過去の清算(速水サイド)
田村達が出発した後、速水達もサリファス王国へ向け出発した。
さて田村達がスレイブ王国へ向けて出発した後、速水達もサリファス王国へ向かっていた。
先ずはルコモンド経由でメルボンヌへ入る予定なのだが。
「ねぇねぇ、静香とはやみんは、付き合ってるの?」
「マリア? そうだけど......何か意外ね。気になる?」
「だってハ-トが飛んでるもん! はやみんが気持ち悪い!」
「き、気持ち悪いって何⁈ か、かっこいいと思うけど」
「ええ-?! 静香を見る目とか気持ち悪いよ!」
全部聞こえているんだが。どう反応して良いかわからん。
「二人とも! 速水君落ち込んでるんだけど?」
「千鶴もそう思わないの? はやみん! どうしたの?」
カバ-してくれる花崎さんは優しいが、マリアさんが辛辣すぎる!
「お、俺は大丈夫ですよ」
そう言うのがやっとだった。まさかそんな風に見られてるとは思って無かった。
馬車は順調に進み、三日後にルコモンドへ到着した。
◇◇◇
街に到着した後は、ルコモンド辺境伯へ挨拶に向かう。
「おお、久しぶりだな。サリファスへ向かうんだったか?」
「お久しぶりです。今日はお世話になります」
「まぁゆっくりしていけ。ん? そなたには見覚えがあるな」
ルコモンド辺境伯が唐突に言ったんだが、誰の事? 今回のメンバ-でここに来た事無いのは、品管の岡田さんとファリス教の司教達。それと文官と......
「覚えておられましたか。あの時はご無礼を」
そう言ってルコモンド辺境伯の前に出て来たのは、バルトフェルトさんだった。彼はハ-メリック帝国の戦争時、アルメリア王国へ逃げて来た人だ。王都の旧スラム街の代表でもある。
「生きておったか。お主もサリファスへ向かうのか?」
「はい。色々とありましたが、ここにいる速水様達には恩義がありますので」
この二人の関係って何だろう? 彼の事はよく覚えているしスラムの整備にも協力してもらったが、ルコモンドさんと面識がある事は聞いていなかった。
「あの後何があったか聞かせてくれるかね」
「はい。一度お礼に伺おうと思っていましたので」
この後、要塞に入り会議室にて話を聞く事になった。文官達や他の随員は明日の出発の準備を優先してもらった。
◇◇◇
会議室にはルコモンド辺境伯、俺を含む信頼雑貨の面々、そしてマリアさんとバルトフェルトさんだ。
「先ずは、この男との関係から話さねばならないな」
ルコモンド辺境伯はそう言うと、過去の話を話し始めた。
ハ-メリック帝国の内戦時、逃げて来た旧ロンダ-ク帝国の人々はサリファス帝国を経由してアルメリア国内へ向かっていた。勿論、事前交渉も無いためにサリファス王国でも戦闘があったらしい。
「あの時、我々も逃げる為とは言え、精神的に追い詰められていました」
バルトフェルトさんも当時を思い起こしながら、相槌を入れる。
アルメリア王国としてもハ-メリック帝国との関係もあるので、交渉も無く国内に入れる訳には行かなかった。匿うと戦争になる危険があったからだ。サリファス王国も立場は同じだった。
「私としても鬼気迫るロンダ-クの兵士たちを見て、このまま国内へ入れる事は出来なかった」
まるで襲い掛かるようにアルメリア国境へ向かって来るロンダ-ク帝国の兵士に対し、ルコモンドの兵士たちは立ち塞がった。『武の将軍』が率いる兵士達はアルメリア王国でも有名だ。
「あの時は食料なども無く、サリファス国内でも略奪がありました。私も指揮官として止めようとしましたが、混乱もあり後悔しています」
バルトフェルトさんは旧ロンダ-ク帝国の騎士団長だったんだが、自身の指揮する兵団員の愚行を止められなかったんだ。人間は極限まで追いつめられると、善悪の判断がつかなくなるもんな。
結果的に多くの兵士はルコモンド辺境伯の兵に討たれ、生き残った兵士が集められた。その時の戦闘でバルトフェルトさんの腕を斬ったのが、ルコモンド辺境伯だ。
「あの時に私に全ての責を負わせる事で、残りの兵士達を助けて頂いた恩は忘れません」
「うむ。どんな事情があったとしても、そうしないとサリファス王国の怒りも収まらんからな」
サリファス王国から引き渡しの要求もあったらしいが、ルコモンド辺境伯は全滅したと報告したらしい。この事を知っているのは国王と数名だけだ。
「それでサリファスへ入る意味は分かっているのだな?」
「はい。もしも我々を覚えておられる方々がいれば、その責を負うつもりです」
「口を挟んですみません。今回の随員に旧ロンダ-ク帝国の兵士の方は居るんですか?」
「速水様。私を含め10名ほどの生き残りも入っています。その者達は略奪などは行っていませんが、同罪です」
「そうですか。悲しい歴史ですね。しかし存在が知られると、サリファス王国も黙っていない可能性もありますよね?」
これは本人たちの問題だけではない。助けたアルメリア王国の立場もあるのだから。
「うむ。そうなれば守ってやることはできん。まぁそれも分かっての行動なのだろうが」
「はい。私達は過去の罪を償わなければなりません。例えこの身が引き裂かれようとも」
バルトフェルトさんの意志はわかった。本来なら関わる必要は無いんだけど、俺はそれも違うと思った。悲しい出来事を命だけで終わらせてしまう事が、善なのか? 略奪などを行った兵士は既に、この世にいない。
「この件、私に預けて頂けないでしょうか。何が出来るかまだ分かりませんが、命で償うやり方に納得が出来ません」
「速水殿、高潔な考えだとは思うが、この世界ではそれが普通なんだよ」
「速水様、我々の事は大丈夫です。巻き込む形になり申し訳ございません」
この世界では罪を償う形は首を差し出す事。それは分かっているし、間違ってるとは言えない。
だがそれなら救われない命がある事も事実だ。バルトフェルトさん達も罪は分かっている。
「ルコモンド辺境伯殿、速水の考えに我々も賛成します。甘いのも承知の上で」
そう言ったのは来栖さん。そして周りの社員達も頷いている。
「ん? 『神の御使い』殿は同じ考えなのか?」
「我々の国でも殺人などは罰せられます。ですが更生する機会を奪ってはならないと言う国でした。お話を聞く限り、罪を犯した兵士は既に罰せられています。バルトフェルト氏も責任者としての罪は、辺境伯が罰せられた」
「ふむ。確かに表面上はそうであるな。だがサリファス王国がそう考えるかは分からんがな」
「それは一度、サリファス王国と話をしてみないとわかりませんが......」
非常に難しい問題だが、俺は話をしてみようと思う。どういう決着になるかは分からないが。
この話はサリファス王国の対応次第なので、ここまでにした。サリファス王国の問題解決に新たな問題が出て来た。果たして速水達は全てを決着させる事は出来るのであろうか―――
ここに来て新たに問題を抱えた速水達。戦争時の事とは言え、せめて良い方向で話が出来れば良いのだが。次話も速水サイドで話が続きます。