迫られる決断 後編
いよいよタオカ邸に入る
タオカ邸に入った俺達は、中の様子を見て回った。家具などは流石に朽ちている物が大多数を占めている。
「古びているけど、埃はマシな方かな」
「観光目的で管理されてたんじゃ無いかしら?」
「静香さん、確かにそうかもしれないですね。ゴミも無いですし」
この地域の収入源にでもなっていたのかな? 今現在は管理されてないみたいだけど。
真新しい物は特に無かったが、一階の中央部分に柵があった。
「あれ何やろか? 触ったらあかんやつか?」
「ほんと何かしら? ちょっと気になるぅ」
田村と倉木さんは走って行った。いつの間にか、当たり前の様に一緒にいるなぁ。
まぁ俺と静香さんも仲良しだけどね。この前抱きついた件は、ぽかぽか叩かれましたが。
「速水! 早う来てみぃや!」
「え? 何かあったのか?」
そこにあったのは、ゲーム機本体とパッケージ。それにサバイバル雑誌だった。
おぉ。年代がわかる物だ。これを見る限り、俺達が来た時代より20年は古い。
年齢的にもっと離れてる予想だったんだけどな。
「しかしこれ以外は、帝国に持っていかれてるのかなぁ?」
「速水くんの話なら、モデルガンとかも回収されてるんじゃない?」
「そうですよねぇ。武器に該当する様な物は、残ってないでしょうね」
ゲーム機とか本関係は、使えないし文字も読めないもんなぁ。となると......やっぱり家電関係もそのままか。重いし使えないなら、持って行かないか。
「でも不思議よねぇ。冷蔵庫とか鉄? みたいな物は興味無かったのかしら?」
「花崎さん、そうですねぇ。まぁコレをどう加工するか? とか、タオカさんが知らなかったんじゃないですかねぇ」
「ああ、確かに。私もわからないしね。来栖さん達が特殊なんだわ」
花崎さん。特殊では無く、専門家です。笑って誤魔化したけどね。
やっぱり何も得るものが無いのか? と思っていた時、安田さんが皆を呼んだ。
「ねぇ、これって......」
安田さんが指差す柱を見た俺達は、ここに来た意味があった事に喜んだ。
〝これを読める人に託します。俺はもうこの世に居ないかもしれないけど、自分のした事は許してもらえないだろうし。隠し場所は床下です〟
少し乱暴に刻まれた言葉。何だろう? 逃げて来たのか?
皆で手分けして床下を探す。俺は1番ありそうな台所付近を見ていたんだが、それっぽい場所が無い。
「こっちは無いわぁ。分かりやすい場所やないんかなぁ」
「こっちも無いわね。田村くんの方も無いんだ」
「速水くん。どう? 見つかった?」
「静香さん、こっちも無いですね。普通ならこの辺りに......ん?」
普通に見ていたら気がつかなかったが、不意に下を見ていたら不自然な傷を見つけた。
この傷は何かを動かしたのかなぁ。視線の先にあるのは、冷蔵庫。まさかなぁ。そんな場所にある訳ないか?
「速水くん、何か考え事? 急に黙ったから心配だよ?」
「静香さん、これ見て下さい」
「え? これって......冷蔵庫の跡? でも場所が......」
もう一度考えてみた。冷蔵庫があるのはシンクのとなり。置き場として間違って無い。間違って......んんん? あれ? コンセントが無い?
少し離れて台所を見てみた。そして気がついたんだ。今は物が片付けられているけど、生活を考えたら理解した。
「この家の場合、冷蔵庫は対面に置かれてたみたいですね。だってほら、あそこにコンセントがありますし」
「あ、ほんとだ。と言う事はここにテーブルか何かがあったのかな。で、今冷蔵庫があった場所にキッチン用品があったのかも?」
俺は田村を呼んで冷蔵庫を動かした。意外と重いんだよね。どうやら下部のコマが壊れているみたいだ。
「せぇのっ! おっし動いた!」
「狭いし力いるなぁ。これ1人で動かしはったんやろか?」
何とか動いた冷蔵庫。やはり運動不足で力が無い。情けないから筋トレする事を誓う俺達だった。
冷蔵庫のあった場所には、ありましたよ。床下収納。思ったほど大きくないな。
早速開けて見たけど、上から見る限り何も無い。まさか違うのか?
「あれ? 何も無い?」
「あかんがな。苦労が台無しや!」
「篤さん、こう言うのは裏に貼り付いてたりするんじゃ無い?」
「流石愛さん。ほなちょっと失礼して」
田村は床下収納に手を突っ込み、探り始めた。暫く色々探った後、ダメ元で頭を床下に入れた。
「お? 何かあるわ。って届くか? これ?」
結構奥にある物に苦戦したようだが、紙に包まれた物を何とか手に取った様だ。
紙を開けて見ると、日記が1冊と何かの文書が出てきた。俺と田村が日記を見て、女性陣に文書をまかせたのだが。
「速水、ここ読んでみ。これは情状酌量もあるかもしれん」
「ん? ここ?」
〝まさかこんな事になるなんて。ゲームの延長だって思ってた。目の前で人が死ぬなんて......俺のせいで何人死んだんだ?〟
〝ダメだ。これ以上、ここに居れない。このままコイツらの言いなりになってたら、またいっぱい人が死ぬ〟
〝ちやほやされて浮かれてた。でも聞いたんだ。俺殺されるかも知れない〟
〝くそっ! 馬鹿にしやがって! 何とかここから逃げないと。ついでにアイツらの悪巧みを公表してやる!〟
〝あぁ。巻き込んでしまった。あの子を殺しやがったな。たった1人の味方だったのに〟
「やっぱり上手い事、使われてたんだな。でも何もわからなかった? って言うのは疑問だけど」
「せやなぁ。自分を守りたかったんかもなぁ。俺やったら潰れてまうかも」
自分のやってしまった事は、例え間接的でも殺人をほう助した事になる。この世界に来たのは10代だったらしいから、日本なら罪は軽くなるだろうけど。
「速水くん、田村くん。こっちはある国の人間との取り引きみたい。難しく書いてあるけど、殺さない代わりに国の人間を売ったみたいね」
「花崎さん、こっちは日記でした。多分、ここまで逃げて来て、また捕まったんでしょうね」
念の為、皆ともう1度見直したが、概ね内容は同じだった。俺達は資料を確保して、街に戻る事にした。
◇◇◇
街に戻った後、残っていた来栖さん達にも資料を見せ、意見を求めた。
皆それぞれに考え方が違ったが、意見を纏めると以下の様になった。
・勝手に転移させられた事は、同情する。
・大人の悪意に気がつかないのは仕方ない。
・彼個人は反省し、長期的に拘束された。
・元凶である皇帝達は処刑されたので終わりじゃないのか?
・同じ日本人として情状酌量はあるんじゃないか。
・最終的にはこの世界の判断だろう。
・しかし彼の面倒は誰が見る?
様々な意見があった。俺としても皆が思っている事と同じだ。罪は重いが、既に50年近く牢獄へ入っていたし、拷問も受けた。亡くなった方の心情は計り知れないが、戦争だったんだ。出来るなら解放を願おう。後は彼の介護についてなんだが、皆と相談するしかない。俺も出来る限り協力するし。
そして覚悟を決めて、帝都へ向かった。
この決断が後で、後悔がない事を祈って。
俺の決断には賛否分かれるだろう。
部外者が判断出来る内容じゃないしね。
とは言え受け入れてもらえるのか?
不安を抱えながら、王都へ急いだ。