今後の動き方
ルコモンドを出発し、先ずはメルボンヌへ向かう一行
翌日になりメルボンヌへ向かって出発したんだが、久しぶりの道程にも変化が起こっていた。
「来栖さん、街道の整備ってここまで進んでいたんですね」
「速水、三ヶ国共同事業の式典の時に工事が行われてたんだよ」
「ああ、そうか。ではメルボンヌまでは、アスファルト塗装も終わってるんですね?」
「そうだな。それにメルボンヌの街中でも工事は進んでいるぞ。アルメリアから派遣した人間も、まだ滞在している」
「そうなんですか? そうなると移動は便利ですね。まさか下水工事も?」
「おう! ただ資材をルコモンドからメルボンヌへ移動するのに、時間が掛かるから工事自体はまだまだ時間が掛かるんだがな」
未だ下水工事などで使用する資材については、アルメリア国内でもうちの工場が独占している。アルメリア王国もうちの技術提供で、工場の建設は始まっているのだが。
「そうですか。サリファス王国にも技術の提供を行うんですよね?」
「うちの方針では技術の開示はするが、製品は売るスタンスだろう?」
そんな話をしながらメルボンヌへ到着。確かに街の至る所で工事が行われていたよ。
◇◇◇
メルボンヌへ到着した俺達を待ち構える様に、あのお方が待っていた。
「速水様。お待ちしておりました」
「ルシ-ル様。お久しぶりです」
「ルシ-ルお姉ちゃん! ヤッホー!」
「うふふ。マリアちゃんも来たのね」
「ルシ-ル様、まさかここまでお出迎えしてくれたんですか?」
「速水様が来られるんですもの。教会としても歓迎ですわ」
(ゾクっ)
何か寒気がする! 俺は慌てて振り向いたんだが、そこに般若を背負った静香さんと千鶴さんが......
「はーや-み-く-ん。何か嬉しそうね」
「そうね。これは見逃せないわね」
「へ⁈ そ、そんなことないですよ! 挨拶しただけです!」
静香さんに怒られるのは分かるんだけど、花崎さん? めちゃくちゃ怖いんですけど!
「さぁとにかく屋敷に参りましょう」
ルシ-ル様に連れられて、俺達は以前滞在した屋敷に移動した。今日はここで滞在して、明日には王都へ向かう事になる。
そこで待っていたのは、この街の全く目立たない領主と王都からの役人だったんだ。
「初めまして。サリファス王国のオラエル・スティングと申します」
「私がこの街の領主であるザハルト・メルルです」
「初めまして。信頼雑貨の速水 慎一です」
順番に挨拶を済ませ、応接室で今回の話をする。メルボンヌの領主様は影の薄い人だ。
それにメルボンヌって言う姓じゃ無いんだな。
「さて『神の御使い』の皆様は、サリファス王国の問題にどう対応して頂けるのでしょうか?」
「私共の考える方法は、各担当ごとにお伝えします」
まず俺と静香さん、花崎さんで流通管理組合を新しく立ち上げたい旨と許可を求めた。
そして来栖さんと職人の方々が街道整備と下水処理、そして新たな工場建設について話していく。
「先ずは優先して街道の整備を行いたい。これにはサリファス王国の農民の方々にも協力をお願い致します」
「農民ですか? それは大丈夫だと思いますが」
「ええ。街道をアスファルト塗装する前に整地作業があります。農地を耕す技術をお持ちの農民の方々なら、作業も早く進むはずですし」
「なるほど。それは各街の領主も賛成するでしょうな。しかしアスファルトとは何なのでしょう?」
「それについてはメルボンヌの街の街道を見て下さい。材料には『燃える土』を使用しております」
「あの『燃える土』ですか?! あんな物が道になるのですか?」
スティングさんは『燃える土』は知っている様だ。まぁ普通なら、使い方は考えつかないだろうね。
「メルル卿は聞いていなかったのか?」
「スティング卿、申し訳ございません。私は工事の詳細について無知でございまして」
この街の領主であるザハルト・メルルと言う男性は、非常に頼りなさそうだ。自分の街の工事なんだし、確認しないとね。
微妙な空気の中、岡田さんが質問をした。
「農作業で使われているレ-キは、この国で作られているのですか?」
「ええ。主に農耕で使う物は、金物屋に工場がございまして」
「そうですか。なら来栖と草薙はそっちに行かないとな。俺は農地の作物を確認したい」
「岡田は製品に使える物を探すんだったか? なら一緒に行こうか」
「それなら俺と静香さんと花崎さんで、王都へ向かいましょうか。中心はやはり王都になりますし」
「そうね。工事も順番でしょうから。千鶴もそれで良いわよね?」
来栖さん、草薙さん及び職人さん達は、工事の日程に合わせて移動する形をとる。この国の職人の育成もあるので、暫くは分かれて活動になるな。
「私は静香に着いて行くよ! ルシ-ルお姉ちゃんも王都へ帰るんでしょ?」
「マリアちゃん、私は速水様と行動するわ。勿論、王都へ行くわよ」
ん? 何だろう。結局大所帯になるみたいなんだが......
「スティング様はどうされるんですか?」
「うむ。私は来栖殿達と工事の日程を調整する必要がある」
「そうですか。では私達は明日、王都へ出発いたします。それと相談があるのですが」
「ん? 相談であるか?」
「はい。実はですね......」
ここでバルトフェルトさん達の事について、話を聞いてもらう事にした。それに対しての俺達の考えも合わせて説明していく。
「まさか生きていたとはな。王国としての意見も確認せねばなるまい。私個人としては、あまり大事にはしたくないがな」
スティングさん曰く、当時の件は王国内では決着している。だが、生存していた事でアルメリア王国との関係が崩れる事を危惧していた。
「やはりそうですよね。では王都で話をしてきます。それまではこの街で滞在して貰いますので」
「わかった。彼らの処遇については私が責任を持とう」
スティングさんが冷静に対応してくれたので、この話はとりあえず保留だ。
俺達は明日、王都へ向かう。まだ街道の整備が間に合っていないので、5日ほどかかるんだ。
この事が後に、サリファス国内で一波乱起きる事になるのだが―――
ここで速水達は一度離れての活動になった。
サリファス王国での生活が始まる。
次話は田村サイド。(スレイブ王国)