期待以上は当たりでもない
さてとりあえず手探りの露店を出す事にしたんやけど......
街の広場は賑わうと言う程の人は居なかったんやが、工事で来た人たちに準備を手伝ってもらったんや。
適当に頑張るつもりやってんけど、よう考えたら1人でテントも建てた事無かったんやわ。
「すんませんなぁ。手伝ってもらって助かりましたわ」
「いえいえ。こういう作業も新鮮で良いものですね」
今回のスレイブ王国へはアルメリアから沢山の人が派遣されている。今声を掛けた人もアルメリアで工事に携わった人なんや。暫くは道路の整地らしいから、時間も余裕があるらしい。
「さてテントが建ったら、後は机準備して商品並べるだけやなぁ」
まぁ今日は様子見やから、そないに気張らんでええねんな。昼頃まで頑張ったらトミ-神父達も手伝いに来てくれるしな。
そう、この時までは軽い気持ちやったんや。問題は商品並べ終わって気がついたら......
「な、何じゃこりゃあああああ!!!!」
俺の目の前に街の住民がわんさか来て、えらい事になってたんや!
「い、いらっしゃい。何時の間にこんなに集まってたんや」
「お前さんが『神の御使い』様でしょ?」
「ここが噂の『神の御使い』のお店だな!」
すでに町中に露店の噂が回っていたんや。チラシも撒いてへんのに、この人出は予想外やっちゅうねん!
一応、スプ-ンやらの木製食器の使い方は、倉木さんに頼んで絵に書いたものを用意してきた。
ほんまは実演販売するつもりやったんやけど、よう考えたら料理出来る人おらへんかったさかいな。
スレイブ王国とアルメリア王国は共通でお金は使えるんや。違いはお金に描かれている国の紋章だけ。
価値も同じやから、売り出す商品の値段は一律で銅貨1枚にした。
「順番に並んでおひとり様、1点づつでお願いしまっさ!」
もうなぁ、飛ぶように売れるんや! 予定してた品は僅か2時間程で売り切れてしまったから、明日に回す分も取りに帰って売り切った。
「はぁはぁ。と、とりあえず乗り切ったけど、もう商品無いがな......」
あまりの忙しさに時間も気にしてなかったけど、まだ昼?
「あれ? 田村君、どうしたの?」
「なんだ、今からなの?」
「へ? 倉木さんと安田さんか。実は......」
「はぁ⁈ もう売れっちゃったの?!」
「でもまだお昼前だよ?」
「俺もびっくりですねん。まさかの大人気ですわ!」
「でもそれなら明日からどうするの? 作る事も出来ないし」
「そうねぇ。私達も持って来た分は田村君に渡してあるしね」
とりあえず露店は閉めて後片付けを手伝ってもらい、ギャラン邸に戻る事にしたんや。
期待以上は大当たり引いた訳でもないわな。逆に明日からの予定が未定になってもうたし!
◇◇◇
屋敷に帰った俺達は、キャロライン夫人に事の顛末を話した。
「それは凄いわね。この街の住民がそんなに集まるなんて」
「キャロライン様、この街で露店に人が集まるのは珍しいんでっか?」
「ええ。流通が少ないのもあってね。それにあなた達は有名人ですから」
「ゆ、有名人⁈ 俺ら普通の人間でっせ」
「その普通って当てはまらないわ。だって『神の御使い』ですから」
「そうかぁ。この世界の人達には凄い人に見られてるのよねぇ」
「愛もそう思ったんだ。私こそ普通でしかないのに」
俺も含めて信頼雑貨の社員は、『神の御使い』と言う扱いに慣れないんや。なんか特殊な力も持ってないし、あるのは現代知識と技術ぐらいやから。
「俺も何にも特別な力持ってません。それにしても明日からどうするかやなぁ」
「それならサイラスに伝令を走らせましょうか?」
そうや! こうなったアルメリアから持って来てもらうしかない!
「お願いしてもよろしいでっか! こうなったら、うちの商品こっちに持って来て貰いまっさ!」
「それなら『J-Style』の商品も欲しい!」
「そうね。いっそのことこの街の空いてる店舗買い取りましょう!」
どうせ暫くこの街にお世話になるんやし、露店でチマチマやるより店でも出してまえ!
早速、今話した内容を書いてキャロライン夫人に頼んだ。暫くは定期的に持って来てもらわないと、直ぐに商品が無くなってしまうしな。
この3日後、アルメリアから商品が届くのだが......。
◇◇◇
一方、王都へ向かう三人。これまでに立ち寄った街でも、ギャランと同様の問題を抱えていた。
「やはりどの街でも状況は同じか」
「そうだな。山脈が連なっているから、低地に向かって水の流れが出来ている。どうしても水源に近い位置に街が出来るから、同じような問題を抱えてしまうんだろうな」
「高橋殿と蓮見殿は何か気付かれましたかな?」
「そうですねぇ。大体の事情は」
「高橋と同じくですね。後は王都で確認するしかなさそうですが」
こんな会話もあり、王都へ到着するまで色々と議論が重ねられた。
そしてスレイブ王国の王都へ到着した。
◇◇◇
スレイブ王国の王都~
王都へ到着した3人は、直ぐに王城へ案内された。初めて見る信頼雑貨製の馬車は、道中と同じくとても驚かれていたよ。
王城へ到着し献上用の馬車を預けた後、応接室に案内された。
アルメリアと同じく豪華ではあったが、流石に高橋と蓮見も慣れていた。
「どうやらこの国自体は、財政的に傾いては居ないようだな」
「高橋、それを王城で言うな。誰かに聞かれたらどうするんだよ」
「えっと私の存在を忘れてないだろうか?」
「あっ......なんかすみませんでした」
暫く待たされたが、先日見たスレイブ王国の王様と3名の男たちがやって来た。
「私がこの国の王、ネロイ・スレイブである」
「宰相のキアナ・ルロイだ」
「第一王子のロイス・スレイブです」
「信頼雑貨の高橋 遼です」
「同じく蓮見 健司です」
「ギャラン卿よ、ご苦労であったな」
挨拶も終わり、和やかな雰囲気で会談が始まる。
この会談がこの国にもたらす物とは―――
あっという間に無くなった商品。予想できる範囲だったので、これは社員のミスだろう。例え積載に限りがあるとは言え、後を考えなかった点は反省すべき部分だった。
スレイブの王都に到着した高橋と蓮見。果たして国王達はこの国の問題をどう考えているのか?
次話もこの話の続きです。