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上下ジーパン

「ど、どうしたの急に叫んだりして?」

アリシアはマジで可愛い顔を不思議そうにした。

「だってさっきまでありがちのオンパレードだぜ? なんで急にこんな意味不な設定持ち出してきたんだよ?」

「意味不なせってー?」

アリシアがさらに困惑した顔になる。読者であるあなたはなかなかネタバラシをしてくれない作者に憤りを感じ始めた。


「だってこれおかしいだろ! 異世界であることを差し置いてもおかしいって!」

俺はおかしなポイントを指差して叫んだ。アリシアはおかしいポイントを見て、

「あれがあなたにとってはおかしいの?」

「そうだよ! 変だろ! あんなの! あれって普通なのか?」

読者であるあなたはやきもきしながら読み進める。

「この世界では普通よ! じょーしきよ!」

「だってあんなのってやばいじゃないか!」

「何言ってるの? 普通よー!」

あなたは早くそのおかしなポイントを見たくて仕方がなくなってきた(多分)。

「だってあの人、上下ジーパンを着ているぞ! いや履いているぞ?」

俺が見たのは異様としか思えないようなものだった。その人は上下ジーパンを着ていた。ジーパンを加工してジャケットにしてかっこよく羽織っているのだ。『いや、ジージャンきればよくね?』と思ったが、言わなかった。そんな俺にアリシアは、

「ええ。それが何?」

「いや、普通ならいいんだ」


俺は気を取り直し、別の人を指差し(マナーが悪いので指をさすのはやめましょう)、

「あの人も! なんであの人メガネを服としてきているんだ?」

その人は、大量のメガネをひもとワイヤーで縛ってメガネのツナギを作って着ていた。メガネのレンズ越しに乳首が見えている。あれ恥ずかしくないのかっ?

「ええ。それが何?」

「いや、普通ならいいんだ」


俺は再び気を取り直して、

「おい! アリシア。あの人が吸っているのってちくわか?」

俺の目線の先には豪快にちくわを吹かしている人がいる。ちくわの先端からはタバコの煙のようなものが出ている。ちくわをふかすってなんだよ! どうやって火をつけたんだよ。おかしいだろ。

「ええ。それが何?」

「いや、普通ならいいんだ」


「もーう。さっきからなんなのよ(笑)。この世界ではこれが普通なの!」

「さっきまでのありがちな設定はどこ言ったんだよ!」

「ありがちな設定はもういいの! さ! 早くお家に行きましょう!」

さっきは『異世界転生物のラノベ』ってなに? みたいな雰囲気だったのに、アリシアはメタネタを放り込んできた。もうキャラを貫くのがだるくなったのだろう。

そして、ペットボトルでできた家。ホットドッグをペットとして飼っているお兄さん。メガネを靴として履いているお姉さん。メガネをコーラで割って飲んでいるヒゲのおっさん(俺はこの人のことをメコヒさんと呼ぶことにした)。メガネを一気飲みする子供。メガネを普通にかけている人。もはやメガネを普通にかけている人が異様に見えた。

ってかなんでメガネばっかり?


そして、なんやかんや異世界を楽しんでからこれから住むところについた。

あなたは心の中で

(変な家が来るんじゃないか?)

と、想像した。例えば、イワシでできた家とか。うんちでできた家とか。全面ガラス張りで男子トイレだけが家の正面玄関のところにある変態家とか。

だけどあなたのこれから住む家はただの大豪邸だった。ここはきっと金持ちの人だけが住める区画なのだろう。目の前の家の奥にも林のように豪邸が乱立している。

あなたは、『この作者は読者の心をよくわかっている』と思った(違っていたらすいません)。

「うわー! でっけー! すげー! やべー!」

あなたは小学生の感想みたいなのを言った。

「でしょう! 異世界転生ものの鉄板よね!」

俺は自分の家を舐めるようにして見渡した。端から端まで視線でまさぐる。赤レンガでできた家はまるで要塞、というか城、もはや一個の国だった。読者サービスが過ぎるのではないだろうか。それくらい大きい。『というか少し大きすぎないか?』と思った。

「な、なあこれ全部俺の家なの?」

俺は目の前の超巨大な惑星をくりぬいて作ったんじゃないかレベルの巨大要塞を指差して言った。

「いいえ!」

アリシアは元気よく言った。

「違うのかよっ!」

期待を裏切られたあなたは作者に殺意が芽生えた。もうこの小説は読まない。作者くたばれ。

「あなたの家はこの区画の全ての豪邸よ! 全部あなたのものよ!」

「うわー! でっけー! すげー! やべー!」

期待を大きく上回られたあなたは感嘆の声をあげた。もう喘ぎ声か? ってくらいあげた。もっとこの小説が読みたい。作者ありがとう。

『どういたしまして! 作者より!』

あなたの心の中に幻聴が聞こえた。

「っていうかこの区画の全ての家が俺のものになるの?」

具体的にはカニの街の半分ほどの区画だ。あまりにスケールがでかすぎて若干いじめみたいになっている。

「そうよ! それにこのカニもあなたのものよ! いらなくなったら殺して一人で全部食べていいわ!」

「いじめか」

「さらにこの豪邸にはメイドがたくさんつくわ! どの子も気立てが良くて性格が良くて優しくてあなたのことが好きで好きで仕方がないのよ! どの子でも選び放題! おまけに顔面の形が他のラノベのヒロインみたいに全員完璧に可愛いわよ!」

「他のラノベとかそういうこというな」

「早速入りましょう!」


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