主神ジュノ-
急いでセレス教本部へ向かう3人
ドナドナ状態で静香と千鶴に連行されるマリア。王都の人々はその様子にビックリしていたが、それよりもこの問題を先に片づけたい2人だった。
「いつまで凹んでるのよ。そろそろ自分の力で歩きなさい!」
「だってぇ! あのお店美味しそうな匂いしてたんだもん!」
「はぁ。ちゃんと話が終わったら食べに行くから」
「ほんと⁈ よっしぁあああ!!」
「マリアってブレないよね」
歩いて10分程でセレス教本部に到着したのだが、そこにはルシ-ルの姿があった。
「待っていたわ。必ず来ると思っていたから」
「それってどういう事なの?」
静香の問いに対し無言のまま教皇の部屋へ案内される3人。果たしてルシ-ルからどの様な話が聞けるのだろうか......
◇◇◇
教皇執務室~
「とりあえずそこにお掛けなさいな」
「ええ。分かったわ」
「今、お茶を用意させるわ」
「ルシ-ルお姉ちゃん! お菓子もプリ-ズ!」
「はいはい。マリアちゃんは食いしん坊よねぇ」
お茶とお菓子が用意され、改めて話が始まる。その場は変な緊張感で支配されていた。
「それで? 私に聞きたいことがあるんでしょ?」
「ええ。先ずは何故、私達はジュノ-様を信仰する宗教が無い事に、気がつかなかったのかしら?」
「それはあなた達だけじゃ無いのよ。普通ならこの世界の人々が騒ぐはずでしょ?」
「え? そ、そうか! それも不自然だわ!」
「ふふふ。実際、今日まであなた達以外は気が付いていないわ。今もそうよ」
「じゃあ何故私達は気が付けたの? マリア?」
急いできたのは良いが、言われた事で初めて気づく。自分達以外に気が付かない理由が思い当たらなかったのだが、マリアの存在が抜けていた。
「わかった様ね。そう、特異点であるマリアがこの世界の呪縛を解いたのよ」
「その話だとマリアが鍵って事? でもそれなら他の人々も呪縛が解けたんじゃないの?」
「それは無いわ。人々が気が付くのはマリアがジュノ-教を作ってからになるわ」
「でも貴女はそれを知っていたじゃない! 現に待っていたし」
「あなた達が来る前にお告げがあったのよ。多分、他の聖女達にもお告げがあったはずよ」
「という事は貴女自身も今日まで気が付かなかったの?」
「そうね。そういう役割だったからね」
ここでルシ-ルから説明があった。何故ジュノ-教が存在しなかったのか? それは静香達がこの世界を救う事が出来る存在であったからだそうだ。これまでの転移者達はその事実にたどり着いていない。
「これまでにこの世界に召喚された人物たちは、ジュノ-様の期待には応えられなかったのよ。でも今回は違うようね」
「それは私達が認められたって事かしら? それなら元の世界に帰る事が出来るって事?」
「それは今の段階では分からない。でもこの世界が今までにない程動いているのは事実だわ」
ここに来て大きな希望が出来た。その事に感動する静香と千鶴。マリアは......お菓子に夢中だった。
「そう。それはやっぱりマリアの存在が?」
「ええ。特異点など今まで一度たりとも存在していないわ。でもそれだけじゃない」
「そうなのね。ちょっと待って! それだけじゃ無いってまさか!?」
「流石にあなたにはごまかせないわね。そう速水様の存在があるのよ」
この時、静香は何か嫌な予感がした。特異点の存在と導き手の存在が世界を変える? 何で速水君なの?
「速水君が何? 導き手って何なの?」
「その話は今は話せないの。まだその段階じゃない」
「話せないって! そんなの認められない! どう言う事よ!」
立ち上がった静香はルシ-ルに詰め寄る。あまりの迫力にのけぞったルシ-ルだが、そんな静香を千鶴は必死に止める。
「静香! ちょっと冷静になりなさい!」
「離して! これは絶対聞かないといけないの!」
「落ち着きなさい。今は話せないのよ。それはまだ私達にも伝えられていないの」
「だって! 速水君はどうなるの!?」
その言葉に一瞬悲し気な表情を見せるルシ-ル。それに気が付いた者は居ない。
「一旦落ち着きましょう。静香も座って。話を整理しましょうよ」
千鶴は冷静に対処していた。本当は千鶴自身もこの話は気になっていたのだが。
静香も落ち着きを取り戻した時点で、ルシ-ルが語りだした。
「貴女が取り乱す気持ちはわかるのよ。でも私達聖女も順番にお告げがあるの」
ここでルシ-ルが聖女と言う存在がどう言う者なのか説明した。
1.聖女と呼ばれる人間は、各女神たちの意志を反映する存在である。
2.女神には権能がありその性質により国の繁栄の仕方が変わる。
3.ジュノ-の意志はある段階を越えた時に反映する。
「概ねこの3点は説明できるの。これまでの聖女達は1と2を順守した。でもジュノ-様の意志が反映された事は無かったの」
「じゃあ全てが初めてって事なの? 導き手や特異点と言うのは、ジュノ-様の意志って事?」
「そうなるわね。まだ私達も役割については理解していないわ」
「じゃあ何故マリアは宗教を作ろうとしているの?」
「それはもう貴女も理解しているでしょ? 全ての国々を繋ぐためよ」
静香も千鶴も話を聞いて納得はしていた。だが明確な答えが欲しかったのだ。
この世界の謎、そして自身の役割。
静香と千鶴は何かを見落としている気がしたが、これ以上は情報が得られなかった。
希望はあるのだが、どうしても不安が拭えない。
速水は一体どの様な役割をジュノ-から与えられているのだろうか―――
「ねぇねぇ、お菓子のお代わりは?」
そして能天気なマリアの作る『ジュノ-教』の役割とは?
この世界の謎に迫る静香達。しかし希望と共に不安がよぎる。
果たして信頼雑貨の社員達の行く末は......
次話は速水君がんばる