2. 同級生といえば学級委員でお節介‥‥‥なのか?
どうも、朝北優人です。昼休み、いつも通りに予習なり課題なりをやっているのですが‥‥‥。
「そこはもう少し丁寧にまとめないと、テスト勉強の時に不便よ?」
「ここで重要なのは助動詞ね。チェックしておきましょう!」
「ああ、ダメダメ!それじゃあ次の項目と区別できないわ!」
――隣の席の人がぐちぐちうるさいです。
* * * * *
数時間前のこと。見事遅刻入場を果たした俺たちだったが、それが話題になることは特になかった。しかし隣の少女はそれでも自分が許せないようで。机の上に両腕を添え、顔を沈めていた。
同じ境遇にいるはずなのに何だか気まずく感じてきた俺は、彼女を慰めることにしたのだ。
「別に失敗くらい誰でもするし、気にしな――」
「このままじゃいけないわ!」
普段クラスでものを言わない俺が勇気を出して頑張って言ってくれた言葉は、あっさり少女の開き直り(?)によってかき消された。少女は立ち上がり、宣言する。
「学級委員なんだからしっかりしないと!さぁ、後れを取り戻すわよ!!」
「‥‥‥ん、まぁ、頑張ってくれ」
踵を返した俺の背には、槍でも突いたかのような視線。
「朝北君、だったよね?」
おう、まさか名前まで把握されていたとは。さすがは学級委員様だ。
* * * * *
それでなぜか俺までも少女によってしっかりさせられているのである。彼女の名は彼彗望結那。学級委員にして、見ての通り責任感のある――というよりは面倒見が良い――というよりはお節介な少女である。
一度ぶつかって手を繋いで教室に滑り込んだ隣の席の人ってだけなのに(だけじゃないね)、事あるごとにアドバイスや指摘を入れてくる。一体何がこうも彼女を本気にしているのか。そこそこの努力でそこそこの結果しか味わったことのない俺には、皆目見当がつかない。
五限目の授業では。
「今の説明ちゃんと理解できた?係助詞があって、文末の助動詞が連体形になっているから係り結びの法則が――」
「分かってます分かってますよ。‥‥‥はあ」
何度も何度も入念に解説をしてくる。これでは自分の学習ペースを崩され兼ねない。
俺は放課後、逃げるように部室に向かった。
* * * * *
本来静かなはずの暗がりの廊下を荒い足音とともに過ぎると、俺はすぐさま部室のドアを開けた。
その空間に合わない、隣り合わせにつけられたたった六つの机。そこに座っている、黒髪ショートの我が女神。机上に並べられたビニール袋。そしてそれらをまんべんなく照らす穏やかな陽光。
俺の、至福が帰って来た。
舞彩が気づく。
「あ、にい!」
「おお我が妹よ、にいを苦しみから解放してくれ‥‥‥!」
「ちょっと何言ってるか分からないけど‥‥‥後ろの人は誰?」
俺は一瞬思考を止めた。"後ろの人は誰?"というコメントに対しての行為――否、現象である。俺は何も考えず、身体ごと180度回転させた。
「朝北君は重度のシスコン‥‥‥っと」
菓子パン研究同好会のメンバー以外誰も寄り付かない棟に、メモを取る茶髪の少女。
「すみませんどちら様でしょうか」
「そういえば朝北君にちゃんと名乗っていなかったわね。私の名前は彼彗望結那。一年B組の学級委員を務めさせてもらっているわ」
惚ける俺に、彼彗は丁寧に自己紹介をした。勿論俺は名前を知りたかったのではない。
「そうじゃなくて、どうしてこんなところに彼彗が居るのかってこと」
彼彗にお返しをするがごとく、丁寧に説明をすると、彼彗は納得して手のひらに拳をポンと乗せた。
「なるほど!それが知りたかったのね。ちゃんと教えてあげるわ」
どうしてこの人は毎回上から目線なんだ?
「朝北君の面倒を見るためよ」
「――――は?」
「朝北君の面倒を見るためよ」
「‥‥‥二度も聞いて申し訳ないけど、ちょっと何言ってるか分からない」
俺がそう言うと、彼彗は部室に入ってきた。そして彼女を不思議そうに見つめる舞彩を他所に、部室を歩き回りながら、また語り出す。
「私の役目はクラスをまとめあげて先導すること。そして今日、私と朝北君は遅刻という大失態を犯した。この事実は学級委員という身分をもって言わせてみれば恥、万死に値する!」
んな大袈裟な‥‥‥。
「まずは自分を正さなければならない。それで、朝北君は私の境遇に近いわ。真っ先に正すべきだと、判断した!!」
「んな強引な‥‥‥!」
黒板を背景に俺に向かって指を差してポーズをとる彼彗。正直なところ今の説明でも理解しきれていない。しかしこれ以上問えばさらに面倒なことになりそうなので、止めておく。
「じゃあ彼彗先輩は、にいの彼女さんだ!」
「妹よ!変な誤解だけはしないでおくれ!!」
「まぁ似たようなものね」
「あんたからも否定してくれお願いだから!」
こうして、俺はいつもより賑やかな日を過ごしたのであった――。