3. 朝から女子高生が家に居るけど俺じゃないからね!?
どうも、朝北優人です。現在七時半。愛しの妹とともに、朝食をいただいています。とても有意義な時間――――だと思っているはずでした、はい。彼彗望結那なる監視さえ居なければ。
「朝食のメニューは白米、目玉焼き、あらびきウインナー、ヨーグルト‥‥‥。しっかりとエネルギーの補給が出来ているわね。フルーツなんか加えると、さらに良いかしら」
「丁寧な分析とアドバイスに感謝を申し添えたいところだが一つ良いだろうか。一体全体何のつもりでしょうか彼彗先生」
俺と妹のいつもの食卓に、もう一人。既にセーラー服をまとっているポニー茶髪は、隣に座る俺の方を疑問符を浮かべながら振り向いた。
「――何って、朝北君の生活チェックに決まっているでしょう?」
「決まってないよ全否定ですよ。平日朝から女子高生を家に入れるとか、母さんも泣いちゃうよ」
「そういえばご両親が見当たらないようだけれど、どうしたの?」
俺の意を無視して彼彗は尋ねる。とても不服なのだが、舞彩は笑顔であった。どうやら彼彗が来たことが嬉しいらしい。如何せん俺たちは――
「お父さんは外国に行ってて、お母さんも朝早くから夜遅くまで仕事してるんだ」
舞彩は棚に飾られた、幼き頃に撮った家族写真を眺めながら言った。
「それじゃあ毎日舞彩ちゃんが?」
彼彗の質問に舞彩は頷く。
「なるほど。それで朝北君は不健康じゃなかったのね」
「お前は一体俺のことを何だと思っているんだ?反抗期の中学生か?」
「乳幼児」
「想像を遥かに上回る過小評価だったよ!」
四の五の言い合いを続けていると、そろそろ登校の時間となっていた。
「五分後に家を出るのがベストよ。さぁ、更衣を済ませて」
俺は着替えに向かう最中、ここが本当に俺の家なのかを疑いたくなっていた。
ふと、俺は後ろを振り返る。そこには彼彗が居た。
「まさか見ないだろうな」
「どうして?効率的な更衣を行っているか確認を――」
「するんじゃない!」
危うく同級生の女子に更衣姿を見られるところだった。まさかということも、彼彗は平然とやろうとするらしい。気をつけておこう。
* * * * *
今日も授業全日程が終了し、これから部活へ――などと簡潔にまとめてはいけない。いや、まとめられない。やはり酷いのだ、彼彗の行動が。
――国語の場合。何故か彼彗は席を僕とくっつけ、異様にノートを見てくる。それから赤ペンで修正を入れられまくり。音読するときだって、約一文につき三回、口を挟んでくるのだ。おかげで先生からは
「あまり授業でイチャイチャしないように」
などと言われ、クラスメイトに変な誤解をさせる羽目に。
――体育の場合。水泳は男女でプールのコースを半分に分けて行う。男子らが鼻の下を伸ばす中、俺は水泳着の紐を結ぶことに苦戦していたのだが‥‥‥。
あろうことか、水着姿の彼彗がこちらに歩み寄り、俺の水泳着の紐を結び始めたのだ。男子の視線はそのくっきりとラインが分かる胸。それにも関わらず、彼彗は平然としていた。俺はもう、自分で発した熱で気絶しそうであった。
――家庭科の場合。ミシンでエプロンを縫うという授業内容だったが、彼彗は開始十分で完成させてしまい、すぐに俺の元へ。俺がミシンを使う中、背後から、まるで抱きつくように腕を回し、レクチャーを始めた。胸が背に当たり、その感じたことのない感触に、上手く力が入れられず、抵抗できなかった。
――――と、このように散々の一日だった訳だ。俺の精神ポイントは残りゼロ。あぁ、早く舞彩に癒してもらわなければ。俺は精力ない身体を引きずるように動かし、部室に向かった。
その道中のこと。暗がりの廊下を歩いていると、奥から誰かが駆けてきたのだ。しかし疲れでそれどころじゃなかった俺。なんか来てる‥‥‥まあいいや、と簡潔に流し、徒歩を続行していた。
――次の瞬間、俺は押し倒された。俺の上に倒れてきたのは、附属中のセーラー服を着た、少女であった。後でわかった事だが、彼女もあまり前を見ていなかったらしい。俺は上体を起こした。
「いてて‥‥‥。今度は何事だ‥‥‥?」
「あ!あ!すみません!!えっと、えっと‥‥‥!」
少女は、随分と慌てていた。どうしたのかと尋ねる前に、少女は行動に出ていた。
「これもらってください!!」
何かをぐいと顔に押し付けられ、再び俺の上体は地に伏した。その間に、少女は走り去ってしまった。俺のヒットポイントは残りゼロ。ゆっくりと起き上がり、少女が俺にくれた("押し付けた"が正しいかもしれない)ものを確認した。丸められた柔らかい布。それは‥‥‥
「し、下着――だと‥‥‥!?」
女性用の下着であった。