5. もしかしたらもしかするけど‥‥‥まさかね
どうも、朝北優人です。同好会の活動が終わり、女神舞彩と下校中です。雪江さんは見つからなかったですが、この間まで当たり前だったのに、二人きりで居られる幸せをとても感じています。感じている、はずですが‥‥‥。
俺はどうにもやりきれない気だった。トースターを返した後、彼彗は珍しく、すぐに帰っていったのだ。いつもの明るさが、彼女にはなかった。
「それはあれだね、にい」
「あれって?」
俺は下校の道中、舞彩に相談した。俺にはさっぱり分からないが、舞彩はすぐに理解できたらしい。そんな舞彩の意見を聞こうじゃないか。
舞彩は歩きながら、くるっと一回転すると、俺の前をふさいだ。そしてぐいと顔を近づけてきた。とても嬉しそうに、妹は言った。
「望結那先輩はにいのことが好きなんだよ!」
「はへ?」
天使が目前に居る奇跡と、その言葉への驚きとで、変な返答をする俺。舞彩は空を舞う天使のようにくるくる回りながら俺から離れていき、再び隣に落ち着いた。
「だって、凪ちゃんのことをにいに訊いたんでしょう?にいと凪ちゃんが結ばれるのが嫌だからに決まってる!」
「そ、そうなのか‥‥‥?」
* * * * *
諸々を済ませた俺は、自室のベッドに大の字を描くように寝転がっていた。そこで考え事をしているのだ。
――彼彗が俺のことを?だがあいつは、"自分と境遇が同じだから真っ先に生活を正すべきだと判断した"と言っていたし、真面目なのだから恋愛に関心がなくてもおかしくない。可能性は低い‥‥‥。低い‥‥‥?
俺は彼彗と出会った頃を思い出す。まるでラブコメのようにバッタリぶつかって――。
「‥‥‥ラブコメのような?」
急に脳裏に彼彗との出来事がよみがえる。――おや?
ひょっとしたらひょっとするのか?俺の中に、とある感情が生まれた。
* * * * *
真っ暗な空間に俺はぽつんと立っていた。その空間は、まるで俺のこれまでの、虚無な人生を具現化したようなものだった。何をするにも意味を感じない。楽しむことができない。
その空間には、一点の光があった。――妹との時間だ。俺の頭がイカれなかったのは、間違いなく彼女のおかげだ。だがそれでも、深淵の闇を覆うことはできない。
――そこに、強い光が差した。常闇を覆いうるその一筋の光は、俺に向かって差している。
俺は光を求めて手を伸ばす。掴めやしない光を掻いていく内に、そこに人影が映る。それは、彼彗のようだった。
もっと、もっと手を伸ばし、背伸びして、足掻くが、だんだんと光は遠退いていく。やがて、俺にはまた闇が訪れて――――
「――ん」
「―――――た君」
「朝北君!!起きなさい!」
なんだか安心できるような声が、俺の鼓膜を破るほどの勢いで――
「って死ぬわ!!」
俺はベッドから飛び上がった。すると目の前には、彼彗が頬を膨らませて仁王立ちしていた。
「遅刻するわよ!?早く準備しなさい!!」
彼女が指差すままに時計に目をやると、針は八時手前を差していた。Oh‥‥‥。
俺たちは勢いよく玄関を飛び出すと、学校へとダッシュしたのであった。
――あれ?あいつ、いつも通りの感じだったな。なんだか昨日緊張した俺が馬鹿みたいだ。昨日の晩に何かあったのだろうか。
少し不自然な気がした。俺の勝手な憶測であることに変わりはないのだが、フラグと結末が噛み合ってない気がする――――。