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The Legend of Dadegea 第1部 空色の翼  作者: 鷹見咲実
第4章 裁きの翼
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14.「決着の条件」

 ●【14.「決着の条件」】


 二人はバルコニーに出た。

 日は沈み、深い藍色の夜の(とばり)が下りたばかりの空には星が控えめに瞬き始めていた。

 乾いた夜風は冷たく、寒さに慣れていないエーレウスは少し寒そうな仕草で身をきゅっと縮めた。


「俺はミヅキに来てみたかった……こんな形で叶うとは思わなかったけど」


 エーレウスがまず切り出した。

 もちろんその姿と声はエフィのものだ。しかし、カイエは不思議と違和感を感じていなかった。


「こんな状況じゃなかったら、君にもっと綺麗なこの国を見せてあげられたと思うよ。エーレウス。今は殺伐としてるが、このアヴェリアは本当にいい街だ……。ジャラクも、活気が溢れる素敵な街だった」


「……本当にすまないことをしたと思う……謝るぐらいじゃ償いきれないのはわかってるが」


 エーレウスが肩を落とした。


「俺がしっかりしていなかったせいで、ジャラクはあんなことに……」


 カイエはしばらく無言だったが、やがて、ゆっくりと口を開いた。


「……どうして、戦を?」


 カイエの表情は穏やかだった。


「僕はまだ信じられないんだ。エーレウス……君が戦を起こすなんて信じられなかった……何か事情があったんだろう?」


「俺は戦なんか起こす気はないと、もう随分前にいったろ?カイエ……」


 エーレウスはそう言って小さく吐息をついた。

 そして、少し悲しそうな表情を見せた。


「カイエ……言い訳になるかもしれないが、今度の戦は俺がはじめたことではない。伯父上が仕組んだものだ」

「エーレウスの伯父上…………イサノ……アルゼ・イサノか」


 その名前を呟いたとき、カイエは僅かに嫌悪の表情を浮かべた。


「ああ……俺は王の権限を奪われ、王宮に軟禁されていた。だが、俺はある老人に救われ、フェリシダドの力を借りてここへきたんだ」

「エーレウス、その話を少し詳しく聞かせてくれないか?」





 エーレウスは今まで起こったこと、ミーサが受けた仕打ち、不幸な出来事がいくつも重なり、今度の戦が起こったことなど知る限りの全てをカイエに話した。

 そして、ジャラクで起こった惨事をその目で見たこと、フェリシダドや、ラルフたちやエフィの協力を得てここまで来た事なども話した。


 カイエは時折相槌を打ちながらその話を聞いた。


 一通り聞き終わったカイエはほっとしたような表情をした。


「やはりそうだったのか……僕は信じてた。君が戦を起こすはずなどないと……だから、積極的に兵を動かしてホムル軍に対抗する気がおこらなかった……」

「それで塞ぎこんでいたのか」


 カイエは小さくうなづいた。


「でも、それだって僕の我侭だ。僕が手をこまねいていたから多くの民が傷ついた。だけど、迎え撃ったとしてもやはり多くの犠牲が出る。僕はどうしていいかわからなかった……」

「……うん。カイエ。わかるよ……俺が君の立場でもきっとそうしてただろう」


 エーレウスもそう言った。


「ところで、エーレウス。さっき君は老人に救われたと言ったね」

「そうだ。とても不思議な老人だった。風と共に現れて、不思議な力を使って俺を助けてくれた」


 カイエはエーレウスに聞いた。


「もしやその老人は小柄で、長い髭ではなかったかい?」

「そうだが」

「……やはり、桜翁様か」


 エーレウスもその名前に聞き覚えがあった。


「俺もフェリシダドから聞いたことがある。桜翁というのはこの国の国樹の妖精なんだろう?」

「……ああ」


 カイエは確信を持った。

 この件にも桜翁が関わっている。

 自分の中にある「裁きの翼」の対は間違いなくエーレウスだと。


「エーレウス……桜翁様は何か言っていなかったかい?」

「何か?」

「たとえば……翼……とか」


 するとエーレウスはカイエの淡い緑の瞳をじっと見つめながら言った。


「ああ……裁きの翼の対となることを望むか……と」


 カイエは無言でうなづいた。

 カイエにはエーレウスが何と答えたかもうわかっていた。


「エーレウス。僕らには役目がある……王としての役目と、裁きの翼としての役目が」

「ああ。俺たちは何としてでもこの戦を終わらせないとな」

「終わらせるにはどうすればいいと思う?エーレウス」


 カイエはうつむきがちなエーレウスの顔を覗き込んで言った。


「……それは……今から考える」

「それじゃだめだ」


 カイエは首を横に振った。


「この戦を平和的に終わらせるのはもう無理だ。多くの人々が傷つき、どちらの国も無事ではいられない。いまさら『なかったことにしましょう』など言えるはずがない」


 エーレウスは悲しそうにうなづいた。


「決着をつける方法がただひとつだけある」

「……カイエ……」


 エーレウスはカイエが何を言おうとしているのかを察していた。



 ━━━━━━━ ひとつの国に王は二人は要らない。



「僕と君とで決着をつける。僕と君が直接戦えばいい……勝ったほうが新しい国の王だ」

「やめてくれカイエ!俺たちが直接戦うことが何を意味してるのか君も知ってるだろ?俺はそんなのは嫌だ!」


 エーレウスはカイエの肩を思わず掴んで揺さぶった。

 その体はエフィの力強い体。

 カイエは強い力で肩を掴まれ、軽い痛みに顔を歪めた。


「エーレウス……それぐらい僕だって知ってるよ……王同士の戦いはどちらかの命が尽きるまで。誰も止められない。止めてはならない……生き残ったほうが二つの国を導くんだ……争いなど二度と起こさないように」

「嫌だ!」


 エーレウスは激しく頭を横に振った。


「俺は絶対に君とは戦わない!」

「これしか方法はないんだ。エーレウス……僕らが王同士の勝負を宣言すれば、決着は僕らに委ねられ、どちらの軍も攻撃はできなくなる。たとえ、法王が勅令を出してもそれは解除される。新しい指導者が決まれば争いは消えるのだから、総本山も文句が言えない。それに……」


 カイエはエーレウスの目をじっと見て力強く言った。


「君の伯父上だって文句が言えない。正統な王である君自身が決着をつけるのだから」

「じゃあ、俺僕を殺してくれ……君が新しい国を導いてくれ」


 エーレウスはカイエに言った。


「だめだ。新しい国は君が守るんだ……僕は罪を犯しすぎた……僕は王の器ではない」


 カイエは悲しそうに首を横に振った。

 エーレウスは嫌な予感がした。

 カイエは間違った選択をしようとしている。

 心臓が早鐘をうち、全身に寒気が走る。

 カイエの言葉を聞くのが怖い。


 彼が死を覚悟していることを感じたからだ。

 そして、その予感は的中した。


「エーレウス……僕と真剣に戦ってくれ……もちろん僕は手加減しない……でも、一瞬だけ隙を見せる……一撃で倒してくれ」


 エーレウスの目の前が真っ白になる。

 親友の口から一番聞きたくなかった言葉。

 こんな言葉を聞くために、危険を冒して自分はここまで来たのではない。


「俺は絶対に嫌だ!」


 エーレウスは大声を上げた。


「カイエを殺すなんて俺には絶対にできない!そんな方法はおかしいよ!誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんてそんなの平和じゃない!」

「それはわかってる……でも、僕は竜王ガイアルと約束したんだ。試練は全て受け入れると……これは僕へ与えられた試練なんだ」

「違う。そんなのは試練じゃない。ただの自己満足だ」


 エーレウスはカイエにきっぱりと言った。


「もし、それが竜王の試練なら、なぜ俺たち二人に裁きの翼が与えられた?翼はふたつで一組の対だ……片方が欠けるなんてありえない」

「エーレウス……」

「俺たちが一対の翼なら、共にあらなきゃいけない……カイエ」


 エーレウスは自分が今から何を言おうとしているのか自分でもわからなかった。

 血の気が失せて、体中が冷たくなる。


 今、エーレウスがカイエに提案できるたった一つの最後の手段。


 できればこの方法は使いたくない。でも、もうこれしか方法がない。

 そして、おそらくこれが二人と二人の国にとって一番いい方法だ。


 エーレウスはカイエの耳元に小声でなにか呟いた。


 一瞬、カイエの表情が凍る。

 しかし、カイエは何かを受け入れたように目を閉じ、


「うん……わかったよ……エーレウス……君のいう通りにしよう」


 と言った。


 エーレウスは自分の言った言葉を後悔していなかった。

 体中の血液が氷水でできているような、そんな違和感を感じて……。


 その時だった。


「陛下!まずいです。もう時間が!」


 ラルフが飛び込んで来た。


 と、同時にエーレウスの体に異変が起こった。



 ━━━━━━━ 『術が解ける前には違和感を感じます。体が冷えた感じがしたらすぐに王宮を離れてくださいね』



 ロップの言葉を思い出した時は遅かった。





 エフィの姿は消え、エーレウスはもとの姿に戻ってしまったのだ。

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