表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Legend of Dadegea 第1部 空色の翼  作者: 鷹見咲実
第4章 裁きの翼
77/89

13.「待ち望んだ再会」

 ●【13.「待ち望んだ再会」】


 ミヅキ王宮の中は緊張に包まれていた。

 誰もが緊張した面持ちで、神経を尖らせていた。

 ピリピリとした空気が漂い、そこに居る者を息苦しくさせるほどだ。


 そんな空気の中、近衛師団の装束である深緑のマントをなびかせ、エフィに姿を変えたエーレウスは堂々と歩いた。


 王族が持つ気品と威厳はたとえ姿を変えても漂っている。

 ゆったりと歩くエーレウスの姿を後ろから眺めていたラルフは、あまりに堂々としたエーレウスのその度胸に感心していた。


 ラルフも医師の正装だった。

 診療所で普段は身に付けない白地に赤の縁取りがある医師のローブと白い帽子、それに大きな黒い鞄を持っていた。

 白いローブの胸の部分には、金と緑の糸で竜王と竜巫女の使いの白鳩をあしらった意匠の刺繍が縫い取られている。

 普段は簡易の白衣を身に着けて仕事をする彼だが、王宮に出入りする場合はこの正装が医師の身分を証明する。


 ロップはソーナの魔道士の白いローブ姿。

 ただ、彼の場合はその特異な姿のため、誰が見ても一目でソーナ族であるとわかる。


 三人は無言で歩いた。

 エフィの姿をしたエーレウスは何の問題もなく王宮の門をくぐり、そのあとにロップとラルフが続いた。


 門を通るとき、歩哨がエーレウスに声をかけた。


「近衛師団長閣下、そちらの方は?」


 歩哨はラルフの方を見ている。


「中央診療所の医師(せんせい)だ。先日負った怪我の具合が少し悪くてね。診察してもらうことになった」

「どうも、中央診療所のナツメです」


 ラルフは歩哨に軽く会釈した。


「お勤めご苦労様です。先生、どうぞお通りください」


 歩哨はラルフに丁寧にお辞儀をした。

 そして、エーレウスに向かって言った。


「どうかお大事になさってください、閣下」

「ありがとう」


 大庭園を横切り、王族が住む建物への渡り廊下を歩いているとき、先を歩いていたロップが突然立ち止まって言った。


「僕はこの先には行けません。僕はまだ、魔道士団に所属していない見習いなので、王家の方々がいらっしゃる場所にはまだ入れないんです」


 ロップは申し訳なさそうな顔をした。


「陛下のお部屋はわかるかい?ロップ」

「ええ。南側の三階の部屋です。ほら、あのバルコニーがある一番上の部屋ですよ」


 ロップは渡り廊下の向こうにあるひときわ大きく立派な建物を指差した。


「あそこにカイエがいるのか……」


 エーレウスは低い声でぼそりと言った。


「あとは私たちだけで切り抜けなければいけませんね……ロップ、特に気をつけておくことだけ教えておいてください。それさえ知っていればなんとかはなるでしょうから」

「はい。ラルフ先生」


 ロップはいくつかの注意事項をラルフに教えた。そして、エーレウスの方に向かって言った。


「偽りの時の術が切れる前は、体に違和感を感じます。体が急に冷えてくるような感じがしたら、大急ぎで王宮を離れてくださいね。違和感を感じてから一時間以内に術が解けてしまいますから」

「わかった。気をつける。ありがとうロップ」

「では僕はこれで」


 ロップは二人に一礼すると、渡り廊下をもと来た方向へ引き返していった。


「さて陛下……いえ、近衛師団長閣下。ここからは慎重に行動しなければいけませんね」

「ああ」

「話し掛けられてもあまり返事をしないのが得策でしょう。ボロが出てしまいますから。いざとなれば閣下は喉を痛めていて、声がでにくいことにでもして、私がなんとかごまかして切り抜けてみます」

「すまない」


 エーレウスにとってラルフのこの申し出は有難かった。

 正直なところ、王宮の者に話し掛けられても近衛師団長として返答する自信がなかったのだ。


「では参りましょう。閣下」


 エーレウスは高鳴る胸の鼓動を抑えながら先へ進んだ。

 もうすぐカイエに逢える。

 ずっと待ち望んでいた彼との再会にエーレウスは、はやる気持ちを隠せなかった。


 足が震える。手の先が冷たい。

 心底緊張している自分をエーレウスは自覚していた。

 こんな気持ちになったのは初めてだった。

 カイエに逢えたら何を話そう?

 話すことは沢山ある。だけど、思い出話をする時間も、夢を語る時間もない。

 ただ、できることは僅かな時間でこの戦をエーレウスのせいだと誤解しているであろうカイエの誤解を解くこと。そして、後始末をつけるためにどうすべきか話すこと。


 だけどそれでもただ嬉しいという気持ちも止められない。

 ずっと逢いたかった親友との再会はもう間近なのだ。


 話したいことがある。

 伝えたいことがある。


 ━━━━━━━ カイエ……すぐに逢いに行く。





「閣下?どちらへ?」


 カイエの部屋に通じる階段の途中で出会ったのはカイエ付きの侍女、マリカ・セリだった。


「あ……いや」


 突然のことにエーレウスは口篭もり、咳払いをする。


「ちょうどよかった。侍従長閣下が探しておられましたよ」

「父上が?」

「ええ。執務室にいらっしゃいましたが」

「そ……そうか、ありがとう。あとで行くよ」


 マリカは不思議そうな顔でエーレウスの表情を伺う。


「閣下……どうなさいました?お加減でも?」


 マリカの表情を見て、どうやら普段のエフィとは違うと悟られたようだと感じたのはラルフだった。彼は機転をきかせ咄嗟に言った。


「閣下は少しお加減が悪いのです。流行の風邪でして、喉の調子を悪くしておられるんですよ」

「まあ!それは大変」


 マリカは心配そうな顔をする。


「非常に感染力が高い風邪でしてね。今、閣下には薬を飲んでいただいたんですが、この薬がとてもよく効くのですよ」


 ラルフは黒い鞄から小さな瓶を取り出して見せた。もちろん、中身は単なる栄養剤だ。


「は……はぁ……」


 マリカは戸惑っている。


「念のため陛下には予防薬を飲んでいただこうと思いましてね。お薬を持って閣下に陛下のところへ案内していただいているのです」

「そうでしたの。ありがとうございます。先生……でも、お医者様が来て頂いてちょうどよかったわ」

「はい?」

「陛下も少しお加減がすぐれないようで……先日からお食事をあまり召し上がらないんです」


 マリカは心配そうに言った。


「今も、夕食をお持ちしたんですが食べないと仰られて……」


 マリカの手にはまだ湯気を立てている食事のトレイがあった。


「それはいけませんね。私が少し陛下を診てさしあげましょうか?」

「ありがとうございます。先生。今、陛下のお部屋にご案内しますわ」


 エーレウスはほっとした表情を浮かべ、ラルフはクスッと笑ってエーレウスに目配せしてみせた。




「陛下。失礼します」


 ドアをノックしてマリカはラルフとエーレウスを連れてカイエの部屋に入った。


「マリカかい?食事はいらないといったろう?」


 カイエはベッドの上にいた。

 マリカたちに背を向けた状態で、振り返りすらしない。


「陛下、エフィ様がお医者様をお連れくださいましたよ」

「エフィが?」


 カイエは顔だけを入り口に向けて、ラルフを不審そうに見た。


「医者などいらない。僕はどこも悪くないよ」


 少しぶっきらぼうな調子でカイエは言った。


「いいえ、陛下。陛下は少しお疲れのようですよ」


 ラルフが声をかけた。


「そんなことない」


 カイエの語気が少し荒くなる。


「健康な人間は食事を抜くことはありませんし、そんなにイライラしていることもありません」


 ラルフはそう言ったが、カイエは相変わらず背を向けたままだ。


「陛下。お医者様の診察をお受けください……私も心配です」


 マリカが心配そうな顔で言った。


「……わかったよ……」


 カイエは渋々そう言った。


「申し訳ありませんが、少し外していただけますか?診察に支障がでますので」


 ラルフがマリカにそう言うと、


「では、先生。よろしくお願いします」


 そう言ってマリカは一礼して部屋を出て行った。



 マリカが階段を下りてゆく音を確認してからラルフは言った。


「私は中央診療所の医師、ラルフ・ナツメと申します」

「ああ」


 カイエは気のない返事をする。


「陛下は随分お疲れのご様子ですね……無理もない。戦況はぱっとしないし、このところ悪いことが続きすぎている」

「……だから何だというんだ」


 カイエの声からは明らかな苛立ちが伝わってくる。


「陛下に取っておきのお薬をお持ちしたのですよ」

「薬?僕は病気なんかじゃない。せっかくで悪いけど薬はいらないよ」

「いいえ、陛下。大事な薬です……今の陛下のお気持ちを変える効果がきっとあります」

「へえ……それはまた随分な自信なんですね。先生」


 カイエはベッドから降りると部屋着の上に茶色のローブを羽織り、ラルフに近づいてきた。


「閣下。陛下にお薬を差し上げてください」


 ラルフはにっこり笑ってエーレウスの方を見た。

 エフィの姿をしたエーレウスはうなづくと、カイエの側に近づき小声で言った。


「カイエ……逢いたかった……どうしても話したくて俺はここへ来たんだ」

「エフィ?」


 いつもと話し方の違うエフィにカイエは明らかに戸惑いの表情を浮かべていた。


「俺だ。エーレウスだ……姿は違うけど、俺はエーレウスだ」


 カイエの表情が一瞬にして変わる。


「ま……まさか……エフィ……なんの冗談だ?」

「フェリシダドと一緒にこの国へきた。この先生や、ソーナ族の子に協力してもらって、エフィ・タチバナに姿を変えて俺はカイエに逢いにきた……」


 カイエは首を激しく横に振る。


「嘘だ……エーレウスが……エーレウスがここにいるはずない……」

「……メイサの花を一枝置いて、カイエが居なくなった時は悲しかった……俺はカイエに裏切られたと思ったよ……」


 カイエは愕然とする。

 あの日、メイサの花を枕元に置いて、カイエがホムルを出た事を知る人間はエーレウスただ一人。


「……本当に……エーレウス……なのか?」


 エフィの姿をしたエーレウスはこくりとうなずく。

 目を伏せがちに、首だけこくりと下げるしぐさは普段のエフィなら絶対にしない。

 この仕草はエーレウスの仕草だ。


「……私は少し外しますよ。お二人で存分に話してください……ただし、時間は限られていますからそれをお忘れなく」


 ラルフはそう言って部屋を出た。


「ありがとう。ラルフ」


 エーレウスはラルフにもう一度深く頭を下げた。


「カイエ……いろいろあったが、その話をしている時間はない。ただ、俺はこの戦の始末をつけにきた……聞いてくれるか?」


 カイエはうなずくとエーレウスに言った。


「僕も君に会いたかった……エーレウス……僕も君に話したいことがあるんだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ