プロロ-グ~こうして俺達は、別世界に行ったんだ
俺は、速水 慎一。
雑貨を卸す今の会社に就職して早5年が経った。
中小企業と呼ばれる会社だが、うちの社員は営業上手。主な卸先は、100均等の小売店やホームセンターだ。その中には、有名な会社も名を連ねる。様々な商品を取り扱っており、会社の敷地内に小さな工場もある。そんな会社のモットーは、”顧客満足で会社も潤う”。社員の関係も和気藹藹で社内の雰囲気も良い。
その日は、朝から雲一つない快晴で、出勤途中に汗をかくほどだった。会社に到着して朝の朝礼時にそれは起こった!
この事が、俺達の周囲に起こる変化をもたらすなんて想像も出来なかったんだ。まさかあんな事に巻き込まれるなんて!
◇◇◇
⁈ なんだ‼ 突然、強烈な揺れが会社の建物を襲った!
社内の至る所で棚などが倒れ、俺たちも立っていられなかった。永遠に続くかと思われた揺れも徐々に収まってきたようだ。咄嗟に机の下に隠れたが、周りを見ると皆も同じようにしていた。
「おいっ! 皆大丈夫か!」
そう叫んでいるのは、高橋課長。黒縁メガネをかけたうちの会社の中堅社員だ。その声でようやく落ち着いた俺達は、机の下から続々と這い出した。
「速水君! 大丈夫だった?」
声を掛けて来たのは、うちのマドンナ的存在 中村 静香さんだ。
「はい! 大丈夫です。中村さんもお怪我はありませんか?」
「私は大丈夫よ。それにしても凄い揺れだったわね」
「ええ。他の社員も大丈夫なんですかね?」
それから俺たちは、高橋課長と一緒に同じフロアの人間の安否確認をした。幸いな事に怪我をした人間も居ないようだ。問題なのは、電気が止まっている事なんだ。もちろん階段もあるんだが、5階建の建物だし移動を考えたら辛い。そんな事を考えていた俺に他の社員の叫ぶ声が聞こえてきた…。
◇◇◇
「おいっ! あれを見ろ! どうなってんだよ?」
その声で、皆の注目が外の景色に移った。俺も窓際に行ったんだが、そこで見たものに目を疑った。
「な、なんだ? 此処どこだよ?」
目の前に広がるのは見た事もない街だ。とは言っても街の中に俺たちがいる訳ではなく、近くに街が見えるんだけど、どう見ても日本の街並みじゃないんだ。西洋風と言えばハマるような建物が見える範囲にあり、外周には高い塀が街を囲むようにあった。ここが5階だから少し高いんだよ。状況に理解が追いつかない俺達だったが、とにかく会社内の人間の安否を調べる為に下の階に移動する事にした。
◇◇◇
この後、各階を調べて回ったんだが、奇跡的に怪我人1人でず生存確認はできた。その後は会議室で、各階の代表による今後の動き方を協議する事になったんだ。
5階営業部代表は、高橋課長
4階販売部代表は、清水部長
3階工場代表は、蓮見課長
2階総務部代表は、沢田専務
1階経理部代表は、大塚係長
今日に限って社長不在だったんだが、各階共に責任者がいたので助かった。さて、どういう話になるんだろう? そう呑気に考えている俺に、同僚が声を掛けて来た。
「おう! 速水!えらい事になったでぇ」
「なんだ、田村かよ。確かに何がどうなったんだろうな?」
「俺の見立てでは、異世界転移ってやつやわ。これ」
「はぁ? 異世界転移? 何だそれ?」
「速水!ちゃんと世の中を知らんとあかんがな! 若者に流行りのラノベ読んどらへんのかいな?」
「すまん。俺はアニメ派なんだよ」
「いやいや、それやったらわかるやろが? 一体どんなアニメ見よるんや?」
「え? んー、オタクでも恋したいとか?」
「...。ま、まぁそのアニメは知らんけど。とにかく今言えるんは、ここは日本や無い。別の世界なんや」
「なんかしっくり来ないが、なんで別の世界だと思うんだ?」
「アホやなぁ。どう見ても現実ちゃうやろ? もっと柔軟な考えもたなあかんでぇ」
「まぁアホなのは否定しない。確かにそう言われたら納得する自分も居るからな」
因みにこの田村は、俺の同期入社で4Fの販売部に所属している。
そんな話の後、他の社員とも話したが、概ね田村と同じ考えみたいだな。流行ってたのか? 異世界転移...。
2時間程、会議が続き代表者が出てきた。出て来るなり沢田専務が声を張り上げて皆に言った。
「今日は、とりあえず様子を見よう。くれぐれも建物からは出ないように! 明日、改めてここから見える街に代表者を決めて、様子を見に行ってもらおうと考えているからな」
幸いな事に社内には食堂もあるので、食料も水もある。太陽光発電が使えれば、シャワー設備だってあるんだよ。今、工場のスタッフが、直せないか調べてるらしい。
後は、寝る場所なんだが、女性社員にソファー等を使って貰えば男は床でも寝れるかな?
そうして中々寝付けない夜であったが、辺りが闇に包まれると自然に意識を失った。いきなりの事で、精神的に疲れていたのかも知れないな。
突然、巻き込まれた今回の件。どうなるんだろうか?