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第一部 空色の翼 序章「昔語り」

昔、ホームページ(現在は閉鎖)で別名義で連載していたものの改訂版です。

都合により第2部終了まででHPでの連載を中断していましたが、当時の完成原稿を改稿しつつ、完結まで続きをゆっくり書いていこうかなと思ってます。(2部までは完成原稿の改稿なので、更新ペースは割と早いかと……)


全5部構成です。

竜の鱗から作られた竜の末裔達が住む架空の世界「デーデジア」の五大王家にまつわるエピソードと、それにまつわる竜たちの話、女神と創造主の謎などをオムニバス形式で書いています。


拙い作品ですが、よろしければお付き合いください。


 世界の始まりの日。


 創造主は、まず青く澄んだ空、穏やかに凪いだ海、美しい緑溢れる大地を作った。


 その世界は緑あふれ、水は澄み、肥沃な大地が広がっていた。


 次に創造主は、この世界の最初の生き物として、大きな泥の塊から異なる姿の五頭の竜をこしらえた。



 ひとつめは全身黒い鱗と紫紺の瘴気に覆われ、二つの頭と大きな鋭い鉤爪、毒の息を吐く禍々しい姿の竜。


 ふたつめは全身が赤く輝く炎の鱗に覆われ、すべてを焼き尽くす炎を吐き出す巨大な竜。


 みっつめは水中を自由に泳ぐ鰭を持ち、雨と雷を従え、蛇のような長い体を持つ深海の色の竜。


 よっつめは全身を氷の鱗で覆われ、何者をも凍らせる息を吐く、冷たく美しい姿の白銀の竜。


 そして最後はどんな高みにでも飛んで行ける大きな翼を持ち、この世界すべての風を操る深緑色の小さな竜。




 創造主が「目覚めよ」と竜達に命じると、竜達はたちまちその体に命を宿し、それぞれ思い思いに蠢き始めた。

 その様子に満足した創造主は、竜たちをできたばかりの世界に放つと休息した。


 翌日、休息から目覚めた創造主は、竜たちが互いに我こそが竜の王だと争っている姿を見た。



 まず、翼の竜が自信に満ちた声をあげた。


「我こそが全ての竜の王に相応しい。強く大きな我が翼は一日で世界を一周し、羽ばたきひとつで竜巻を起こすことができるのだ」


 するとその声に反論するように水の竜が言った。


「末弟のくせに何を生意気なことを言うのだ。お前よりもこの我こそが竜の王にふさわしいのだ。我は世界の大海を一日で渡り、激しい雨と雷を呼び、この世界の全ての水を操れる。我こそが全ての竜の王に相応しい」


 これを聞いた炎の竜も名乗りを上げる。


「何をいうか! 我こそ全ての竜の王に相応しいのだ。我が炎は全てのものを焼き尽くし、お前たちより大きな我が体は全てのものを圧倒する」


 彼らのやりとりを聞いた黒き竜は瘴気を吐きながら笑い出した。


「愚かな兄弟たち。我は最初に作られたお前たちの長兄ぞ。竜の王に相応しいのは我だ。我が毒は数多の命を一瞬で絶ち、我が二つの頭は世界の全ての出来事を全て見通せるのだ」


 兄弟たちのやりとりを氷の竜は静かに見ていたが、やがて他の竜たちよりは静かに、しかし強い声で語る。


「兄様方、全ての竜の王に相応しいのは(わらわ)ぞ。妾の息は全てのものを永遠に凍らせ、我が羽ばたきは何人たりとも寄せ付けぬ荒れ狂う吹雪を呼ぶのだから」


 竜達は「我が力こそ最強、我こそが全ての竜の王だ」と主張し、やがて激しく戦い始めた。


 その戦いは七日もの間、昼も夜も終わることがなかった。

 五頭の竜が暴れたために、空は真っ暗になり風は荒れ狂い、海は干上がり地面は割れ、全ての草木はすっかり枯れ果ててしまった。


 豊かだった世界はわずかの間にひどい有様となった。


 これを見た創造主はひどく怒り、そして落胆した。このままではせっかく作った世界が滅ぶ。


「思い上がってはならぬ! 愚かな土塊の人形たちよ!」


 創造主はその大いなる力を使い、竜たちをそれぞれ5つの土地に封じてしまった。


 小さな体に大きな翼を持つ翼竜「フォルカ」は東の果ての山脈地帯の、天にも届く山の頂きへ。

 体の長い水の竜「アヴィエール」は大陸で最も大きな湖の底へ。

 巨大な炎の竜「ガイアル」は永遠に炎を吐きつづける火山の溶岩の底へ。

 瘴気を纏う黒き竜「ヤパン」は西の彼方、地の底に通じる黒き洞窟の底へ。

 凍てつく白き氷の竜「ユズリ」は北の果てにある溶ける事のない氷山へ。


 これにより、彼らは封じられた自分の領地から他の土地へは動くことができなくなってしまった。


 そして、創造主は最後に自分の髪を一本抜き取り息を吹きかけた。


 創造主の髪は、彼と同じ輝く銀灰色の髪と同色の冷たい目を持つ若い女の姿に変わった。

 創造主は女に「デーデ」という名と一本の剣を与え、竜達の監視を命じた。


 創造主は竜たちに告げた。


「お前達は二度とこの地で争ってはならない。私がここへ戻るまで、それぞれの領地をよく治めよ。約束の証としてお前達の急所の場所を契約と監視の女神デーデに預けるのだ。もし、その誓いを破ればデーデは直ちにこの剣にてお前達の急所を刺し貫く。さすればお前達はたちまち力を失い、直ちにただの土塊に還るであろう」


 そう言い残し、創造主はどこかへ消えた。


 創造主の怒りにすっかり怯えてしまった竜たちは、大人しく創造主の言葉に従い、女神デーデに急所を教え、それを契約の証とした。




 その後、竜たちは自分たちの封ぜられた土地を中心としてそれぞれの領国を均等に分けた。

 互いの領地を不可侵とし、お互いに争わぬ事を約束した。


 次に竜たちは自分の体や手足の鱗から自らのしもべとなる人間達を作り、自分の領国に住まわせた。


 それぞれの竜たちは自分の頭の鱗から作った特別な人間を一人作った。

 そしてその人間を自分の代理者と定め、王として領国を治めるよう命じた。

 全てを終えると、竜たちは彼らの作った「竜の神殿」の奥深くに籠った。


 監視の女神デーデは竜たちと人間の王との契約を見届けると、何処へともなく姿を消したが、竜たちは彼女がいつも彼らを監視していることを知っていた。


 かくして、創造主が戻るまで、竜たちと女神はこの世界を永遠に守りつづけることになった。



『創造の書 第一巻第一項より』


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 ●序章「昔語り」


 風の強い夜だった。


 少年は窓を叩く風の音に怯えていた。

 激しく窓を叩く風の音は彼を異世界に攫わんと襲い来る魔物の吼え声のようでもあり、死者の世界から蘇った彷徨える亡霊たちの啜り泣きのようにも聴こえ、彼を恐怖に陥れていた。


 まだ幼い彼はなす術もなく、ぎゅっと目を閉じ、耳を塞いで毛布の中で朝まで怯えるしかなかったのだ。


 一人で眠るのはまだ怖かった。


 こんな時、そばにお母さんがいればいいのに。

 彼はこの部屋にいない母のことを考えた。


『もう、あなたもお兄ちゃんなのだから、今日からは一人で寝るのよ』


 数日前、母は彼にそう言い付けたのだった。


 数週間前に少年に妹が生まれた。だから母は妹にかかりきりなのだ。

 自分から母を奪った妹は憎らしい。でも、生まれたばかりの妹はとても可愛く、兄としてしっかりしなければという気持ちもあり彼は母に不満を言えなかった。


 そんな彼の思いにお構いなしに風の音は今にも彼に襲いかかってきそうで、怖くて怖くて気が狂いそうだった。


 怖くてたまらない。

 叱られたっていい。今すぐ、母のいる階下に下りていこう。

 そう、思った矢先だった。


 ドアが開いて、明るく暖かいランプの光が暗い部屋を満たした。


「誰?」


 布団を頭からすっぽり被った少年の声は震えている。


「おや……もう眠ってしまってたの? 起こしてごめんよ」


 その声は、隣村に住む少年の祖母の声だった。


「おばあちゃん!」


 少年は布団から飛び出し、勢いよく放たれた矢のように祖母の懐に飛び込んだ。


「おばあちゃん! 来てくれたの?」

「さっき着いたところさ……お前の母さんは今、生まれたばかりのお前の妹の世話で忙しいから手伝いに来たんだよ」


 祖母はそう言って優しく少年の髪を撫でた。

 少年は祖母の胸にぎゅっと顔を埋める。


「おや、甘えん坊さん。どうしたの? 眠れないの?」


 祖母は少年が小さく震えていることに気づいたようだった。


「うん。今日はなんだか風の音がとっても怖くて……」


 祖母は穏やかに笑って少年に言う。


「風の音なんかちっとも怖いものではないよ? お前が怖いと思うから怖いんだよ」

「でも……」

「大丈夫。ここにあたしがいるでしょ?」

「……うん」

「ほら、安心しておやすみ。お前が眠るまでここにいてあげるからね」


 祖母は少年をベッドに寝かせると、自分はベッドのふちに腰掛け少年の柔らかな髪を優しく撫でてやりながら言った。


「そうだ。昔のお話をしてあげよう」

「どんなお話?」


 少年の目が輝いた。

 祖母は沢山の昔話を知っているからだ。


「むかぁーしむかし……」


 眠たげな祖母の語り口は少年を安心させた。

 もう、風の音など怖くなかった。




 その夜、祖母が少年に語った昔話は彼の恐怖をすっかり取り去ってしまった。




「おばあちゃん。このあいだの話の続き、聞かせて!」


 少年は毎晩のように祖母にこの話の続きをねだった。

 祖母は何日もかけて、時には大げさな身振り手振りで、少年に物語を語った。






 ━━━━━━ 時が経ち、少年は大人になった。


 少年の心を虜にした昔話をしてくれた祖母は既に他界したが、こんどは同じ物語を彼は自分の子供たちに語ることになる。


 ちいさな瞳を輝かせてお話が語られるのを待っている子供たちの頭を撫でながら、かつて風の音に怯えた少年はゆっくりとした口調で語り始めた。



「これからはじまる長い物語は、お父さんが昔、おばあちゃんから聞いた話だ」

「どんなお話なの?」


 彼の幼い息子と娘はかつての彼のように期待にその目を輝かせる。


「デーデジアに伝わる今は失われた二つの国の物語だ。まだ、人間が神々と話をすることができた時代の、悲しいけど美しいお話だよ……」

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