混乱の跡
ハーメリック帝国へ出発しまーす!
サリファス王国を出発した速水達は、ハーメリック帝国へ入国した。
政変の跡だったが入国管理は徹底されており、審査の際には大変驚かれた。
対応にあたった兵士は、自国では転移者を見たことが無かったのだ。
「か、神の御使い様にお会いできて光栄です! それにまさか聖女様方まで!」
「はじめまして。信頼雑貨という商会もありますので、よろしくお願いしますね」
「は、はい! ありがとうございます!」
この衛兵を見ると、ハーメリック帝国のイメージが変わるなぁ。
速水はそんな感想を持った。
しかし帝都へ向かう道中に立ち寄った街で、自身の予想通りの姿を見る。
住人は皆、覇気がなく服装も質素だった。
ジャニス様に話を聞くと、年々重い重税を課せられ気持ちも生活も疲弊しているのだと。
教会も出来るだけ手助けはしていたが、国民の全てに手を差し伸べる事は出来ない。
俺たちは途中宿をとり、そこで出された食事にも驚いた。
「やはり食料も苦しいのですね」
「速水様。国内の流通はしているのですが、その大半は帝都と領主へ渡るのです」
「領主はわかりますが、帝都へですか?」
「皇帝が帝都の市民を特別扱いしていたのですよ。元々の国民と併合後の国民に、差をつけたのです」
「でもそのやり方だと、不満が出たでしょう?」
「勿論、そのやり方に反発はありました」
ジャニス様の話では、度々起こる暴動も武力で抑えつけていたらしい。
領主、衛兵は帝都から派遣された者で、その横暴なやり方は教会も気に病んでいた。
今回のクーデターも起こって然るべきものだったのだ。
そんなハーメリック帝国の国内を見ながら馬車は進み、予定通り5日後帝都へ到着した。
俺達は先ずミネルヴァ教の本部へ向かう。
◇◇◇
ミネルヴァ教の本部へ着くと、ジャニス様を迎える為に多くの信者が待っていた。
「ジャニス様、長旅お疲れ様でした。神の御使いの皆様もお会いできて光栄です」
「ご苦労。早速だが信頼雑貨の皆様を案内しておくれ」
「かしこまりました。では皆さまは、こちらへどうぞ」
俺達は応接室へ案内され、出されたお茶を飲みながら休憩した。
女性陣は出されたお菓子に大変満足そうだったよ。
30分程待っていると、ジャニス様が1人の女性を連れて入ってきた。
「お待たせいたしました。驚いたでしょう?」
そう言われた俺たちは、完全に固まっていた。
だって瓜二つの女性が並んでいるのだから。
「うふふふ。私はロザヴィアと申します。ジャニスとは双子なんですのよ」
俺も含め男連中は目の前の美人に釘付けだったよ。
まぁ静香さんに肘打ちされましたけど。
「本当に似ているわね。ジャニスに聞いてたけど、びっくりしたわ」
アナマリア様達も実際に会ったのは、初めてらしく驚いた顔をしていたよ。
しかし聖女がこれだけ揃うと、天国だよねぇ。
「ちょっと速水くん! 鼻の下伸びてるわよ!」
「し、静香さん! い、痛いです」
「篤さんもダメですよ!」
「あ、愛さん。す、すんまへん」
「全く男共はこれだから」
そう呟く安田さんに見られた来栖さん達は、そっと目を逸らしていた。
「それでジャニス。アルメリアはどうだったの?」
「ロザヴィア姉様。この方々の力はまさに神の如くでしたわ。多くの新しい物が溢れておりましたし、私もずっと住みたい程でした」
「ほぅ。噂には聞いていたが、それ程なのか」
「それだけではございませんの! サリファス王国も私の知っていた国では、ございませんでしたの!」
少し興奮気味に話すジャニス様は、色っぽ......げふん。隣から刺すような視線を感じる。
「そうか。この方々のお力はわかった。この国も是非、変えて頂きたいものだな」
「速水様に掛かれば、大丈夫ですわ!」
何気に俺をぐいぐい立てるんだけど?
面白そうにロザヴィア様も見てるよ!
だから俺は技術も力も無いんだって!
「その話はゆっくり致しますが、ロザヴィア姉様、今回の件お話頂けますか?」
「ん? そうか。もう少し聞きたかったが、皆も話が聞きたそうだな」
この後、ロザヴィア様からハーメリック帝国で行われた、クーデターの中身を聞いた。
失敗が出来ないクーデターだったので、かなりの時間を掛けて計画されていたよ。
俺達が転移してきた頃には、既に始まっていたんだってさ。
最初は第二王子も知らなかったようだが、クーデター後の旗振りをする人物として擁立されたらしい。
国内で数々の暴動を起こしつつ、賛同者を集めて内部へ人間を送り込んでいく。
国民にはそれとなく噂を流して、今を耐える力を与えていった。
活動を始めた当初は賛同者も少なく、資金もなかったのだが、第二王子派から集まって行ったようだ。
そして今回のクーデター。深夜に電撃的に王位を奪った事は、既に国内に流布されている。
しかし第二王子は皇帝を名乗っていないらしい。
「ロザヴィア様、ちょっと良いですか?」
「速水様、何ですかな?」
「何故、第二王子は皇帝になっていないのでしょうか?」
俺の質問に暫く口を閉じていたロザヴィア様。
しかしはっきりとこう告げた。
「ハーメリック帝国は、二度と戦争をしない。そこで皇帝は人民の投票で決める事になった」
あまりにびっくりし過ぎて声が出なかった。
それって大統領制じゃないか!
ハーメリック帝国はこの世界で初めての、国民選挙を行うと言うのだった。
「それは大変良い事ですね! ですが可能なのですか?」
「正直に言って難しいと思う。だからあなた達に力を貸して欲しいのだ!」
ロザヴィア様が俺達に頭を下げる。
隣に立っていたジャニス様も慌てて頭を下げたんだ。
ちょっと可愛いかもしれない。
って静香さん! 足踏んでますって!
「頭を上げて下さい。私達もどうお手伝いできるか分かりませんが、頑張りますので」
俺がそう言うと他の仲間達も頷いていた。
国民の代表を決める選挙か。
これも一種の戦いだな。
何と予想外の展開が待ち受けていた。
確かにこのハーメリック帝国は、小国が集まった国。
どこか似ている国があった様な...。