去る者と残酷な出会い
帝国での開発は続いていたのだが......
ハーメリック帝国の開発が始まり、既に半年が経過した。
この間に帝国内では一部の地域で暴動が起こり、鎮静化するまで女性社員が隔離されたりもした。
そんな時、恩を返すと行動してくれた一団があった。
旧ロンダーク王国の生き残りである、ロイター・バルトフェルト達だ。
速水達と共にサリファス国内で工事等で活躍し、故郷であるこの地に帰ってきた彼ら。
率先して暴徒達と交渉の場を持ち、無血解決に導いてくれたんだ。
「この様な形ででも祖国の地を踏めたのは、速水様達のお陰です。本当に感謝しております」
「バルトフェルトさん達は、覚悟を持って行動されたじゃないですか。今回の件でも率先して動いてくれました。感謝するのはこちらの方ですよ」
速水達に対して頭を下げて語る彼ら。
特別な事をした訳じゃないし、彼らが誠意を持って行動した結果だ。
「もう頭を上げてください。それよりも、まさか第二王子と繋がりがあったなんて」
この件は本当にびっくりした。第二王子の母親は、旧ロンダーク王国の姫だったんだよ。皇帝から解放されて、今は保護されているんだが。
「オルネイヤ様が生きておられただけで、奇跡でありました。我々はお守りする事が出来なかったのです。悔やんでも悔やみきれません」
「バルトフェルトさん。王妃様が仰っていたじゃないですか。生きていてくれて、ありがとうと。そのお気持ちも大事にして下さい」
第二王子から王妃様の身の上を知り、バルトフェルト達に伝えたんだ。王妃様も会いたいと仰って。俺達も挨拶に伺ったんだけど、本当に素敵な方だったよ。
俺達はバルトフェルト達に提案した。折角帰ってきたんだから、王妃達と行動を共にするべきだと。
それに対して当初首を縦に振らなかった彼らも、第二王子と話し人柄を知って決断した。
「旧ロンダーク王国の領地で暮らすんですよね? お城は既に無いみたいですが」
「はい。ジュリアス様、オルネイヤ様と共に参ります。今後は何があってもお二人をお守り致します」
「そうですか。俺達もまだ暫く帝国に滞在しますので、また顔を見に伺いますね」
こうしてバルトフェルト達は本当の意味での故郷へ帰って行った。少し寂しい気持ちになったが、現状で1番良い結果になったと思う。
「そう言えば、次期皇帝候補が続々と名乗りを上げてるみたいだね」
「静香さん、どうやら併合された国の代表者が候補になってるみたいですよ」
「俺はあの皇帝やったら、皆殺しにしてるんかと思ってたわ」
「田村、過激な発言だな。でも確かにその可能性はあっただろうなぁ」
「でもそれをしちゃったら、その国の人達を抑えられなくなってたんじゃ無い?」
後で聞いたんだけど、俺達の予想は大体当たっていた。
国王や重鎮達は処刑されてしまったようだが、大半の人間は生き残っていた。
だがそれらの人間を抑え込む為に、姫を娶り人質の様な立場にしたんだと。
実際それが抑止力になっていたんだから、皇帝のやり方も理に叶っていたのだろう。
「それでジャニス様達は、どうしてんねやろ?」
「今、各地の教会で国民に文字を教えてるよ。田村知らなかったのか?」
「俺は店の開店で忙しかったんや。文字を教えるのは、学校出来てから違うんか?」
本来ならそのつもりだったんだけど、急ぐ理由があるんだよね。
選挙をするのは良いんだけど、字を書けない国民が大多数なんだ。
色紙とか使う案もあったけど、どうせ教育改革するんだし。
国内が安定するまでは、暫定政府に頑張って貰わないとね。
◇◇◇
バルトフェルト達が離れてから1週間後、俺はミネルヴァ教本部へ呼ばれていた。
「速水様、突然お呼び立てしてすみません」
「ジャニス様。しばらくです。何かございましたか?」
「速水様、用があったのは私なのよ」
「ロザヴィア様⁈ 私に用事ですか?」
「実は皇帝が失脚した日、私の部下がある人物を発見したの。速水様も知ってる人よ」
ロザヴィア様の見つけた人物......俺も知っているとなると、あの人だろうな。
「転移者ですね。ユキナリ・タオカと言う」
「話が早くて助かるわ。聞いていた通り、頭が回る人なのね」
頭が回る訳じゃ無いよ? だってこの国に知り合いなんていないし。
「生きていたんですね。それで何故俺だけ呼ばれたんでしょうか?」
「会ってもらったら理解してくれると思うわ。言葉では説明し難いのよね」
少し表情を曇らせながら、俺にそう言ったロザヴィア様。もしかして病気か?
俺はジャニス様、ロザヴィア様に連れられて教会裏の施設へ案内された。
案内された部屋で見た人物は、痩せ細り虚な目を窓の外に向けていた。
「彼がそうよ。今は食事も出来る様になったわ」
「そうですか。話掛けても良いですか?」
「ええ。私達はここにいるから、どうぞ」
俺は驚かせない様にゆっくり近いた。
うん。多分年齢は70代ぐらいなんだろけど、もっと老けて見える。
見える範囲でも痛々しい傷跡だらけだった。
「こんにちは。タオカさんですか?」
俺が問いかけると、反応があった。
「う、うぅー。うぅー」
「慌てなくて良いですよ。お身体大丈夫ですか?」
俺と目があった彼の目に光が差した気がした。多分、俺が日本人だと分かったんだろう。
「私は日本からの転移者です。名前は速水と言います」
「うぅあああああ!!」
叫び声をあげる彼の姿を見て、俺は現実を知ってしまう。
彼は狂っていない。ただ......話せないんだ。
だって舌を切り取られているんだから......
俺とタオカさんの初対面は、終わった。
取り乱したタオカさんは、暴れてしまったので、後日もう一度お会いする事になった。
ロザヴィア様が言うには、喋る事も出来ないし、両手の指を失っているんだと。
俺も取り乱してしまい、どう判断すれば良いのか答えが出せない。
「速水様、この様な形になり残念です。ですが貴方に判断して頂きたい。『導き手』として」
女神よ。貴女は俺に何を求めているんだ?
こんなの残酷すぎるだろ......
ここまでする意味があったのか?
そして速水は何を思うのだろう。
残酷な現実は、選択を求める。