ハーメリック帝国
サリファス国内に残った速水達は、アナマリアとジャニスの到着を待っていた
皆と話し合ってから数日。
間も無くアナマリア様とジャニス様が、到着すると言う連絡が入った。
「それにしても過ごしやすくなったなぁ」
「なんや速水。お爺ちゃんみたいやん」
「田村、おはよう」
サリファス王国も本当に、以前に比べるとかなりの発展が実感出来ている。
交通網と流通が整備され、国内が活気に満ちて皆の笑顔も眩しい。
あぁ静香さん、朝から美人さんだなぁ。
「速水くん⁈ あ、ありがとう」
あれ? 今の口に出してた⁈
真っ赤な顔した静香さんが、眩しい。
「朝からご馳走さん! お熱い事で」
「あははは…ま、まぁな」
とりあえず誤魔化しとく。
そういう田村も俺の前で放送禁止の顔してるんだけどね!
スレイブ王国で過ごした田村と倉木さんにも進展があったんだ。
男同士の夜の語り合いで、なかなか口を割らなかったんだけど。
「愛さん、よぉ眠れました?」
「篤さん、おはよう」
「田村くん、顔気持ち悪いよ?」
安田さんの直球は、見事に突き刺さる。
毒舌キャラだったか?
まぁそう言いながらも、倉木さんが幸せそうだからね。
「おっちゃん! 早くごはん!」
「お腹減ったでおじゃる!」
「おう! 準備出来てるぞ! しかし2人とも元気だな」
マリアさんとトミー神父は、相変わらずだなぁ。
岩さんをおっちゃん呼び出来るし。
「それでどう思う? ハーメリック帝国」
「なんや速水、えらい唐突やなぁ」
「あら田村くん? さっきから速水くんが喋ってるの聞いてなかったの?」
「中村さん? 何の話でっしゃろ?」
駄目だ...。食事をしながら皆でハーメリック帝国の事喋ってたんだけど。
田村は遅れた青春真っ盛りだなこれ。
詳しい事はアナマリア様達が来たら聞けるけど、今後の行動は確認しておきたい。
セレス教本部で寝泊りしているから、情報もそれなりに集まってるんだ。
現在、ハーメリック帝国内でクーデターが起きようとしている。
現皇帝の圧政は国をかなり疲弊させていた。
周辺国からの干渉を避け、自国内を厳しく取り締まった結果。
国内は打倒政府に傾いて行ったんだ。
それに加えてミネルヴァ教徒が、内戦の真実をそれとなく噂として流した結果...
元々現政権に不満を持っていた国民が各地で暴動を起こし始めたらしい。
それでも暫くは小競り合い程度だったんだ。
「出来れば内戦みたいな形は避けて欲しいんだけどなぁ」
「速水様はお優しいですね」
「本当ですわね」
⁈ 俺の呟きに答えたのは...
「ア、アナマリア様。到着されたんですね」
「あら? 私は?」
「ジャニス様もご無事で何よりです」
「うふふふ。速水様達のお陰で、随分早くこちらまで来れましたわ」
実際、サリファス国内の移動はかなり早くなった。
トロッコ列車も走ってるし、馬車の移動もかなり改善されてるからね。
「あら、アナマリアもジャニスも到着したのね。早速で悪いけど話をしましょうか」
ルシール様の一声でアナマリア様達と共に、セレス教本部の会議室へ集まる事になった。
◇◇◇
会議室へ移動した俺達は、先ずジャニス様から話を聞く事にした。
「じゃあ分かっている事から話すわね」
ジャニス様はそう言い、これまでとこれから起こるだろう事を話し始める。
「私がアナマリアの所で匿われて、暫くたった頃。ミネルヴァ教本部からある連絡があったのよ」
「連絡ですか? それはどう言う?」
「それがねぇ。驚いた事に帝国内部の人間からだったのよ」
「え?! でもそれって罠の可能性もあるんじゃないですか?」
「ええ。勿論その可能性はあったのよね。だからこんなにも時間が掛かったんだけど」
ジャニス様も危険を感じ、あらゆる手段で情報を取ったらしい。
その結果、安全だと判断したジャニス様は内通者と共に動いた。
内通者も情報が漏れない様に、慎重に仲間を増やして行ったようなのだが。
「それでその内通者って誰なんですか?」
「ハーメリック帝国第二王子、ジュリアス・ハーメリックよ」
「はぁ⁈ 何で王子が? 」
「ジュリアス王子の母親は、内戦時に降伏したリンデラ王国の姫なのよ」
現皇帝は降伏した国から姫を差し出させたらしい。
そんな事をすれば恨みを買うだろうに。
ジャニス様もその点は、不思議に思っていたようだが。
ジュリアス王子曰く、力を見せつけたい皇帝のやり方だと言う話なんだが。
「リンデラ王国と言うと、確かダイナマイトを使われた国でしたっけ?」
「速水様はよくご存知ですね。元々武力を誇るリンデラ王国が敗北した。その事実が周辺国を降伏に導いたと言っても、間違いないのだけど」
俺も話を聞きながら、バルトフェルトの語った事を思い出したんだよね。
よっぽどその勝利が現皇帝の誇りなんだろうな。
「それでね。元リンデラの軍人達が、ハーメリック国内の暴動を先導しているのよ」
「それも危険じゃ無いんですか? 元リンデラ王国の人間ならマークされていても」
「ええ。でも逆にそれが狙いでもあるのよ」
そこからの話は、俺達も驚いたんだ。
マークされている事で帝国の注意を引きつけ、ミネルヴァ教徒を目立たなくしたんだよ。
まさか国教であるミネルヴァ教が、打倒政府に動くとは思わないもんなぁ。
それでも感の良い人は、ミネルヴァ教にも注意していたらしいけど。
ジャニス様の影武者やってる人もかなり優秀な人だったみたいだ。
「ジャニス様の影武者さん、良く今までバレませんでしたね」
「うふふふ。何故なんでしょうね」
何か意味ありげな返事でごまかされた?
話を戻そう。最初は小さな揉め事から始まったその活動も間も無く身を結ぶ。
ただ俺達の不安は、ジュリアス王子がどの様な人物か分からない事だ。
現皇帝を失脚させた後、どうなるのか?
大きな争いで多数の死者が出る可能性も高いからね。
色々な不安がある中、ジャニス様はこう告げた。
「今日から3日後。帝国が変わります」
果たして俺達は何を見る事になるんだろう。
俺達はその日まで眠れない夜を過ごす事になる......
いよいよ打倒皇帝に動き出す。
果たしてどの様な結果になるのだろうか?
次話で明らかになる!