順調に浸透する商品と意外な過去
身近な物は、受け入れ易いんだね。
俺達が、この世界に来て既に3週間程になる。今いるグランベルクの街では、露店だけでなく提携商会からも日本製品が販売される様になった。街中でボ-ルを使って遊ぶ子供や、団扇であおぎながら街を歩く人。エプロンを付けた婦人の姿も良く見る。日本語の入ったTシャツを着た異国の人が街を歩いていると違和感満載だ。繊維関係は在庫が無くなったら、同じ品質で作れない。デザインを参考にして、今ある素材で作る方向で話は纏まっている。ブラインドの方は、ギルドと提携する商会に取り付けた。宣伝の意味でも使い心地を確かめる事から始めたんだ。一般家庭に取り付けるには、時間がかかりそうだ。
「速水、なんか違和感あるで。外国人の日本かぶれみたいやん」
「そう言うなよ。全てが珍しいんだよ」
「まぁ、物珍しいわなぁ。でもな、”働いたら負け” Tシャツは笑ってまうわ」
「そうだな、俺も最初見た時センスを疑ったよ」
商品のピックアップは各商会に任せてあったので、俺達は知らないんだよ。しかし内の会社もなんでTシャツとかあったんだろうか? ホ-ムセンタ-に売ってたか? 服は作ってないから、在庫を捌いてたんだろうか?
「ほら、あそこで遊んでる子供なんか長靴履いとるで!」
「ああ、可愛らしくて良いじゃないか。そう言えばマリアさんも履いてたような」
俺と田村は護衛の方1名と共に、教会に向かっていた。クリスタさんに挨拶とお礼をする為だ。
◇◇◇
教会に着いた俺達は、外で遊んでいる子供たちに声を掛けた。
「こんにちは。クリスタさんは、おられますか?」
「お母さんは、洗濯物干してるよ!」「おじさんだあれ?」「遊んで!」
「うんうん。後でね。先にクリスタさんに声を掛けて来るから」
「「「案内するよ~」」」
子供達に連れられ教会の裏手に回ると、腰まで伸ばした金髪の映える女性が居た。
「お母さん! お客さんだよ!」「ねぇ、抱っこ」「ダメだよ邪魔しちゃ」
「はいはい、ちょっと待ってね」
「「「はぁ-い!!!」」」
「お忙しいところすみません。マリアさんとトミ-神父にお世話になっております。私、信頼雑貨株式会社の速水 慎一と申します」
「同じく、信頼雑貨株式会社の田村 篤です」
「まぁまぁ、あなた達が例の商会の方たちね。私は、クリスタと申します」
「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません」
「いえいえ、あの二人がご迷惑をお掛けしてないか? 心配しておりました」
「とんでもございません。お二人には講師のみならず、露店の方もお手伝い頂いてますので」
「マリアはんもトミ-はんも、えろうがんばってくれてます」
「立ち話もなんですので、どうぞ中に入ってください。ミミ達はお外で遊んでいてね」
「「「ええー! やだぁ-!!」」」
「こら! わがまま言わないの! お客様の迷惑になるでしょ」
「私達なら大丈夫ですよ。お菓子をお持ちしてますので、みんな一緒に食べましょう」
「そや、みんなで食べた方が旨いですがな」
岩さんに頼んでクッキーを焼いてもらったんだ。厳つい顔からは想像できないが、甘い物好きなんだよね。
「あらまぁ。お気遣いありがとうございます。それならみんなに声を掛けてお茶にしましょうか」
それからみんなで教会の中に入った。正面から入るとイメ-ジ通りの教会だ。正面奥に女神の銅像があり、その上には小さいながらもステンドガラスが嵌っている。ここで祈りを捧げる為に、街の人がやって来るんだな。俺達はその場所から移動して、孤児院の食堂に入った。クリスタさんと子供たちが協力してお茶を運んでくる。
「こちらはクッキ-と言いまして、私共の住んでいた世界で食べられていた物です」
「みなさん。食べる前に祈りを捧げましょう」
クリスタさんがそう言うと、子供たちは手を組み目をつぶった。俺達もそれに習い祈りを捧げた。
「では、頂きましょうか。神の思し召しに感謝を」
「「「「感謝を!!!」」」」
子供たちが飛びつくようにクッキ-を取ろうとしていると、クリスタさんに手を叩かれる。これは躾なんだろうな。子供達も大人しく座って食べ始めた。
「ところで、マリアさんとトミ-さんを拘束して大丈夫なんでしょうか?」
「あの二人は夜に子供達を見ていますので、問題ありませんよ。元々、あの二人も孤児なのです。こことは違う街でしたが、教会を手伝うようになりファリス教に入信したんです」
「そうですか。お二方共に個性的な方ですね」
「教会はどの権力にも屈しません。その影響からか、どの街の人々にも距離を置かれるんです。あの二人も規律を守る事に必死だったんですよ」
「そうなんですか。確かに教会関係者と言うだけで、距離を置かれる方多かったですね」
「それがあなた達の所へ行くようになってから、二人とも良く喋り良く笑うようになりました。本当に感謝しておりますのよ」
「いえいえ、私共は何もしてませんよ。仲良くさせて頂いてます」
意外な二人の過去を知った。街の人達との距離が縮まったのは、露店に出てもらったからかな。何かの役に立てるのも商売の魅力なんだろうな。ちなみにクリスタさんはまだ20代だ。お母さんって雰囲気だから年上かと思ってました。すみません。その後は、楽しくお喋りを続け会社に帰った。孤児院の子供達もスプ-ンとホ-ク使えるんだよね。来月子供たちに何かプレゼントしようかな。
次話は、貴族が絡むそうです。