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恵みの雨と不穏な影

ビジネスチャンスです!

 次の日、この世界に来て初めて朝から雨が降った。いつものようにマリアさんとトミ-神父がやって来たが、傘という物が無いのか? ずぶ濡れで入って来たんだ。すぐに、女性社員がタオルを用意し二人に渡した。


「ありがとちゃん! 雨は必要だけんど、濡れるとやだやだ」


「このタオル? って凄い! ふかふかだよ-」


「風邪をひかない様にして下さいね」


「あら? マリア、ちゃんと拭かないとダメよ!」


「静香! おはよう! 雨の日は、こんなもんだよ-」


「え? 傘とか無いの? 言ってくれれば迎えに行くのに」


「傘? 何それ? そんな大したことないよ-」


 その言葉を聞いていた社員が、指示を飛ばしている。そうビジネスチャンスだ! 今日の販売予定は、昨日と同じ鉛筆セットだったが、このチャンスを逃す社員は1人もいないのだ。 


「良い事聞いたわ。マリア、ありがとうね♪」


「ん? 何の事? それより今日の朝ご飯何でしょう? 早く行きましょう!」


「楽しみなのである! 急いで行くべきだべ!」


 相変わらず騒がしい二人と中村さんを見送った後、田村と今日の販売について意見を交わした。倉庫に傘の在庫は沢山ある。ビニ-ル傘も珍しいからきっと売れるだろう。今朝、工房から名刺が出来上がった報告があったので、俺は出来上がった名刺を届けにライアン男爵の屋敷に行く事になった。男爵にも普通の傘と折り畳みの傘をプレゼントしよう。



◇◇◇



 俺と清水部長の二人でライアン男爵の屋敷に向かった。屋敷に到着するまでに街の人を見てみたが、傘をさしている人は居ない。それを見て、傘の文化が生まれる事を想像しながらの足取りは軽かった。


「ライアン男爵、お久しぶりです」


「おお! 待っていたよ。急がせてしまって悪かったね」


「お初にお目にかかります。私、清水 明久(しみず  あきひさ)と申します。沢田が不在時、私が代表になりますので、よろしくお願いします」


「そうか、わかった。多くの優秀な人材が居るようだな」


「恐縮です。優秀な部下に恵まれて支えられています。部下共々よろしくお願い致します。早速ですが、こちらがクラ-ク伯爵のお名刺になります」


「なんと! 私の物より質の良い物になっているな! これは、伯爵がお喜びになる!」


「ライアン男爵のお立場も考え作成いたしましたので、気に入って頂けましたか?」


「勿論だよ! 流石、私の見込んだ商会だな。そなたらの話は、私の方にも入ってきているぞ。珍しい物を売る商会だとな」


「取り扱う商品は、多く御座いますので。今日は、こちらをお納めいただきたく持参しております」


「これは? どう使うものなのだね?」


 ここで俺が、傘の使い方を説明する。丁度、庭に近い部屋だったので、外に出て傘をさしてみた。


「おお! 雨を弾いておるではないか! これは良い!」


 ひとしきり頷いた後、男爵自身も傘を使用しご機嫌だった。ただ、この傘もこの世界で作れるかは、まだわからない。防水の為の素材を揃えられるのか? 提携を結んだ商会の人達と話をしなければいけない。

 落ち着いて部屋に戻った男爵が、俺達に真面目な顔で話し出した。


「そなたらに注意しておかねばならない。知っての通り私には敵が存在する。同じ爵位のレオナルド、そしてアリスト伯爵派の人間から横やりが入る可能性があるんだ」


「横やりと言いますと? なにぶん面識がございませんので、注意と言っても……」


「うむ。そなたたちは、とにかく目立つ。貴族という者は、自分より目立つ事を嫌うんだよ。私の方でも衛兵に注意を促してはいるが、全てに目が届くわけではないんでな」


「そうですか。今の所、1人での外出は控えておりますが、武力と言うものを持ち合わせておりません。お力添えを頂けるのであれば大変ありがたいです」


「警護の者を雇うという事も考えてみた方が良いな。私の方でも声を掛けておく」


 そんな話で、ライアン男爵との会談は終わった。確かに平和慣れした俺達は、危機感が薄い。それを気にしない様に過ごしていた気がする。この話は、会社でちゃんと話し合った方が良いだろうな。




◇◇◇



 その頃、露店では雨にも関わらず沢山の人が集まっていた。


「これは、傘と言ってこうやって使うのでありまする!」


「おおお! 神父様! 凄いです!」


 自慢げに傘の使い方を見せるトミ-神父に街の住民が、歓声をあげる。水たまりの上をお構い無しに飛び跳ねるトミ-神父が何とも微笑ましい。


「今日は、このセットと傘1本つけて銅貨1枚と鉄貨5枚や! 早い者勝ちやさかいな!」


 田村の言葉にどんどん商品が売れて行った。既に用意した物は、半数近く売れている。明日の天気は解らないが、傘と共にかっぱも売れるはずなんだ。業種によっては、手が塞がってしまう人たちも居るだろう。 結果的に、今日の販売も無事終了した。販売チ-ムは、気分良く会社へ帰る。

 

 雨と言う恵がもたらした1日だった。


 

貴族の争いに巻き込まれるのであろうか? 今後がどうなるのか……

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― 新着の感想 ―
[一言] 色んなことがビジネスに繋がりますね。傘もタオルもない時代は現代に生きているとなかなか想像できません。
[一言] テンポ良くて気楽に読めるので、楽しく拝読させていただきました! 皆適応力高すぎぃ! これが信頼雑貨株式会社の社員の力か、恐るべし! 続きが気になるので、これからゆっくり追いついて行きたいと思…
[良い点] ソーラーパネルって偉大ですよね、太陽光さえあれば良いんだし! 神父にシスターが揃って飯目当てで来るのは面白い。 今後の展開が楽しみです!
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