出発準備と暫しの別れ
出発準備に追われる中、動きもあったようだ。
俺達が各自準備に追われる中、専務を中心にハ-メリック帝国の件で動きがあった。
アルメリア王国との協議で他の4か国と連携して、ハ-メリック帝国に対し包囲網を構築する。
「じゃあ専務達は、アルメリア王国と何か決めたんですか?」
「速水君達が各国へ行っている間に、4か国と今後についてどう動くかは決まったよ」
「差し支えなければお聞きしてもいですか?」
「まず私達を含めた各国は、戦争は避けたい。それにハ-メリック帝国も現状、聞かれたくない事を知られたとは思っていないだろう」
「それはそうでしょうね。戦争で国が疲弊してしまっては、意味ないですし。ハ-メリック側も、まさかミネルヴァ教から情報が洩れるとは考えてないでしょうしね」
「そこで先ずは情報を4か国で共有して、速水君の言う内部から崩す方向で動くことが決まったんだ」
「そうですか。ジャニス様は国に戻られるのですか?」
「長く空けると疑われる可能性もあるが、何でも影武者を用意している様だよ」
「影武者ですか。命の危険がありますから、その方が良いでしょうね」
ジャニス様はファリス教で保護される事に決まったらしい。ミネルヴァ教徒が現体制に不満を持っている勢力に、噂と言う形で流布していくんだって。
「噂も出来るだけ血を見ない形が望ましいんだがな」
「そこが一番難しいですよね。過去に遺恨が残る形で、吸収された人達がいますし」
「血を流さず現体制の崩壊を目指したいんだがな」
「我々日本人ならそう言う考えになりますが、この世界の人々の良心に訴えるしかなさそうですね」
とにかく上手く行く事を祈るしかなさそうだ。実際、俺達の考えは甘いのかも知れない。
「それで速水君達の準備は順調なのか?」
「俺の方はギルドの結成に関する書類作成を急いでます。工場や品質管理の方は、準備が大変そうですよ」
「サリファス王国は、我々がこの世界に来た当時のアルメリアに近い状態らしいな」
「そうですね。また一から構築するしかないです。ノウハウはありますから、皆張り切ってますけど」
◇◇◇
一方、こちらはスレイブ王国へ向く準備を進める田村達。
「倉木さん、持って行く物の準備は進んでまっか?」
「田村君、そうねぇ、実際に使えるものがはっきりしてないのよ」
「使えるものでっか? 生活の話やろか?」
「生活に必要な物は最小限にするわ。ただ此処と違ってお風呂も無いだろうし」
「ああ。せや、それを忘れとった!」
グランベルクの街は水道設備もあり、社内で過していると忘れがちになる。この世界に来た時に、苦労した事も。
「また初めから始めないといけないのよね。まだスレイブ王国の現状も知らないし」
「その辺は俺にお任せでっせ。女神はんの権能は分かってることやし」
「えっと、確か『芽吹き』だったわね。作物でも作るって事なのかしら?」
「そない単純なら、良いですけどね。先ずは現地で聞き込みからでんなぁ」
スレイブ王国の情報は、3か国同盟の調印式の際に確認できていない。分かっているのは、井戸などの整備が出来ていない事と街道整備が必要である事ぐらいなのだ。
「綿の花の方はどうするんでっか?」
「そっちは品管の方でやってくれるみたい。製品化までが目標なのよ」
「もちろん『J-Style』も出店しはるんでしょ?」
「ええ、そのつもり。田村君にも頑張ってもらうわよ?」
「ま、任せて下さい! く、倉木さんの為に頑張ります!」
「うふふ。頼りにしてます」
田村は緊張すると標準語になる。これを知っている人間は社内には少ないのだ。
◇◇◇
それから更に3週間ほど経ち、出発準備が整った。
「ようやく出発だな」
「ほんまやなぁ。まぁお互い身体大事にがんばろな」
「命も大事にしてくれよ?」
「当り前やがな。なんせ倉木さんも一緒やさかい」
「はいはい。それを倉木さんに直接言ったらどうだ?」
「そ、そんなん言えん。俺の心はガラスで出来てるんやで?」
そんなバカみたいな会話をしている時に、見送りの専務達が来てくれた。
「各自これから出発のようだな。皆の代表として無事に帰って来て欲しい」
「はい! 出来るだけ早く帰って来れる様に頑張って来ます!」
「大船に乗ったつもりで居て下さい! ちゃんと目的は達成させますさかい!」
「ははは。田村君、頼んだよ。高橋君、蓮見君達も頼むな」
「専務、お任せを。特に田村は気を付けます」
「ちょ、蓮見課長⁈」
「ねぇねぇ、静香ぁ! まだ行かないの?」
「マリア......子供じゃ無いんだから待ちなさい」
「だって暇なんだもん♪ お腹も空いてきたしぃ」
「貴女さっき食べてたじゃない!」
「ええ⁈ 今日は控えたもん!」
「そうでござるな。マリアは今日そんなに食べてないでおじゃるよ」
「それはあんた達が、いつも食べ過ぎだからでしょ!」
マリアさんとトミ-神父も暫く会えなくなるから、寂しいのだろうね。きっと!
いつもと変わらない雰囲気で、今回は分かれて出発だ。
「ほんならこっちは出発するわ! 速水らに会うんはお互い目的達成の報告の時やな!」
「ああ! しっかりな! 俺達も負けない様に頑張るよ!」
「トミー! 寂しくなっても頑張りなよ!」
「マリアにそのまま返すでごじゃるよ! あ、静香が居るでござるな」
こんな感じで出発した。俺達はまず国境の街ルコモンドを目指す。田村達は王都経由でスレイブ王国との国境、サイラスと言う街を最初の目的地にしている。
速水達と田村達。二手に分かれた社員達は、問題解決に向けて動き出した。
成功のカギはどれだけ情報収集出来るかだ!
何とか出発した2組。問題解決にどれだけの日数がかかるか未知数だ。
次話はスレイブ王国へ向かう面々のお話