セレス教本部からの訪問者
一度ルコモンドの街へ戻った速水達。これから10日程過ごすのだが......
俺達は一度ルコモンドの街へ戻った。新たな情報もあったが、まだしっくり来ていない。
俺達の話を聞く為、いつもの砦へ招かれたのだが―――
「速水君、それで何か掴めたのかね?」
「ルコモンド様、それなんですが......」
俺が代表して女神についての話をした。とここでルコモンド辺境伯から補足が入る。
「そうか。君達は女神信仰について、ほとんど何も知らなかったのだな」
「そうですね。この世界に来て先ずは、生きる事を優先しましたので」
「いいかね。この国アルメリア王国は、サリファス王国とスレイブ王国とは密接な関係を築いておる。有事の際、お互いに軍を出し合う程にな」
「信仰する女神同士の関係と同じなんですね」
「うむ。この関係は建国時からだと聞いている」
「でも他の3国と仲が悪い訳では無いのですよね?」
「ああ、不戦の条約は結んでいるな。ただ交流自体はほとんど無いのも事実だ」
先日のハ-メリック帝国の侵攻の噂が出た時、真っ先に大使がやって来たのが2国だったらしい。
「今やってる補強工事も、ファインブル王国とグ-テモルゲン王国はやっていない」
「そうなんですか。俺はてっきり同盟国同士で、協力するものと思っていました」
「大使は来たらしいがな。どちらかと言うと君達の技術を欲していたよ」
「技術ですか。ですが技術を伝えるにしてもこの距離では不可能ですよね」
ここで国の位置関係の話。アルメリア王国と隣接するのはサリファス王国とスレイブ王国。国境が面しているので、移動日数はさほどかからない。対してファインブル王国とグ-テモルゲン王国には最低ひと月以上かかる。ハ-メリック帝国に至っては、ふた月はかかってしまうんだ。
「我が国は君達の技術で、移動がかなり短縮された。しかし他国では未だ、移動手段が限られているからな」
「俺達が来た当初は、慣れない移動で疲れましよ。ほんとに工場の皆さんに感謝してます」
「速水、その移動についてだが、今後も色々出て来るぞ」
「草薙さん、また何か出来るんですか?」
「まだ試験段階だが、自転車を応用した物を作っているんだ」
「自転車ですか? でも自転車......もしかしてバイクですか?」
来栖さんと岡田さんが一緒に研究してるみたいなんだ。でも燃料がないよね。
「いや流石にバイクは無理だ。街中や隣町の移動を気軽に出来るように、電動自転車を作ってる」
「それは便利になりますね。街道の舗装もかなり進んでますし、自転車も乗りやすいでしょうしね」
「ああ、整地前なら考えなかったんだが、今ならかなり使えるだろうさ」
日本なら公共の移動手段があったから、自転車もあまり乗らなかった。
でもこの世界ならヒット商品になるかもね。
この後、補強工事の進捗具合なんかも聞きながら、懇談は続いた。セレス教の人間がこちらへ来るまでの間、ルコムンド辺境伯の計らいで泊めて貰える事になったよ。会社にもトロッコの運転手に手紙を預けたので、心配される事は無い。女性2人は、辺境伯夫人と共にお屋敷で過ごす事になった。
◇◇◇
それから10日間、俺はルコムンドの流通管理組合支部で仕事を手伝いながら過ごした。この間もハ-メリックの情報を集めていたが、大きな動きは無かった。
「そろそろメルボンヌへ向かわないといけませんね」
「では念の為、うちの兵士を護衛に付けよう。いかにセレス教と言っても油断は出来ない」
辺境伯はそう言って5名ほどの護衛を付けてくれた。何もないとは思うが、今は緊迫しているので仕方ないな。
「では皆さん、行ってきます」
「おう! 気をつけてな」 「お前らもしっかりと頼む」
辺境伯と草薙さんに見送られ、再びメルボンヌへ出発した。朝一番の出発だから昼には到着出来る。
道中は穏やかなもので、緊迫感は無かった。そして予定通り昼過ぎに到着したんだが―――
「「「「「お待ちしておりました『神の御使い』殿!」」」」」
......何だこれ?! 到着した街にはセレス教徒と思われる人達が大勢待っていた。護衛の方々も俺達の前に出て、かなり緊張していた。
「驚かせてしまい申し訳ございません。あなた達、一度お下がりなさい」
集団の後ろから1人の女性が出て来た。プラチナブロンドの髪を肩まで伸ばした、とてもきれいな女性だ。
「失礼いたしました。私、セレス教総本部、ルシ-ル・イグナシオと申します」
突然出て来た女性に固まっていた俺に、護衛の方から耳打ちが入る。
「あの方は、セレス教の教皇です。そのつもりでお願いします」
はぁ、予想はしてたけどいきなりトップがやって来たよ。あの人と同じ匂いがするね。
「初めまして。私、信頼雑貨株式会社の速水 慎一と申します」
「同じく、中村 静香と申します」 「セラフィア・アルメリアでございます」
「あなたが速水様ですのね。うふふ、アナマリアから聞いていた通りだわ」
「えっと、アナマリア様とは交流がおありなんですか?」
「ええ、教会のトップですので。いつまでも立ち話もなんですし、こちらへどうぞ」
ルシ-ル様は何で俺にしか話されないんだろうか? 中村さんとセラフィアの目が痛いよ?
ルシ-ル様に案内され向かったのは、教会ではなく大きなお屋敷だった。この街の領主館だろうか?
応接室に通された俺達は、改めて話をする事になる。果たしてどんな話になるのだろうか......。
待っていたのはセレス教のトップ。見た目麗しいルシ-ル教皇はどんな話を聞かせてくれるんだろうか?