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The Legend of Dadegea 第1部 空色の翼  作者: 鷹見咲実
第4章 裁きの翼
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7.「運命の巡り合わせ」

 ●【7.「運命の巡り合わせ」】


 エーレウスとフェリシダドがアヴェリアへ入った頃、ミーサはラルフたちとアヴェリアの中央診療所にいた。

 ホルガ父子がアヴェリアでの診療を手伝うことになったからだ。

 ジャラクからの避難民やアヴェリアの民間人の殆どがさらに北のトトへとどんどん移動してゆく中、人手不足になっていた中央診療所ではホルガ父子の申し出はありがたいものだった。


 当初、ラルフはミーサとジョアンにトトに避難するよう何度も説得したのだが、ミーサもジョアンも頑としてそれを受け入れようとしなかったので、仕方なくラルフはミーサとジョアンの一時的な住居を診療所側に用意してもらえるようかけあってくれたのだ。

 ミーサの体はすっかり回復し、ジョアンと共に診療所の手伝いをしたり、ホルガとラルフの身の回りの世話をしたりと精一杯働いた。


 ソーナ族のロップはジョアンたちがアヴェリアにやってきたことをたいそう喜び、毎日のように診療所にやってきた。

 ロップの住むソーナ族居住地は王宮の敷地内にあるので、ロップは王宮で仕入れた戦の最新の状況を教えてくれた。


「そろそろ本格的な攻撃がはじまりそうだ……もうじきここは戦場になるよ……ミーサたちはどうして逃げようとしないの?」


 ロップは毎回そう聞くが、それに対し、ミーサもジョアンも必ずこう答えるのだ。


「やらなければならないことがあるから」


 ミーサはカイエに逢うこと、ジョアンは最後までホルガ父子の側にいることというのがその理由だった。


 そして、ロップは二人の決意がどうしても変わらないのを知ると、少し困ったような顔をするが、すぐにこう言う。


「わかった……いざという時には僕が守ってあげるから」


 毎日同じ質問と、毎日同じ答え。

 だけど、わかっていても同じことをロップは聞き、同じことをミーサとジョアンは答える。まるで、こうしていることで自分の心を確認するかのように。


 しかし、正直なところロップは心の中ではかなり焦っていた。

 状況はかなり厳しい。

 魔道士団見習いの自分にもそろそろ召集がかかりそうな雲行きになってきているのだ。


 最強を誇っているソーナの魔道士団が今回ばかりは苦戦している。

 平和な時代が長く続きすぎたことで、魔道士達に戦闘経験が少ないこと、それからホムル軍の兵力が非常に大きいことが原因だった。

 軍事国家であるホムルの兵士は訓練のやり方がミヅキと違い、いつでも臨戦体制で臨めるように普段から訓練されているのだ。


 ロップの兄は攻撃系の使い手で、最前線で戦っていたが、先日、ジャラクで瀕死の重傷を負って戻ってきた。

 火炎系の攻撃を得意とし、亡くなったラドリ魔道士団長からも信頼されていた兄が、無残な姿で戻ってきたことにロップは強いショックを受けていた。


 全身に包帯を巻かれ、痛々しい姿で横たわる兄の前で泣きじゃくるロップの頭を、傷だらけの手のひらで撫でてやりながら兄はロップに言った。

 酷い怪我のため、彼の意識は混濁としており、殆ど眠っている兄が、たまに目を醒ましてロップに言葉をかけたのだ。


「ロップ……お前は無理をするな。自分にできることだけやればいい」

「お兄ちゃん……僕が必ず仇をとるから」

「だめだ。自分の力を過信してはいけない。俺は自分の力を過信しすぎてしくじった。お前はそんなふうになっちゃいけない」

「でも……」


 兄はロップの頭をポンポンと軽く叩き、弱々しい声で言った。


「やつらは本気だ。自分の力を過信して無謀に挑みかかっても怪我をするだけだ。それよりもお前はお前のできる範囲の力で戦えばいい……」


 兄はまた、昏睡の眠りについた。


 痛々しい姿の兄を見てからずっとロップは考え込んでいた。

 本気になったホムル軍は強い。兄の言葉には実感がこもっていた。

 そんなホムル軍がこの街に襲いかかった時、ミーサやジョアンを守り切る自信は今のロップにはなかった。

 しかし、ミーサとジョアンの強い想いもロップにはよくわかる。

 自分にできることは何か、ロップはいつも考えていた。もしも、この二人が危なくなったら、自分の持てる力を最大に使って逃がしてやるしかきっとできない。

 もし、敵に倒されたとしても、二人をちゃんと護ることができなくても、せめて二人を敵の手の届かないところまで逃がすことができたなら……。


 その時、今も生死の境をさまよう兄は自分を誉めてくれるだろうか?



「ロップ!なにぼんやりしてんのさ。買い出しに行こう!薬草が足らないんだ」


 ジョアンがロップの白いローブを引っ張ったので、ロップはふと我に返った。


「あ、ああ……行こうか」




 アヴェリアの民間人は大半がトトへ避難していた。

 それでも、いろいろな事情のためにアヴェリアに残っている者は多い。

 薬草や雑貨を扱う商店も随分減ってしまった。だから客は開いている店に集中する。

 常に品不足で、開店直後に行かなければ売切れてしまう商品も多い。

 そのため、開店後すぐに店に入ろうと大勢の人が列を作っている。ジョアンとロップもその列に並んだその時だった。


「お前ホムル人だろ!お前が買えるような品はないんだよ!帰れ!」


 列の中から押し出された女性がジョアンたちのすぐ近くでよろけて転んだ。

 黒い髪と褐色の肌の四十代ぐらいの女性だった。


「お願いです!食料がいるんです。少しでいいですから」

「お前の国がこんな状況作ったんだろ!」

「なんでここにいるんだよ!出て行ってよ」


 列に並んだ他の客も、連鎖反応のように口々に彼女を罵り始めた。


「まずい……この状況じゃあのおばさん酷い目に逢っちゃう」


 ロップが言うより早くジョアンが飛び出していた。


「なにすんだよ!このおばさんには関係ないだろ!ここにいるってことはこのおばさんもちゃんとミヅキの国民じゃないか。生まれた国がホムルってだけでなんでそんな風に言うんだよっ!」


 ロップは女性の前に出てまるで護るように大きく腕を広げた。


「なんだ?お前もホムルの血の入ったガキか?仲間同士かばってんのかよ」


 女性を押し出した男がジョアンの前に威嚇するように出てきた。

 そして、ジョアンの黒い髪を指先で引っ張った。


「さわんな!」


 ジョアンは男の手をピシャリと叩いた。


「このガキ!何しやがる」


 男がジョアンの襟首を掴んだ瞬間だった。


「やめろ!それ以上その子に何かすると許さない!」


 ロップだった。

 青空の色の瞳の奥にある縦長の瞳孔が強い光を放っていた。


「……ソーナ族だ」

「魔道士だ……まずいよ」


 ひそひそ声があたりに広がる。


「その子を殴りたいならまず先に僕を倒してからだ。だけど、僕はまだ魔道士見習いだから力の制御はできないよ?おじさん……死ぬかもしれないけどそのときはごめんよ」

「じょ……冗談だ冗談……おい、坊主わるかったな」


 男はうろたえながらその場から逃げ出した。

 ソーナ族を敵に回すことがどれほど恐ろしいかはミヅキの人間なら誰でもよく知っているからだ。


「……ロップ……ありがと」

「大丈夫?」

「平気。あ、それよりさっきのおばさん」

「……私なら大丈夫よ。ありがとう。坊やたち」

「すみません本当に……」


 ジョアンは女性に頭を下げた。


「あなたがあやまることはないのに」

「……えへ……でも、なんとなく申し訳ない気がして」

「不思議な子ね……でも、ありがとう。ああ、そうだわ。あなたお名前は?」

「ジョアン。ジョアン・ナズナっていいます」

「……ジョアン……ナズナ……」


 女性の顔色がその瞬間変わった。


 緑の瞳に白い肌。しかし髪だけは鮮やかな黒……。

 あきらかに両親のどちらかにホムルの血を持つミヅキの子供。そして、なによりもその名前を聞き、彼女は絶句するしかなかった。



「……そう。ジョアンというのね……本当にどうもありがとう」

「おばさんは?」

「わ……私?」


 彼女は一瞬躊躇した。そして、名乗った名前は彼女の苗字のほうだった。


「ジョヴィネ……ジョヴィネっていうのよ」

「ジョヴィネおばさん、また言いがかりつけられるといけないから、僕らと一緒に買い物しよう。いいよね?ロップ」


 ロップは無言でうなづいた。


「あ、こいつは僕の親友でロップ・ワフ。ソーナ族の魔道士見習い」

「よろしく。ジョヴィネおばさん」


 ロップは礼儀正しくお辞儀をした。


「助けてくれてありがとう。ロップ」


 その時、商店の扉が開いた。

 人々の列は何事もなく進みはじめる。


「ジョヴィネおばさん。お店が開いたよ。いこう!」




 先に立って走り始めたジョアンの後姿を見ながらフェリシダドは赤ん坊の頃別れてしまった実の息子との十二年ぶりの偶然の再会に、複雑な気持ちを隠し切れなかった。



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