雨上がりの暑さとひらめき
雨は、残念ながら……
翌朝、残念ながら雨は止み外は快晴だったのだが、会社内では室内の暑さに参っていた。湿度が高く無いので、我慢できない事はないのだが。
「なんやこの暑さは! あまりに暑いから目ぇ覚めてもうたわ!」
「そうだな。確かに暑い、だが何故俺に言いに来るんだ?」
団扇であおぎながら、だらしない格好で起こしにくる田村。電力が限られているから、空調設備は使っていない。この件は、社内にちゃんと掲示してある。
「なんかええ案ないかと思てな。まぁ、この世界の連中は慣れてるやろうけど」
「そうだな。日本は四季があったけど、この世界は無さそうだしな。ん? 待てよ……」
「何や? なんか思いついたんかいな?」
「いや、お前の使ってる団扇も売れるとは思うが、風を通しながら陽射しは通さない物あるだろ?」
「ん? でもアレはうちにも決まったサイズしかあらへんやろ?」
「それも含めて工場部門に行こう! 飯食ってからな!」
◇◇◇
朝食の後、3Fの工場部門に田村と2人で顔を出した。
「蓮見課長、ちょっとお話があるんですが、お時間よろしいですか?」
「おお、速水と田村か。大丈夫だ、俺1人で良いのか?」
「できれば、工房のスタッフの方にも意見を聞きたいのですが」
「わかった。とりあえず応接室で待っていてくれ」
待つ事10分程で、蓮見課長と工房の責任者である来栖さんが入って来た。来栖さんは職人気質で、怒らせてはいけないと言われている。短髪でいかにも職人って感じの人だ。
「お時間をお取りして申し訳ございません。実は、今日のこの暑さで1つ案が浮かびまして」
「ん? 空調は使わないと掲示してあるぞ?」
「いえ、空調ではなく別件です。この世界、窓にガラスが嵌っているのは貴族の屋敷だけです。一般の家には窓は有っても夜は閉めてしまうので、この気温だと辛いと思うんですよ」
「確かに、ガラスが高級品らしいからな。で? どうするんだ?」
「工房の方に、同席してもらったのは意見が聞きたかったんです。うちにあるブラインドって簡単に取り付け出来ますか? それと加工できますか?」
「結論で言うと可能だ。あれはパ-ツの取り外しが出来るからな。取り付けもビスで固定するだけだから作業時間もかからん。この世界の家は土壁だろう? ビス穴さえ加工すれば問題ないだろう」
「そうですか! ただ、工房の方にご負担をかけてしまう事かもしれません。勿論、社内会議にかけた上でどうなるかわかりませんが」
「どうだ? 来栖。工房の負担にならないか?」
「課長、あいつらも1日中室内で過ごすより、気晴らしになって良いでしょうよ」
こうして工場部門の意見を聞いたので、高橋課長に進言し社内会議に掛けられる事になった。ただ、販売方法については色々と詰めないといけないし、全ての家に設置できるような数は無い。工房の方からは、木材を使って作成も可能だと言われたので、他の商会にも声を掛けようと思う。材料費が安く済めば利益は出せるはずだ。緊急の案件では無かったんだが、午後からの会議でブラインドの件も話し合う事に決まった。
「ほな、俺は露店の方へ行くわな。今日はとりあえず、団扇をセットで売ってくるさかいに」
「そう言えば、声掛けてたな。よろしく頼むよ。倉木さんの前で張り切りすぎないようにな!」
「あほか! ええとこ見せるに決まっとるがな!」
張り切りすぎてミスしなければ良いのだが……。さて、今回の社内会議の議題は、例の護衛の件なんだ。やはり日本人である俺達は、武器は持てないと思うんだ。いざという時は、覚悟を決めるが。
◇◇◇
議長は、清水部長。昨日、ライアン男爵から助言頂いているからな。
「それでは、会議を始めます。昨日、ライアン男爵の屋敷に伺った際、これまで避けて来た話題について助言を頂きました」
ここで、中村さんが皆に資料を配る。昨日帰社した時に頼んでおいたんだ。
「見てもらって分かる通り、我々の身の守り方についてだ。窃盗、強盗、殺人等この世界でもある。それも日本と違って倫理観が薄いと思われる。そこで、男爵から紹介のあったギルドに護衛の件を頼もうかと考えている」
「少しよろしいでしょうか? 私は、経理部門の花崎 千鶴です」
花崎さんは、中村さんの同期で受付にも立つ美人さんだ。腰まで伸びたストレ-トな黒髪で、清楚な感じを受ける女性なんだ。それでいて計算の間違いには、鋭く突っ込むしっかりした人だ。
「花崎さん、どうぞ」
「護衛を付けると言うのは賛成ですが、それはどのぐらいの範囲何でしょうか? 個人単位は無理でしょうし、グル-プ単位なのか? そのあたりについて説明をお願いします」
「指摘のあった部分ですが、当面の間は露店に出る人員に10名につき1人か2人。それと建屋にも常駐で門に立って頂こうかと考えています。護衛の人数については、ギルドにも相談しながら決めようと思います」
「そうですか、それに伴う経費の捻出も御座いますので、決まった時点で報告をお願い致します」
護衛を付ける事は、簡単なんだ。ただし、費用も掛かるしどの様な人が来るかわからない。これについては、ギルドから人を呼んで説明を受けた方が良いかもしれない。後、貴族の争いについても清水部長から話があった。全員が気を付ける事で、自衛できれば良いのだが。
ここから、様々な意見が出て来たので、会議は延長された。
次話は、会議の続きから。日本って犯罪もあるけど1人で歩けるもんなぁ。