未来を見据えて
田村達がスレイブ王国へ来て、3ヶ月が経過していた
田村達がスレイブ王国を訪れてから、3ヶ月の月日が流れた。
店舗の方は順調に商売が続いており、他の街からの訪問者も多い。
一方で環境改善については、道路整備と下水工事が着実に進んでいる。
しかし文化の変化は徐々に進んでいる印象を受けていた。
アルメリアでは手づかみ文化から食器使用への転換もスム-ズだったんだが。
「まだまだホ-クやスプ-ンを使う習慣は浸透してませんなぁ」
「ギャランの街は大部分に浸透してるみたいだけどね」
今滞在している街は、田村達の存在とお店がある事で素直に受け入れられている。
しかしまだまだ流通がスム-ズでない為、信頼雑貨の商品も多くの街には届いていない。
「でも手洗い・うがいは周知出来たわね」
「そうでんなぁ。公衆トイレや公衆浴場の影響もあるんやろうけど」
倉木と田村は、自分たちが来てからの街について回想していた。
「そういえば安藤さんは今どこに居るの?」
「隣町で下水工事してるはずですわ。道も綺麗になったし、橋も新たに架け替えましたやろ」
「そうか。それでこの街にバスが走ってるのね」
道路と橋が改修された事で、アルメリア側からバスが入ってくるようになった。
これにより人と資材の輸送が大幅に改善されている。
「なんかトロッコ列車も王都まで繋げる計画があるんでしょ?」
「アルメリアで間もなく、蒸気機関車の試運転が始まるって言うてましたで」
「ああ、だから今まで使ってたトロッコ列車をこっちに持ってくるのね」
「資材や物資の輸送が便利やから、使いたいって話らしいでっせ。将来的には機関車が、世界中に走る構想みたいですわ」
先ずはアルメリアとスレイブ・サリファスの3国を繋げる計画なんだとか。
サリファス側も同時にレ-ル工事に入っており、繋がり次第両国にトロッコ列車が配置される。
「蓮見課長も王都へ行ったきり、帰ってこないもんねぇ。ダム建設が忙しいのかしら?」
「蓮見さんは一番忙しいんと違いまっか? なんせ全部の工事を仕切ってまっさかい」
蓮見は王都で工事計画を指揮しながら、ダム建設と水力発電の開発に尽力していた。
ダムの方は基礎工事が終わり、これから本体工事に取り掛かると聞いている。
「ダムを使った電力設備を作るらしいでっせ」
「何かそうみたいね。ほんと蓮見課長って何者なのかしら?」
「それを言うたら、工場の人間皆ですわ。どんな経験積んだら、次から次へアイデア出せるんやろか」
信頼雑貨の工場部門は変態の集まりだ。
色々出来過ぎて社員からも不思議がられている。
「あ! そろそろ休憩終わる時間だ。戻らないと美樹やトミ-に怒られちゃうわ!」
「もうそんな時間でっか。ほな戻りましょか」
◇◇◇
所変わって、こちらはダム建設地。
基礎工事は思わぬ苦戦があったが、何とか終わらせる事が出来た。
蓮見は職人と工事の苦労話で盛り上がっていたのだが。
「しかし良く工事できたものだな。皆の協力が無かったらどうにもならなかった」
「蓮見さんの指示があったからですよ。死人が出るかと思いましたが」
ダムの建設予定地は、標高も高く壁面での工事だった。
転落事故が起こらない様に、安全対策に悩んだ。
「まぁ上流の流れが思ったほど、早くなかったから助かったんだ」
「そうですねぇ。川を塞き止めて基礎を作る時はヒヤヒヤしましたけど」
建設予定地の手前で一度川を塞き止め、土を乾かしてから基礎を作る。
しっかりと水の侵入を防げないと、ダム建設は行えない。
「資材がここまで運べるか悩んだよなぁ」
「あの足場って言う発想が無かったら、考えられませんでしたよ」
この世界では日本でよくみられる鉄を使用した足場は無かった。
そこでパイプを組み立てる形の足場を作る事で、工事の効率を図ったのだ。
「この木枠で型を作る発想も凄いですよね」
「コンクリを固めるのに、上から流し込む方法が一番安全だからな。それに放水場所の目印も付けやすい」
「本体工事と同時に水力発電の設備も建築していくんですよね?」
「そうだな。何回かに分けてコンクリを固めていくから、乾く間に他の作業も進めていく」
このダムが完成すると谷を挟んだ街も、行き来出来るようになる。
橋としての役割も果たすのだ。
「完成は急ぎたいが、焦っては駄目だぞ」
「はい。職人にも安全第一で、作業の手間を惜しまない様に注意しておきます」
ダムの完成までは約1年を予定している。
この規模なら2年~3年はかかってもおかしくないのだが。
◇◇◇
一方、安藤は主に橋の架け替えに全力を注いでいた。
道路整備や下水工事は、もう任せても大丈夫なようだ。
「ここも駄目だなぁ。基礎が腐ってやがる」
「基本的に木造が多いですから。川幅の狭い所で石作りの橋もありますけど」
「石作りの橋は中々、良くできていると思うけどな。基礎としては頑丈だから」
新しく架ける橋は、土台をコンクリで作成しアンカーボルトで固定。
その上に鉄筋の入った柱を立て、強度のある橋を架けるのだ。
「頑丈で幅の広い橋が掛かれば、物の流通も早くなりますね」
「馬車が2台通れる橋じゃないとな。いずれ道路の整備も追いつくだろうし」
安藤は工事が進んだこの国を想像していた。
道路が整備されレ-ルが走るようになれば、アルメリアのように物が行き交う国になる。
ダムが出来、水量が安定すれば新たな作物も収穫できるようになるだろう。
そうなればこの国の発展が続き、新たな才能が芽吹く事になる。
田村達の奮闘は、この先もまだまだ続く。
スレイブ王国の国民は、明るい未来を夢見ているのだ―――
今の所、順調に工事なども推移している。
後はダムの完成と流通が整備されるのを待つばかりだ。
次話から速水サイドへ戻ります。