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The Legend of Dadegea 第1部 空色の翼  作者: 鷹見咲実
第4章 裁きの翼
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24.「祝福されし国」

 ●【24.「祝福されし国」】


 女神(デーデ)にはわかっていた。

 アヴィエールが本気で戦うつもりなどないことを。

 しかし、こうでもしなければ彼が最も恐れている契約の剣の刃の下に自分の身を晒す勇気が起こらなかったことも。


 アヴィエールが咆哮すると、はるか地上の鏡湖の水は巨大な水柱となってアヴィエールの体を守った。

 そして、鋭い剣のような水の刃が女神に襲い掛かった。


 だが、女神がかざす慈愛の楯はいとも簡単にそれを跳ね返し、沈黙の衣は優しく包みこむようにして女神の体を守った。

 アヴィエールの急所は右の目の下。

 そこを剣で刺し貫けばアヴィエールは土に還る。しかし、アヴィエールの大きすぎる力を削るだけなら右の前脚の付け根を狙えばよかった。


 そこには竜の力の鱗がある。

 力の鱗を少し剥ぎ取ればアヴィエールの力は半減する。


 女神は狙いを定め、アヴィエールの右前脚を狙った。


 その時だ。


 女神は体のバランスを崩した。


 右の翼が彼女の意思に反して、羽ばたくのを止めてしまった。

 続いて、左の翼もそれに呼応して羽ばたきを止めた。

 両方の翼が羽ばたきをやめ、女神(デーデ)の体は物凄い勢いで落下し始めた。


「いかん!女神デーデを守れ」


 桜翁が咄嗟に発した叫びに答えるように、地上から物凄い勢いでのびてきた無数のつる草が、落下してきた女神(デーデ)の体を優しく受け止め、彼女は地上に叩きつけられることを免れた。


「我が翼たちよ」


 女神(デーデ)は自分の体を支えてくれているつる草の上に座り、乱れた髪を少し直すと、銀色の兜に両手を当てて言った。


「我が右翼カイエよ。お前はわたくしがアヴィエールを傷つけるのを望まぬと?それは、正しくないと?」


 すると、彼女の頭の中にカイエの声がした。


「竜王アヴィエールの力を削いでもそれは竜王アヴィエールの問題が解決したことにしかなりません。竜王ガイアルはこれを酷く不満に思っています。竜王ユズリと竜王フォルカは兄弟の力が削がれることに困惑しています。これでは何も解決しないでしょう」

「なるほど……」


 女神(デーデ)は頷いた。


「我が左翼エーレウス。お前の意見は?」

「カイエと同じです。世界のバランスを保つには、竜王たちの力を均一にしなければならないと思います。前の裁きで竜王ヤパンの力が削られた時から、力の均衡は崩れ、竜王たちの心に契約の剣への更なる恐怖が生まれた……それが、少しずつ世界を歪めていったのではないでしょうか?」


 女神は考えた。

 前回の裁きは、裁きの翼の「裁くべからず」の声を振り切り、暴れ狂うヤパンを制するために止む無くヤパンの力を削った強引な裁きだった。

 力の均衡の崩れは気になったが、ヤパンの力はあまりに大きすぎたので、多少削っても他の竜たちとの力の差はさほどないと、あの時は思っていた。

 しかし、そのつけが今、回ってきたのかもしれない。


「そうね……では、我が翼たちよ……どうすればいいと思う?」










「これで本当に良かったのでしょうか?」


 桜翁は竜の道を閉じながら言った。


「我が翼たちの下した裁決は正しく、そして優しい裁きだったとわたくしは思います」


 女神デーデはうっすらと明けはじめた東の空を眺めながら言った。


「しかし、竜王たちがよく納得したものです……それぞれの力を少しづつ削り、領民に干渉をしないことを受け入れるとは」


 桜翁は白く長い髭を撫でながら首をかしげた。


「竜たちはゆっくりとこの世界に溶け込んでいくことを選んだのです。彼らの力はだんだんと失われ、領民たちは彼らを忘れていくでしょう……そして、竜たちがこのデーデジアと本当に一体になったとき、本当の意味で世界は完成され、本当の持ち主……領民たちの手に戻るのです」


 アヴィエールだけではなく、女神は全ての竜王たちから力を少しづつ削ったのだ。

 女神は彼らを決して土に還さないことを約束し、その代償としてお互いの力を均一にし、強すぎる力を削ることを竜王たちに提案した。


 竜たちはそれを受け入れ、そして女神に申し出た。


 与えられた地を守り、争わない。しかし、もう領民の願いは聞かない。

 穏やかに、それぞれの土地でゆっくりと暮らしてゆきたいと。

 彼らは覇権を争わず、自分に与えられた領地で大人しく暮らす代わりに領民を保護することを放棄した。

 自らの鱗より生み出した領民たちを彼らはすでにもてあましていたのだ。

 我が子にも等しい自分の領地の民は誰より愛しい。だけど、干渉するのはもう終わりにしたい。これからはただ、彼らを見守るだけにしたいと。


 女神(デーデ)は竜たちの願いを受け入れた。


「しかし、竜王の力を無くせば、領民たちから秩序が失われます。侵略戦争も起こるでしょう。あの、イサノのような者も生まれるかもしれません」


 桜翁が心配そうな顔をする。

 しかし、女神(デーデ)は静かに、そして微笑みながら桜翁に言った。


「それがこの世界の行く末となるなら、それもまたひとつの道でしょう」

「道……ですか」

「そうです。世界を託されるということは、責任も託されること。滅びるならそれは領民たちの責任。だけど、そうならぬように『記録者』はこの記録を淡々と記し、賢きものの目に触れさせるのです……どうなるのかはわたくしにもわからないけれど」


 朝の光で淡い桃色に染められた空。

 冷たく澄んだ空気の中、鮮やかな空色の翼を羽ばたかせ、女神は優雅な仕草でふわりと鏡湖の浮島に降り立った。

 そろそろ桜翁が草木たちに命じた眠りの力の効果は切れ、朝を迎えた国の民たちは一斉に目を醒ますだろう。


 浮島では先についたイーラが一人で待っていた。


「イーラ。あとはお願いしますね」


 女神は慈愛の楯、叡智の兜、沈黙の衣、そして契約の剣をイーラに手渡した。

 イーラはそれらを受け取り、女神に深くお辞儀をすると、女神に尋ねた。


女神(デーデ)様……わたくしたち竜巫女はこれからどうすればいいのですか?」


 不安そうなイーラに、女神(デーデ)は優しく言った。


「竜巫女はこれからも生まれるでしょう……しかし、それはもう今のあなたのように大きな力は持たない。あなたたちはもうわたくしの代理で竜たちを監視することはないし、今より自由になるでしょう。ただ、これからは竜たちの言葉を聞き、争いや諍いのない世界に人々を導くのがあなたたち竜巫女の勤めになりましょう」


「はい。わたくしは残り僅かな竜巫女としての時間を、この国の人たちの傷ついた心を癒すために使います。竜王の言葉を伝え、悲しむ人々に笑顔を取り戻させるために使いたいと思います」


 女神(デーデ)は満足そうに頷いた。


「さあ、我が翼たちよ……最後の仕事をしておくれ。わたくしの拠りしろとなってくれたこの娘を、本来の居場所に帰すために」


 一対の空色の翼が大きく開き、朝焼けの空の中に女神は再び飛び立った。





 ミーサは夢を見ているのだと思った。

 自分の両手を誰かがしっかりと握っている。

 暖かく、力強い手がぎゅっと自分の両手を握っていた。

 ゆっくりと目を開くと、自分の左手をエーレウスが、そして、右手をカイエがしっかりと握っていた。

 ミーサの体は空を飛び、爽やかな風に包まれていた。

 眼下に広がるミヅキ国の美しい山並みは、朝の光に包まれて輝いて見えた。


「……私……」


 ミーサはそれだけ言うのが精一杯だった。


 そして、自分の身に何があったのか全てを理解した。

 自分が女神の拠りしろである『隠されたベルガー一族』の一人だということ、カイエとエーレウスが裁きの翼であり、すでにこの世にはいないこと。

 そして、二人との別れのときが来ていることを。


「カイエ……様……エーレウス……陛下」


 ミーサは涙を押さえきれなかった。

 声は掠れ、二人の名前を呼ぶぐらいしかできなかった。

 ミーサの顔を見ながら、カイエとエーレウスは微笑んでいる。


 暖かい両方の手。

 その力強さと暖かさはもうじき永遠に失われる。


「私をこのまま、一緒に連れて行ってください……」


 ミーサは泣きながらそう言う。

 大好きなこの二人と離れたくなかった。

 たとえ、身分が違っても、近くにいられるだけでよかった。

 もし、二人がいなかったら一人でどうやって生きていけばいいのだろう。


「ミーサ……君は帰らなきゃいけない。幸せにならなきゃいけない」


 カイエが優しい声で言った。


「いいえ。カイエ様とエーレウス陛下のいない世界に帰っても幸せになんか……なれません」


 すると、カイエは少し困ったような笑みを浮かべ、言った。


「本当にそう思う?君が好きなのは僕たちだけ?君を好きで、慕ってくれる人は他にいないと言うの?」


 ミーサははっとした。

 彼女の脳裏に浮かぶ幾人かの姿。

 ジョアン、フェリシダド、ロップ、ホルガ、そしてラルフ。


「……いいえ……私にも大切な人たちは沢山います……でも……」


 ミーサは思い切って言った。


「カイエ様より大事な人は他には……」


 するとカイエは握り締めたミーサの手に少しだけ力を入れた。


「ありがとう……でもね、君はやっぱり帰らないと」

「……カイエ様」


 アヴェリアの中央診療所が見えてきた。


「ほら、あそこで君を心配して待ってる人がいる……見てごらん」


 ミーサは診療所の前で心配そうに佇んでいるラルフの姿を見た。


「ラルフ先生……」


「彼はずっと、ミーサを心配してたんだ。彼がミーサのことをどれだけ守ってくれてたか、気にかけてたかは俺が良く知ってる」


 エーレウスがぼそりとミーサに言った。


「……そんな……私……」


 ミーサは今更のように驚いていた。


「わかりにくいかもしれないけどね……だが、心当たりはいくつかあるだろう?患者とか、診療所の仲間としてではなく……彼自身も多分まだはっきり自覚してないと思うけど」


 エーレウスはそう言った。


「陛下……エーレウス陛下はわかってらしたのですか?」

「人の顔色見て育ってきたからな……俺はそういうのは鋭いんだ」


 ぶっきらぼうに、少し照れを含んだ声でエーレウスが言った。


 そういえば、あの戦火で混乱するジャラクでずっと守ってくれたのも、何かの時に心配して駆けつけてくれたのも、いつもラルフだった。

 ペタで助けられた時から、彼はいつもミーサに優しい人だった。医師としての患者を見る優しさだと思っていたから気づかなかった。


「彼はミーサのことを愛し始めてるよ……自分でもまだ気づいてないみたいだけど」


 エーレウスの言葉に、ミーサは首を横に振る。


「私なんか……私なんかがあの優しい人に愛される資格はありません……こんな傷だらけで汚れた体で……それに、忌まわしい記憶が私をいつまでも責め続けます……お二人がいることだけが私の救いだった……だから……今更あそこに帰っても……たとえ愛してもらっても……私……」


 ミーサはいつの間にか泣いていた。

 自分がひどく汚らしく、そして惨めで……それなのに、唯一彼女の心の支えだった二人までいなくなったら、もう自分の居場所などどこにもないという気がしていた。


「大丈夫」


 泣きじゃくるミーサを慰めるようにカイエが言った。


「僕らは君の前から消えるけど、君は新しい世界でちゃんと生きていける……その為に君に素敵な贈り物をあげる……君の体はオルステインにいた頃の綺麗な体に戻り、体に残るすべての傷も奴隷の烙印も、そして君が受けたすべての忌まわしい記憶も、すべて綺麗になくなるよ……もう、苦しまなくていいんだ」

「カイエ様……」

「女神の依り代として大役を果たしてくれた君への僕らからの最後の贈り物だよ」

「そうだよミーサ、女神(デーデ)様は俺たちの願いをちゃんと聞いてくれたのさ」


 ミーサはカイエとエーレウスの顔を代わる代わる見た。

 涙でぼやける視界に二人の笑顔が見えた。


「さあ……そろそろみんなのところに帰らなきゃねミーサ……僕らが君の手を離したら、君は女神デーデの拠りしろとなった記憶も、僕らとこうして会話したことも全て忘れるよ……でも、それでいいんだ……幸せになるためには、この記憶は持っていてはいけないから」

「カイエ様……嫌です……忘れたくありません……離れたく……ありません」


 ミーサは激しくかぶりを振り、カイエとエーレウスの手をぎゅっと握る。


「お別れなんかじゃないよ、ミーサ。僕らはずっとここにいる……このミヅキに……ホムルに……デーデジアに……そして、君の心の底にずっといる。だから悲しまないで」


 ミーサが好きなカイエの笑顔。

 黒い髪と黒い瞳のカイエしか知らなかったミーサだが、今、本当の姿のカイエを見て、改めてその姿を美しいと思った。

 亜麻色の柔らかな髪。春の野のような淡い緑の瞳。

 これが本当のこの人の姿。

 ずっと、憧れて止まなかった愛しい人の本当の姿。


 この記憶は間もなく失われるだろう。

 でも、私は忘れない……心の底に深く刻み付けておく。

 消えることなど……ありはしない。


 たとえ、二度と思い出すことがなくても、その記憶は確かに魂の奥底に刻まれるのだから。


 ミーサはもう、何を言ってもカイエの気持ちが変わらないと悟った。

 この記憶は失われ、カイエたちとはもう、二度と遭うことはない。

 だけど、カイエがそれを望むなら、それを受け入れることを彼が望むなら……。


「カイエ様……私、ずっとあなたのことが……」


 そこまで言ったとき、ミーサの手の中から二人の手の温もりが消えた。


 ゆっくりと、落下してゆく。

 目の前から飛び去る二羽の美しい空色の鳥。



 ……行かないで……。


 …………まだ、全部気持ちを告げては……。



 その時、ミーサの耳元にカイエの言葉が聞こえた。


「……知ってたよ……わかってる……ミーサ。僕も君が好きだったよ……」


 ミーサの意識はそこで途切れた。










 目を醒ますと、中央診療所のベッドの上だった。


「よかった……気が付いたね……本当に良かった」


 ラルフの声だった。

 その瞳からは涙が流れている。


「心配させるんじゃないよミーサ……どこへ行ってたんだ……」

「私……どうして……」


 記憶は何もなかった。

 思い出そうとしても、頭の奥にもやがかかったように何もかも真っ白だった。


「王宮の近くの路地裏に倒れていたんだ。体に傷はなにもないね……でも、何も覚えていないの?」


 ラルフは心配そうにそう言った。


「頭を打ったのかな……もう少しあとでちゃんと診察してみよう。食べたいものはあるかい?欲しいものがあれば持ってくるよ」


 ずり落ちた眼鏡を何度も指先で上げながら、世話を焼くラルフをミーサは愛しいと思った。今までに感じたことのない感情だった。


「ああ、それから……言いにくいことなんだが……」


 ラルフの声の調子が少し暗くなる。


「エーレウス陛下とカイエ陛下は……」

「……言わないで」


 ミーサは俯いた。


 言われなくても知っていた。

 もう、二人がこの世にいないことを。

 どうしてか、思い出せないが、彼女はそれを知っていた。


「少しだけ……少しだけ一人にしてください……ラルフ先生……」







 ━━━━━━━ 三年後。


 ジャラクの街は賑やかな歓声に包まれていた。


「ほら!もうじき式典が始まるわ。あたしたちの新しい国よ。リドリー!あたしたちの舞踊団はあの晴れの席で踊るのよ」

「凄いね!君の夢が叶ったじゃないかルナロータ」

「ええ。特等席で見てね。リドリー。じゃあ、あたしは準備があるから」


 ルナロータはリドリーの肩をポンと叩いて走り去った。

 リドリーはあの日から半年後に長い昏睡の眠りから目を醒ました。

 トキワスレ毒の眠りに落ちた者は、全ての記憶を失うはずなのに、彼はなぜか全ての記憶を失わずに目を醒ました。

 カイエからの手紙を読み、全ての事情を知ったリドリーは、王宮に出向き、そこでカイエとエーレウスの死を知った。

 それから彼は、迎えに来たルナロータと共に一度故郷のジャネイラへ帰った。

 リドリーは今、キャラバンに復帰し、以前いた通信隊の連絡士として働いている。

 そして、彼は今日、この祭典に参加する妻のルナロータと一緒に、ホムル=ドラゴン舞踊団のメンバーと共にジャラクへやってきたのだ。



 壊滅的な打撃を受けたジャラクは、世界中の支援を受けて見事な復興を遂げ、新しく生まれ変わろうとしていた。


 新しき国の首都として。


 ミヅキとホムルは失われた。

 そして、新しい国が生まれた。


 国王の死によって後継者がいなくなった二つの国は、もう二度と争わないために手を繋いだのだ。


 新しい国の名は『アズール』。

 ホムルの古い言葉で空色という意味を持つ。

 国旗には桜の花を挟み、二羽の空色の鳥が向き合っている意匠が採用された。


 この国に国王はいない。

 アズールは共和国。

 ホムルとミヅキから二人の代表者が選ばれ、この二人の指導者の元、ホムルとミヅキの国境が取り払われた自由の国になった。

 初代の代表者として選ばれたのはミヅキ側からはエフィ・タチバナ、そしてホムル側からはフェリシダド・ジョヴィネ・ナズナが選ばれた。

 多くの話し合いや、国民たちの投票によるものだった。

 前国王を常に命を張って守った近衛師団長と、差別に負けずに二人の王を母のように支えた優しい女性。

 この二人こそが新しい国の指導者として相応しいと二つの国の国民たちが認めたのだ。


 首都は二つの国の真ん中に位置し、かつての戦いから復興したジャラクが選ばれた。

 竜王教の一部の神官たちが異議を唱えたりもしたが、竜巫女のイーラとフェリスがこれを上手くいさめた。


 ジョアンはホルガとラルフの元で正式に医師となるべく勉強をはじめ、ロップは魔道士団の治療術士としての任についた。


 そして、今日は新しい国の創立の式典の晴れの日。


 色とりどりの紙吹雪と歓声が溢れる中、二人の指導者が壇上に現れ、新しい国の創立を宣言した。


「君のお母さん、今日はいちだんと素敵だね」


 祭典用の白いローブを着て、貴賓席に座ったロップが隣に座るジョアンに言った。


「もちろんだよ。お母さんは今や国の指導者の一人だ……そして、僕とカイエ様とエーレウス様のお母さんだ……僕は誇りに思うよ。僕はずっとお母さんを助けていくつもりだよ」

「僕もできるだけ力を貸すよ」

「ありがと、ロップ……君には本当に世話をかけてばかりだ」

「何いってんだよ。親友だから当然じゃないか」


 二人は顔を見合わせるとニッと笑った。




「ミーサ!君の弟が見つかったよ」


 ラルフが息を切らして部屋に駆け込んできた。


「本当?!弟は……クルツはどこに?」

「ベベールにいることがわかったんだ。鉱山の下働きとして売られて行ったそうだが、そこで体を壊して死にかけていたところを、たまたまきみの弟がいた診療所に来ていた富豪の夫妻が、亡くなった自分たちの息子に似ているという理由から引き取って、養子としていたらしい。君の弟はつらい暮らしはしていなかったんだよ」

「本当なの?!逢いたいわ……」

「こちらへ向かっているそうだよ」

「ありがとう!ありがとうラルフ!あなたのおかげだわ」


 ラルフはまだペタにいた頃、ミーサから消息不明の弟の話を聞いて、ずっと手を尽くして彼女の弟を探していたのだ。彼女がそれを知ったのは最近になってからのことだった。


「本当に素晴らしいことばかり……クルツに逢ったら私、どうしようかしら……もう何年も逢ってないもの……」

「とりあえず、私を紹介しておくれよ、ミーサ」


 ラルフが眼鏡を持ち上げながら言うと、ミーサは頬を染めて言った。


「そうね。未来のお兄さんをクルツに紹介しなきゃ……」

「さあ、祭りが始まってしまう!そろそろ行こう。ミーサ」


 ラルフが照れくさそうに言った。


「ええ」


 ミーサは差し出されたラルフの腕をそっと取った。

 ノースリーブのドレスを来たその腕に、あの忌まわしい印はもうなかった。




「ほれ、見てみなさい。お前たちの国は立派に蘇った」


 桜翁はジャラクの上空にふわりと浮かび、満足そうに賑わうジャラクを眺めていた。


 その側には二羽の空色の鳥が羽ばたいている。


「新しい国がこれからも長くよき国となるよう、儂らも祝福することにしようか」


 桜翁は鳥たちを連れてジャラクの上空をゆっくりと旋回しはじめた。



「……あ……!」


 誰かが空を見上げて叫んだ。


「桜翁様だ!」

「桜翁様がいらっしゃった!」


 子供達が歓声をあげる。

 突然、空から沢山の桜の花弁が降り注いだ。


 色紙の紙ふぶきに混じって、本物の花吹雪。

 それはまるで夢のように美しい光景。


 空に二羽の空色の翼の鳥が現れ、その美しい空色の翼を広げて優雅に空を舞った。


「なんて綺麗なんだろう……」

「あの日に現れた鳥たちね」

「陛下たちの化身の鳥たちだよ!」


 人々は空を見上げ、そして歓声を上げた。


「新しい国アズール万歳!」

「我らのアズールに祝福を!」


 褐色の肌のホムルの男と、亜麻色の髪のミヅキの娘が手を取り合って踊った。




「カイエとエーレが祝福してくれているわ……」


 フェリシダドは空を眺めて微笑んだ。


「ええ、私たちは二人の意思を継ぎ、この国を争いのない平和な国にしていきましょう」


 隣にいたエフィはフェリシダドに握手を求めた。


「ええ。これからいろいろあるでしょうけど、頑張りましょう」


 二人の指導者は固く握手をし、また空を見上げた。

 歓声がさらに大きく響き渡った。







 新たな国、アズール。

 二人の王が望んだ自由の世界。


 その歴史の第一日は人々の歓喜の声に包まれて、今まさに始まろうとしていた。

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