考えたのでしょう」
はぁ。結局誰かの欲望に巻き込まれたんだな。俺はこんな結末は求めていなかったよ。何も得る物がないじゃ無いか!
下手人となるファウスター卿は、ロザヴィア様の手の者が、捕縛へ向かっていた。
タオカさんのご遺体は、タオカ邸の近くに埋葬される事が決まったよ......
結末はこうなった。この国の闇は俺たちの想像出来ない程、深刻なのかも知れない。
速水は悲しみを乗り越えられるのか?
そして女神は何を望む?