俺達の進むべき道筋
社内会議当日......
翌朝、社内はざわついていた。色々と何があったか聞きに来る社員達は居たが、直接聞いた方が良いと返事をしたんだ。俺自身が困惑しているので、先入観を持ったらいけないしね。
「速水、おはようさん。なんや? 疲れた顔してからに」
「田村か。色々皆に聞かれるからさ」
「まぁ今後の事も関係するんやから、仕方ないわなぁ」
「それは分かってるんだ。俺も自分の事もあるしさ」
「例の『導き手』ってやつか? あんま気にしてもしゃあないで!」
「ああ。ありがとな」
こういう時は、田村の存在が大きいな。気分が滅入ってる時は、特にそう思う。
今日の会議は工場の一角で行われるのだが、店舗へ出ている社員も今日は業務を休むそうだ。
街の住人を雇っているので、任せられるんだ。この分なら俺達が居なくなっても営業できるだろうね。
「そう言えば、今日は倉木さん達も出席するんだろう?」
「そうらしいで! やっぱり皆で聞かなあかんしな。街の従業員もしっかりしとるし」
「嬉しそうじゃないか。お前も早く告白しろよ」
「お、お前なぁ。それは......まぁ、そのうちにやなぁ」
「いつもの勢いはどこ行ったんだよ?」
「その話は置いといて、そろそろ行かんと!」
おっと、喋ってたら会議の始まる時間が迫って来ていた。俺達は急いで会議が行われる工場へ走った。
◇◇◇
工場の臨時会議場~
俺達が会場へ向かうと既に多くの社員達は集まっていた。何時の間に用意したのか、椅子やテ-ブルが設置され、ちゃんとした会議場が出来上がっていたよ。流石はうちの社員と言うところかな。
「いつもながらびっくりだな。全社員座れるんじゃないか?」
「今更やろ? 本気出すとこ間違えてる気もするわ」
((((ザワザワ))))
「ん? 聖女様達が来たみたいだな」
「どこや?! めちゃくちゃ美人なんやろ?!」
「お前なぁ。後で倉木さんに報告しておくからな!」
「う、裏切者! 男やったら当たり前やないか!」
「ん? 俺には静香さんがいるから」
「このリア充が! 爆発してしまえ!」
会場は特に指定席がある訳ではなかったんだが、俺の席は何故か最前列だ。
「ではそろそろ始めたいと思う。質疑応答は話を聞いた後、時間の許す限り行う事とする」
沢田専務がそう言い、社内会議は始まった。
「先ずは今回、お話を聞かせて下さる各国の聖女様をご紹介しよう」
壇上に上がる聖女達のあまりに華やかな光景に、社員達から歓声が上がった。確かに美女軍団だし、何かオ-ラを放ってるんだよね。
「うふふ。では自己紹介から始めた方が良いかしらね。私はファリス教......」
6人の聖女が順番に自己紹介を行った後、王都で俺の聞いた話が皆に説明された。
・女神の関係性について
・始まりの女神が俺達に求めている事
・ハ-メリック帝国の事
・『導き手』と『特異点』の存在
・50年周期の謎
大まかに上記5点が説明された。話を聞きながら皆は色々と考えを巡らせていた。
「それでは、聖女様達の答えられる範囲で質問を受け付ける」
「はい! 販売部の佐々岡です! 各国の問題解決と言っても距離的に無理がありませんか?」
「そうですね。一番遠いハ-メリック帝国まで移動だけで3か月かかりますね」
「3か月? それって飛行機で行く距離じゃ?」
「佐々岡君。飛行機と言う例えは、この世界では通じないぞ?」
「はい! 今の質問について俺から考えがある」
「蓮見君か。どう言う事だね?」
「移動に関しては、この国で行った道路整備や列車で、ある程度解決できるだろうさ。今考えるべきは、各国の問題解決だと思うんだが?」
「佐々岡君。私もそう思うが、どうだろうか?」
「はい。蓮見課長のご意見はごもっともです。先ずは各国の問題解決を優先ですね」
「はい! 営業部の町田です! 私、前から思ってたんですが......」
営業部の町田さん(女性)からの質問は、各国の問題解決をして元の世界に帰った時、俺達の年齢はどうなるのか? 人によっては両親に会えない可能性もあるのではないか? と言う話だった。
「申し訳ありませんが、私達聖女にもその辺りの事は分かりません。大変心苦しいのですが......」
「町田君。今の話は多くの者が思っている事だろう。だが今は希望を持とう。先ずは帰る事を目指して」
町田さんの質問は、多くの社員が思っていたことだ。帰れたは良いが、普通の生活が戻って来る保障が無い。その事を考えない様に過ごしていたので、いざ手段が見つかりそうになった事で心の内を吐き出したんだ。
「はい! 総務部の花咲です! 『導き手』と『特異点』について詳しく説明をお聞きしたいです。私達との違いは何なのでしょうか?」
「それについてはお答えできません。速水様とマリアが特別な存在であるとしか」
ん? お答えできない? 知らないじゃなくて?
「答えられないという事は、何か不都合があるのでしょうか?」
「ご本人がいずれお分かりになる事ですので、どう聞かれましてもお答えは出来ないのです」
俺にも何か役割があるんだろうな。アナマリア様も聞いても教えてくれそうに無い。
「花崎君。その話はその辺にしておこう」
「は、はい......わかりました」
花崎さんは専務の言葉に納得は行かなかったようだが、次の話に移った。俺も知りたいが、今は今後の方針を決める方を優先しないとな。
「すまないが、私も質問良いかな?」
「ライアン男爵、どうぞ」
「本来、私が聞くべきでなかったハ-メリック帝国の件なんだが」
ああ、そうだった。ハ-メリック帝国の内情について、まだ国王にも報告してないんだった。
「私たちも迂闊でした。アルメリア王国の貴族の方にする話ではありませんでしたね」
「いえ。我が国にも関係する事ですので、彼らの考えも聞いてみたい」
「私も昨日、速水君から聞いたが、政治が絡むとなるとな」
「はい! 速水です。俺の意見を発言して良いでしょうか?」
「ああ。速水君はどう考えているんだ?」
「各国の首脳部にはこの事実を伝えるべきだとは思います。しかし戦争は避けたい。であれば、内部から崩すしかないと思うんです」
「内部から崩す? しかしどうやって?」
「こちらにジャニス様がおられます。ご存知の通り人民の信仰心は高い。ですので」
あくまでも俺の考えだが、上手くいけば国の体制をなるべく争いを少なく解決できると思うんだ。
一切の血を流さず解決する事は、難しいかも知れないが。
「中々面白い考えだが、ミネルヴァ教徒に危険は無いのだろうか?」
「そこは考えないといけませんね。ジャニス様の身も危険に晒す訳には行きませんし」
そこから多くの意見が出て来たんだが、今日だけで、まとまる話では無い。
昼に休憩を挟み、午後も継続して続いた会議でとりあえず方向は決まった。
【今後の動き方】
・先ずは隣国のサリファス王国とスレイブ王国の問題解決を優先
・これまでこの国だけの活動であったが、希望する社員は他国への出向も考える
・各国との話し合いの場を設ける(アルメリア王国へ相談)
・各教会との連携(6聖女と信頼雑貨の関係を密にする事)
帰れる手段が見えて来たので、社員達は前を向く事を決めた。悪い事を考えて進めない俺達じゃない!
今までだって全て手探りだったんだから―――
考えるべき事柄が多すぎて、今日一日の会議では方向性のみ決まった。今後も継続して話し合う事は必要だろうね。それに隣国の問題解決についてもまだサリファス王国しか詳しく知らない。
次話から新章、『変化する国々編』スタ-トです。