政変
動き始める者たち
ここはハーメリック帝国の城内。
「一体何だ? 最近の暴動の多さは。全く愚民共め」
「陛下、申し訳ございません。こちらも厳しく取り締まっているのですが」
「ふんっ、捕まえて処分してるんだろうな?」
「はい。纏めて勾留しております。ですが何分収容人数も限られておりますので」
「なら処刑してしまえ!」
現在、帝国城にある留置所は、暴動に参加した多くの人々で埋め尽くされていた。
その理由の1つに、国内の主な留置所が収容人数を越えていたからだ。
ハーメリック帝国が誕生した当初から、この様な暴動は度々起こっていた。
取締る衛兵も今回は、余りの多さに疲弊していたのだが。
そんな中、ある詰所で事は始まった。
◇◇◇
深夜、ある衛兵の詰所に通報が入った。
「すみません! 街中で暴れている人がいます!」
「ん? またかよ。おい行くぞ!」
そう言った衛兵の意識は突如暗転する。
衛兵の意識を奪ったのは、声をかけられた同僚だった。
「さて、やっと始まるぜ。全く偉そうに指示しやがって」
倒れた衛兵を蹴りながら言う男に対して、他の衛兵が声をかけてる。
「おい。その辺にしておけ。ここからは時間の勝負だ」
男達は直ぐに行動を開始する。
先ず向かうのは、地下の収容施設だ。
ガチャリ。
「待たせたな。準備は良いか?」
「ああ。じゃあ後は打ち合わせ通りに」
収容されていた人々は、解放された。
そして向かうのは帝城だ。
同時刻、国内の全ての収容所が襲われていたのだった。
◇◇◇
同時刻、ミネルヴァ教本部。
「ロザヴィア様。そろそろお時間です」
「ありがとう。では参りましょう」
サリファスにいるジャニスと同じ顔、同じ声で喋るこの人物。
彼女の正体は、ジャニスの双子の姉だ。
ミネルヴァ教には裏の顔がある。
戦の女神を信仰する教団には、表と裏の教皇が存在した。
女神のお告げを語るジャニス。
闇の世界を取り仕切るロザヴィア。
今回の計画を遂行する為に、表に出てきたのだ。
「さあ、覚悟しなさい。地獄へ案内してあげるわ」
そう呟くロザヴィアは、周りを魅了する笑顔だった。
◇◇◇
帝城、皇帝の寝室。
「おい。起きろ」
呟く様に発せられた言葉に、皇帝は気が付いた。
普段なら寝室に勝手に入られる事などあり得ない。
しかしその事に気づくと、ふいに不快な気持ちが湧き上がってきた様だ。
「き、きさまぁああ!我の寝所に無断で立ち入るとは何事だ! 即刻切り捨ててくれる!」
「へぇ。自分の今の状況がわかってないのか?」
「皇帝に手を出すことなどあり得ん! 警備の騎士はどこにいる!」
首に剣を突きつけられながらも、皇帝は悠々と怒鳴る。
しかし護衛の騎士など現れない。
まぁそんな者がいても、この状況で手出しなど出来ないだろうが。
「しかし俺の声を聞いても誰かわからないんだな」
「はぁ? 誰だ貴様は! 早く離さんか!」
この皇帝は自身の子供など眼中になかった。
多くの子供がいるが、その大半は併合した国から無理やり娶った姫達。
第一王子にしか継承権すら与えていなかったのだ。
「あ? 貴様は我の息子か? ふんっ、やはり下賤な者の血が入るとダメだな」
「あははは! それでこそ皇帝だな。俺も貴様の事など父親とは思っていない。そんな汚らわしい血など必要ないしな」
ジュリアスはそう言いながら、皇帝を謁見の間へ連れて行く。
皇帝もそれ以上は喋らず、自らの足で歩いて向かう。
その道中、城内の状況を知り初めて恐怖した様だが。
謁見の間には宰相を含む多くの重鎮達が集められていた。
「貴様ら! 私達にこんな事をしてただで済むと思うなよ!」
周りを騎士達に囲まれながらも叫ぶ重鎮達。
しかし皇帝の捕らえられた姿を確認し、この後どうなるか理解した様だった。
「ジュリアス様、ご到着された様です」
近くの騎士がジュリアスに報告する。
直ぐに謁見の間にやって来る足音が聞こえてた。
コツコツコツ。
そこにやって来た人物。
長い髪を腰まで伸ばし、その口に微笑を浮かべる絶世の美女。
「お待ちしておりました」
「ジュリアス。上手くやったようね」
入って来た人物を見た皇帝達は、騒ぎ始める。
「ジャニス殿! 良い所に来てくれた! 早くこの不敬な者達を捕まえて下され!」
そんな皇帝達を汚い物を見る目で見るロザヴィア。
彼女は何の為に来たのか?
「さて。国内の方もあらかた終わったわ。コイツらの処分も決めないとね」
「はい。本来なら私の手で殺したかったのですが」
「貴方には責任があります。悔しい気持ちはこの先の国の未来へ向けなさい」
ジュリアスが悔しそうに語りかけたのだが、ロザヴィアは和かにそう告げた。
そしてそのまま皇帝達の元へ向かう。
皇帝はその姿に恐怖を覚えた。
ロザヴィアと一緒に来た信徒が皇帝を押さえつける。
「ジャニス殿! 一体何をする! 私に対しこの様な仕打ちは、許せるものではないぞ!」
「お黙りなさい。この醜き者にミネルヴァ様の裁きを」
その言葉の後、皇帝の意識は無くなった。
他の重鎮達から悲鳴が上がったが、その声も次第に消えていく。
静かな裁きが行われた後、ロザヴィアに報告が入る。
「ご苦労様。うふふ。生きてるなんてね。ジャニスが喜ぶわね」
ジャニスを思い浮かべ今までにない笑顔。
それを見た周りの者達は、震え上がるのだった。
◇◇◇
翌日、セレス教本部に一報が入る。
「そう。わかったわ。ありがとう」
ルシールはその報告を聞き、ため息をついた。
わかっていたが、この報告を聞いた速水を思い浮かべたのだ。
「でも仕方ないわよね。あの国ですし」
そう呟きながら、食堂へ向かった。
速水達も予定された日付なので、朝からそわそわしていたのだが。
「あら、皆さま集まってらっしゃったのね」
「ルシール様、どうしました?」
「ハーメリック帝国の皇帝は、討たれましたわ。国内も混乱は見られません」
「そ、そうですか...詳しくお伺いしても?」
「はい。では皆さま、会議室にお集まり下さい」
この後、今回の政変がどの様に行われ、最後にどうなったか? 説明を受ける。
信頼雑貨の社員達は、その内容を聞き改めてこの世界の怖さを知る。
この世界の命は軽い。
しかしこの政変は意味のある死であったのだと思うしかなかった。
この報告から1週間後、速水達はハーメリック帝国へ向かう事になるのだった......
政変が起こりハーメリック帝国の変革がはじまる。
そして速水達には、思わぬ出会いが......
次話、牢獄からの解放