安藤にいさんは地味に頑張る
今日も1人地味に仕事をこなす安藤にいさん
田村達が店の出店や工事の打ち合わせに忙しい中、この男は地味に働いていた。
「はぁ。蓮見さんは帰ってこないし、やる事いっぱいじゃねぇか」
「にいさん、ここはどうやるんです?」
「ああ、ここはポンプ場を設置するんだ。ポイントごとに目印付けてあるだろ?」
「あ、すみません!」
安藤は、ギャランの街の道路整備と下水工事の指揮を取りつつ、
追加で公衆トイレと公衆浴場の建設を職人たちに指示していた。
尚、将来の水力発電を見越して、地中にケ-ブルを通す作業も追加されていた。
「蓮見さんも電力考えてるなら言ってくれよぉ。もう埋めちまってる箇所多いんだよ!」
これは大きな独り言である。
スレイブ王国は水源には恵まれている為、井戸の数も元々多い。
その分工事もはかどっては居たが、アルメリア側から届く資材も週に1回なので地味に時間が掛かる。
少し苛立ってはいたが、焦って仕事しても仕方が無いのであるが。
「す、すみません。少し宜しいでしょうか?」
「ん? 俺っすか? 何でしょう?」
そんな安藤に声を掛けて来たのは、街の住人の様だ。
ギャランの街で工事を始めてから、街の住民と仲良くなることも多い。
「実は橋の手前で馬車の車輪が、嵌ってしまったんです」
「ああ。あそこはまだ手をつけてないからなぁ。わかった、直ぐに行くよ」
そう言ってその住民に案内させたのだが、成程、ぬかるみにしっかりと嵌っている様だ。
「これはジャッキで上げんと無理っぽいなぁ。アンタひとっ走りうちの人間呼んできてくれるか?」
安藤は職人の応援を呼びに行かせている間に、車輪の嵌っている個所を観察する。
荷物の重みで馬車の軸にも疲弊が見られる。
「こいつは少しばかり手を加えた方が良いかもな。道中、馬車が壊れる可能性がある」
暫く待っていると話を聞いた職人が、ジャッキと工具を持ってきた。
「おっ、流石に気が利くじゃねぇか! 先ずは車輪を上げるから皆で後ろから押してくれ!」
嵌っている側の車輪を持ち上げ、皆で馬車を押すとぬかるみから無事に脱出できた。
しかしそれだけでは終わらせないのである。
「ちょっと車軸の補強するから、待ってな」
住民に一声かけた安藤は、痛んでいる部分に薄い鉄板をあてて補強を行った。
それを興味津々で見ていた住民は、安藤に話しかける。
「今何をしているんですか? 何か付けてらっしゃいますが?」
「ああ。ぬかるみに嵌った時に、片側に荷重が掛かってたんだよ。それで足回りに負荷が掛かって」
と説明するのだが、聞いている住民は何のことだか分からない様子だった。
まぁ構造の話をして分かるのは、職人ぐらいだろう。
「簡単に言うと壊れる前に補強をしたんだよ」
「え? ありがとうございます! お礼の方は......」
「お礼何かいらねぇよ。気を付けて行きなよ!」
まぁ工事の合い間の話だ。
安藤は気持ちよく住民を見送った後、街中に戻った。
「いたいた! 安藤にいさんどこ行ってたんでっか!」
「おう、田村か。何か用か?」
「大した用や無いんですが、森田さんが公衆浴場はいつ頃出来上がるんか聞いてまして」
「ん? そうだな。急ピッチで作ってるから、入るだけなら今日の晩にでも入れるぞ」
「ホンマでっか! なんや子供を雇うらしくて、風呂に入れたい言うてますんやわ」
「そう言えばそんな話だったな。スラムの子供だっけ?」
「そうそう。ちょっと匂いますんや」
それを聞く為にパシらされる田村に、少し同情した。
急ぐんなら仕方ないなと安藤は公衆浴場へせっせと向かう。
現場についた安藤は、まず作業状況を確かめた。
浴槽と男女の区切りは出来ているようだ。
これなら簡易の目隠しを作れば、子供の入浴は出来るだろう。
「ここをこうして、そこの鉄板こっちに持って来てくれ!」
「あいよ! にいさん、急ぎですの?」
「まぁな。今晩使えるようにするんだ」
「そしたら俺らも手伝います!」
「ん? 良いのか? そっち優先で良いんだぞ?」
「こっちは資材が足りませんので、大丈夫っす!」
面倒見のいい安藤は、作業の職人からも好かれていた。
蓮見や来栖などと違い、教えるより一緒に作業する事が多いのも理由なのだろう。
何だかんだで簡易に作るはずが、結構なスピ-ドで公衆浴場は出来上がった。
「なんでぇ、やれば出来るんだな」
「にいさんの手が早いんですよ!」
なんておだてられれば、調子に乗ってしまうのだが。
こうして浴場が出来上がったのだが、工事を見に来ていた住民も興味津々に集まっていた。
「これは何ですかな?」
年配の方に尋ねられた安藤は、得意げな顔で答えた。
「これは公衆浴場って言いましてね。皆が入れるお風呂なんですよ!」
「お風呂など貴族様の入るもんじゃねぇのか?」
「いやいや。これからは皆さんもご使用になれますから!」
そうは言ったものの、使用の仕方など説明が必要だ。
念の為、住民の使用は明日以降と言う事を集まった人々に伝えた。
田村に浴場の使用手順を作らせよう。
そう考えた安藤は、『ギャラン1号店』へ向かった。
◇◇◇
「お-い。田村! ちょっと良いか?」
「安藤にいさん! ちょっと待ってんかぁ!」
店は繁盛していたが、夕方近い事もあり少し余裕があるようだった。
「どないしましたん?」
「実はな、風呂の使用手順書みたいな物を作って欲しいんだ」
「ああ、言われてみれば。ちょっと倉木さんに聞いてきまっさ!」
暫く待っていると、田村と倉木がやって来た。
「安藤さん。ご苦労様です。使用に関しての案内はもう出来てます!」
「そうか! それなら良かった。もういつでも入れるからな」
「え? もう出来上がったんですか?! 予定より早いですね!」
「ちょっと気合入れてやったら、出来たんだよ」
「流石は安藤さんですね! それなら少し時間ありますか?」
「ん? 何かあるのか?」
「言いにくいんですが、店舗の中の棚を増やしたいんです!」
『ギャラン1号店』は、当初の計画より品数が増えていた。
定期便が来る事になり、商品を増やしたのだが棚などが足りなくなったのだ。
ここで安請け合いをするのが、安藤にいさん。
「わかった。場所を確認したら木材持って又来るわ!」
結局、安藤の仕事は本人の意志とは関係なく増えて行く。
ぼやきながらも楽しそうに作業する姿を見ながら、田村は思う。
「安藤にいさんってチョロいわぁ」
「こら! 聞こえちゃうよ!」
みんなの安藤にいさんは今日も休みなく働き続けるのだ!
ファイト! そんなにいさんは、皆の人気者だ!
安藤にいさんは、本日も頑張った!
次話で田村サイドは一区切りです!