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The Legend of Dadegea 第1部 空色の翼  作者: 鷹見咲実
第3章 陰謀と侵略
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23.「ジャラク陥落」

 ●【23.「ジャラク陥落」】


 燃えさかる炎がまるで蛇の舌のように家々を舐め上げる。

 黒煙にむせながら逃げ惑う人々を襲う無数の矢。


 容赦はなかった。

 兵士だろうが民間人だろうが、構わずに無情の矢は襲い掛かる。

 次々に倒れるミヅキの兵士や民間人。

 その中には幼い子供や、か弱い女性や老人もいた。


 生き延びるためにその屍を踏みながら必死で逃げ場を求める人々。

 略奪行為と暴行の数々。

 無抵抗の老人が背後から斬り殺され、泣き叫ぶ幼子の目の前で若い母親は強姦され、家宝を護ろうとする主がなぶり殺しにされる。


 今のジャラクは地獄そのものだった。


 一方で若い娘や、幼い子供は捕らえられ、用意された馬車の中に連れ込まれる。

 彼女達は口を塞がれ、足には枷を嵌められる。

 本国に連れ帰られ、奴隷とされる運命だ。

 人気のなくなった家からは金目のものが運び出される。


 これはただの戦ではなく、侵略戦争。

 すべてを奪い、蹂躙する戦。


 蹂躙する側であるホムルの兵士ですら、一部の者は心を痛めた。

 しかし、命令は絶対。逆らうと自分の身すら危うかった。

 上官の命令は絶対の支配権を持ち、そのすべては最高司令官であるイサノから発せられていた。


 自ら最前線に立ち、指揮をとるイサノは全てにおいて容赦が無かった。


「抵抗する者はすべて殺せ。一人も逃がすな。財宝は全て奪い尽くせ」


 参謀長のヴェリコが見かねてイサノに進言した。


「閣下。これではあまりに酷すぎます。我々は盗賊団ではありません。むやみに略奪したり、無意味に人を殺すのはいかがなものかと」


 するとイサノはヴェリコを一瞥して言った。


「無意味?馬鹿な。ちゃんと理由はある」


 参謀は眉を顰める。


「理由ですと?」

「そうだ。新しい主君に逆らうとどうなるか、この国の主が誰であるかをミヅキの民にみせしめるためだ」


 そう言ってイサノは豪快に笑った。


「しかし閣下」


「文句があるなら今すぐお前の任を解いてもかまわんぞ?参謀長」


 イサノはヴェリコに顔を近づけ、にやりと笑うと低い声で囁いた。


「最前線で下級兵と同列に戦うかね?」


 ヴェリコは無言になった。


「腰抜けめ。私に逆らう度量も無いのに意見しようなどとは笑止な」


 イサノの目の中に宿る光を見たヴェリコは背筋が凍る思いだった。

 イサノはまるでこの戦そのものを楽しんでいるようにしか見えなかった。


 狂っている……この男は戦という魔物に取り付かれている。

 逆らうと何をされるかわからない。

 ヴェリコは恐ろしくなり、いそいそとその場を立ち去った。


 ジャラクが廃墟となるのには数時間もかからなかった。

 日が高く上る頃には、一方的に蹂躙されつくしたジャラクの街が午後の光の中で無残な姿を晒していた。





「ジャラクが陥落しました!」


 第一報がカイエの元に届いたのはその日の深夜だった。

 ミヅキ王宮は緊張した空気に包まれていた。


「状況を報告してくれ」


 カイエは報告に現れた兵士に尋ねた。


「ジャラクは目を覆いたくなるような惨状です……街は殆ど焼かれ、死者、行方不明者は多数。正確な数もわからぬほどの被害です。我が軍は善戦も空しく撤退を余儀なくされ、難を逃れた住人や周辺の集落の住民をアヴェリアに避難させるために誘導するのがやっとでした」


 報告を聞いたカイエは眉を顰め、両拳をぎゅっと握り締めた。

 その表情は険しい。


「で、現在ホムル軍は?」

「今だジャラクに留まっている模様ですが、アヴェリアに進軍してくるのは時間の問題です」


 サクラ内務大臣がカイエに進言した。


「陛下。エリサ王太后にホロのセリア姫様の元へ避難していただく手はずは整っております」

「ああ。母上には直ぐにホロにお立ちいただこう。アヴィエール神殿のイーラ様と伯父上は?」

「神官長猊下(げいか)は神殿と竜巫女(イーラ)様をお守りするため竜王神殿に残られるそうです。魔道士団の守備隊が神殿を死守するとのことです」

「そうか。ではそちらは魔導士団に任せよう」

「はい。アヴィエールの民間人はトトに順に避難させています。アヴェリアがもしものときはホロはいつでも避難民の受け入れ態勢を整えているとのことです」

「よかった。本当にホロ国に感謝しなければ」

「ホロが援軍の派遣も申し出てきていますがいかが致しましょう?」

「まだ大丈夫だ。これ以上ホロに迷惑をかけるわけにはいかない。でも、いよいよ危なくなったら力を借りなければならないかもしれない」

「はい」


 カイエは大きく溜息をついた。


「最悪の事態を考えておかなければ」

「陛下は我々が命に替えてもお守りしますから」

「ありがとう」


 表面では平静を保ちつつも、カイエは心の奥底に沈む複雑な気持ちを押さえ込むのに必死だった。

 彼が街をひとつ壊滅させる命令を出すなんて信じられなかった。

 エーレウスがこんな残酷なことをするとはとても思えなかった。

 だが、カイエがいくらそう思おうとしても現実はカイエに対して容赦が無かった。


 信じられない。

 信じたくない。


 本当に、心からこの国を蹂躙しようというのか?


 エーレウスは今、何を思っているのだろう。


 カイエは目を閉じる。

 エーレウスの面影が今でもはっきりと瞼の裏に蘇る。


 ひとつの国に二人の支配者は要らない。

 侵略の意味するところの残酷さをカイエは思いまた溜息をつく。


 カイエの傍に控える忠臣たちはその様子がいたたまれなかった。

 しかし、これは悪夢でもなんでもない。

 嫌でも決着はつけなければこの悲惨な戦は収まらない。



 カイエは開け放たれた窓に近づき、外を眺めた。

 ジャラクのある南の方角から生暖かい風が吹き込んでくる。

 悩んでいる猶予は無かった。

 決断しなければならない。本気で彼と戦う覚悟を決めなければならない。



 カイエは風を頬に受け、目を閉じ、何かに祈るように頭を項垂れた。


 エーレウス。

 僕たちはどうしても戦わなければならないらしい。

 それが竜王が僕に与えた罰。

 大きすぎる罪を清算するための過酷な試練。


 竜王との約束。


 果たさなければならない。


 そのためには………。



 ━━━━━━━ エーレウス。次に逢った時、僕は……。

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