やって来たのは意外な人物
アルメリアから派遣されてきたのは......
信頼雑貨が派遣したのは、意外な人物だった。田村達の話を聞き信頼雑貨の首脳陣が派遣を決めたのだが、思いの他立候補者は多かった。
「まさかの人選やがな!」
「おお、待たせたか?」
「お待たせいたしましたわ」
スレイブ王国へ派遣されたのは、岩さんとセラフィア王女。何故この人選なのだろうか?
「ちなみにこの人選って、どないなってますのん?」
「ん? この国に来たい奴は多かったんだがな、公平にくじ引きだ」
「私、くじ運は強いんですの!」
「え?! くじ引きでっか?!」
まさかの返答に田村達も困惑気味だった。他国への派遣をくじで決める会社ってどうなんだろうね!
「まぁ一番公平だろ? まぁ俺としては食文化を見たかったのと、お前らが食べる物で苦戦してると思ってな」
「私は速水様のいるサリファスへ行きたかったのですが、当たりを引いたのがこっちだったんですの!」
岩さんが言う事は間違っていない。正直、この国に来てから食べる物に飽きていた。味付けも塩のみとか暖かい物もあまりなかった。この世界に来た当初のグランベルクがそうだったのだが、今や食文化も進んでいるのだ。
「会社から伝言も預かってるんだった。今、派遣しているサリファスとスレイブ王国には、アルメリアからより多くの職人が派遣される事になった。それに合わせてうちの社員も商品の配達がてら、順番に来るからな」
「職人さんでっか? どういう経緯何ですか?」
「職人を派遣する事は、先日の共同事業の式典の際に決まっていたらしい。今から育てるには時間が掛かるし、効率が悪いだろう?」
「確かにそうでんなぁ。アルメリアみたいに学校もないし」
「ああ。その代わり2国の職人をアルメリアの学校で勉強させるって言う話だ」
3か国共同事業の締結時、職業専門学校への入学も決められていたのだ。技術を吸収した段階で国に戻り活用出来れば、徐々に発展して行くだろう。
「何にしても岩さんが来てくれたんは、助かりまっさ♪」
「私達もお料理勉強しないとね」
「愛? どうしたの? 急に料理覚える気になった?」
「美樹も覚えなさいよ。女子力アップしないと」
「へぇ、どういう心境の変化なんだか。あやしいわ」
「な、何よ! 私だってやれば出来るんだからね!」
「セラフィアちゃん。久しぶり♪」
実は岩さんに対抗心を燃やす倉木。安田はそれに気がついたようだが、面白いのであおって行くようだった。
「そう言えば高橋さんや蓮見さんの姿が見えないようだが?」
「お二人は領主さんと一緒に、王都へ行きましたんや」
田村はこの国の問題点を解決する為に、二人が王都へ向かった訳を説明した。そこにキャロライン夫人がやって来た。
「あら、こちらの方達は?」
「キャロライン様、この二人は......」
「初めまして。信頼雑貨の岩本 浩二です」
「同じく、セラフィア・アルメリアですの」
「良くおいでになられました。そ、そのセラフィア様はもしかして」
「ええ。私は、アルメリア王国第一王女ですの」
とっても偉そうに胸をはるセラフィア。全く威厳は無いのだが、一応は王女様だ。
「これは失礼を致しました。まさか王女殿下がお越しになられるなんて」
「今は信頼雑貨の社員ですの。過分なお気遣いはおやめくださいませ!」
「へぇ、セラフィアもちょっとは成長したんやなぁ」
「田村様⁈ ちょっとではなく成長いたしましたの!」
そのやり取りを見てキャロライン夫人は驚いていたが、信頼雑貨では一社員として扱っている。
「あまりに驚いたので忘れておりました。頼まれておりました物件の件ですが、ご用意が出来たとの報告が来ております」
「ホンマでっか! ほんなら一回見に行きましょ!」
田村達は店を出すために物件を探していた。頼んでいた商品も届いたので良いタイミングだ。
◇◇◇
すぐに物件を見に行った田村達。屋敷から歩いて行ける範囲で、大きさも充分あるとの事だ。
物件は街の中心部に近い位置にあり、元々何かのお店だった様で少し手を加えれば十分使用可能だった。
「これなら私達も使えるね」
「グランベルク1号店を思い出すわね」
倉木と安田は出店を経験しているので、ノウハウは持っている。
「良かったな。話を聞いていたから、商品棚も持って来ているぞ?」
「流石岩さん! それじゃあ、すぐにでも始められるわね」
「ほんならここで決定でんな。俺が契約してきまっさ♪」
田村はキャロライン夫人と売買契約を進めに行った。残った面子とアルメリアから来た人員で、店舗へ物資が運び込まれていく。アルメリアでの出店の際に苦労した事も、今では良い経験になっていた。
「この隣の建物も買ったのよね?」
「恵......ちゃんと話聞いてなかったのね」
「洋子、私にそれを求めたらいけないわ」
「はぁ。分かってたけどね。そうよ。こっちは私達の裁縫工場と倉庫に使うのよ」
新店舗となる物件は2軒続きの物件だった。ちょうど店舗と裁縫工場、余ったスぺ-スを在庫置き場として使用するのだ。この国で初めての店舗なるのだが、加えて革製品も初出品となる予定だ。
「頑張って早く商品化しないとね!」
「はいはい。恵は気が早いのよ。その為の人員も来てくれてるんだから」
「美樹、綿はどうなってるの?」
「愛、綿自体は手配済みよ。後は間宮さんが製品化に向けて研究するって」
「その間宮さんはどこ行ってるのかしら?」
「農家に行ってるみたいよ。綿の他にインクや香り付けに使う花なんかも、探してくれているみたい」
この後、『ギャラン1号店』の開店に向け準備が進められる事になる。
商品の補充については1週間に1回程度の頻度で、定期便が来る事になった。
一方でダムの建設計画も進んでおり、資材調達や職人の手配などで高橋と蓮見は多忙を極めている。
スレイブ王国は公共事業と新たな文化を取り入れて行く事で、大きな変化が生まれ始めていた―――
一から職人の養成は流石に時間が掛かりすぎる。効率よく工事などを進めるために、多くの職人が各国に派遣されていた。未だ食文化も技術も発展していないスレイブ王国も、アルメリアと同様に変化して行く事になる。
次話からサリファス王国で奮闘する速水サイド。