社員達は自ら考え動き出す
目的が見えて来た社員達は動き出す。
前日の社内会議で、大まかな方向性は決まった。だが気になる事も多く残ったんだよね。
「おはようさん。なんや? 寝られへんかったんか?」
「田村。おはよう。まぁな、やるべき事は何となくわかったけどさ」
「ん? ああ、速水本人の件か?」
「それもあるな。実際、今後何をしたら良いかわからん」
「せやなぁ。『導き手』言うんやから、俺らを導く何かが速水にあるんやろうな」
「導くってなぁ。そんな立場でもないし、そういうタイプじゃないからさ」
「そうか? 速水は突っ走るとこあるけど、間違った事はしてへんやろ?」
「社長から思った通りやれ! って言われて営業頑張ってたからさ」
「社長は速水に期待してたからやろな。ここに社長がおったら......」
「ああ。そう言う意味では社長が居てくれたら状況も変わったかもな」
実際、日本では社長の存在が大きかった。こうなんて言うか、安心感があったからさ。
「まぁ居らんことで、自由な部分も多いけどなぁ」
俺達は食堂へ移動したが、食堂内でも昨日の話で社員達は皆話し込んでいる。
「速水君、おはよう♪」
「静香さん、おはようございます」
「それで? 速水君達は今後どう動くつもりなの?」
「花崎さん、おはようございます。それなんですが、先ずはサリファス王国へ行くつもりです」
「それってアルメリア王国を離れるつもりって事?」
「昨日、会議が終わった後に管理職で話をしたんです。こうなった以上は、動くことを考えようって」
「静香は聞いてたの? 速水君と離れる事になるじゃない?」
「千鶴、私は速水君に着いて行くわ。もうそのつもりで準備してるもの」
「はぁ⁈ ちょっと! 私達何も聞いてないわよ!」
「千鶴さん、落ち着いてください。皆も聞いて欲しいんですが」
昨日の会議の後、沢田専務・清水部長・高橋課長・蓮見課長・大塚係長・俺で今後について話し合ったんだ。
「昨日の話し合いで、各部署から希望者を募る事になってます。道筋が見えた以上、この国に留まって居ては前に進めません」
「それって皆がバラバラになるって事?」
「ある程度は仕方ありません。勿論、身辺の警護に護衛の人を雇いますが」
「離れると言っても、先ずは隣国の2国です。工場部門と職業専門学校の職人の方々にも動いてもらいます」
「でもこの国を離れたくないって社員もいるわよ? それに会社の社屋もあるし」
「それは残る社員で守ってもらいます。俺達も帰る場所はここですから」
「速水君はサリファス王国で何をするつもりなの?」
「俺はあの国で流通管理をします。あの国の大きな問題は、物が流通出来ていない事なんで」
「静香も速水君と行くのよね?」
「ええ。私は速水君とギルドを作ろうと思ってるわ」
「田村君は?」
「俺はスレイブ王国へ行きまっさ。あっちの国に興味が出て来たさかい」
「え? 俺はてっきり一緒に行くんかと思ってたんだけど?」
「だって倉木さんがスレイブ王国行くって言うさかい」
「え? 愛? 私聞いてないんだけど?」
「あれ? 千鶴さんに言って無かった? 元々あの国に用事があるんですよ」
「用事って? 衣料品関係かしら?」
「そうなんです! なんと綿の花があるんですよ!」
倉木さんが担当する『J-Style』はこれまで麻と絹で衣料品を作っていたんだが、スレイブ王国で綿の花があると言う情報を得たらしい。一番欲しかった物があるのなら、そっちに行きたいという事だ。
「この国の店舗はどうするの?」
「ん? もうこの国の女性達に、店は任せて大丈夫ですから。今後は他の国にも進出します」
元々『J-Style』部門は他国への進出を考えていた。どの国でも流行りそうだしね。
「という事は。美樹もスレイブ王国へ行くの?」
「はい。愛とは昨日のうちに話をしてますから」
「私達2人は、サリファス王国へ行きますよ。ねぇ洋子!」
「はいはい。恵には私が居ないと何するか分からないですからね」
森田 恵と栗田 洋子は、裁縫チ-ム責任者だが、靴やバッグの皮を求めてサリファス行きを決めたそうだ。
「ちょっと~。私だけ話に参加してないじゃない!」
「だって千鶴は経理だもん。大塚係長が出したく無いんじゃない?」
「いいえ! 私も速水君と静香について行きます! ギルドだって経理が居るじゃないの!」
花崎さんも俺達について来る様だ。経費関係を任せるなら花崎さんが居れば大きいね。
「私、今から大塚さんに言ってくる!」
花崎さんはそう言って経理部へ走って行った。
「これからは皆と離れて活動する事になっちゃうね」
「田村はちゃんと倉木さん達を守れよ?」
「当り前やがな! 俺がしっかりエスコ-トしまっせ!」
「うふふ。田村君、たくましいのね」
「く、倉木さんの為なら、頑張りまっす!」
今回、サリファス王国とスレイブ王国には各部署から人が派遣される。内訳的には下記のようになる。
☆サリファス王国
・広報部門(兼営業部)→速水・中村
・経理部門→花崎
・工場部門→来栖・草薙、他職人達
・品質管理部門→岡田
・その他→アルメリア王国から多数の文官と街道整備に関わる人員
・ファリス教→マリア、司教他
☆スレイブ王国
・営業部門→高橋
・販売部門→田村、安田
・総務部門→倉木、森田、栗田
・工場部門→蓮見・安藤(初登場)他職人達
・品質管理部門→間宮(初登場)
・その他→アルメリア王国から多数の文官と街道整備に関わる人員
・ファリス教→トミ-、司教他
今回、ファリス教からもマリアさんとトミ-神父が派遣されるらしい。交流の一貫という事だが、大丈夫なんだろうか?
そして残る社員と専務達で、ハ-メリック帝国の件に対しアルメリア王国と連携して動く事になる。俺の意見も参考にしながら、ジャニス様達ミネルヴァ教と話を進めると言っていた。
俺達は準備が出来次第、2か国へ分かれて行動を始める。
さて、どうなりますか―――
※品質管理部門は工場部門から独立しました。
ここから物語は加速していきます。速水達の視点と田村達視点の話が交互に入る予定。