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異世界に鷹、さんだぁバード!  作者: 赤塚ハシラ
一章 無人島編
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第七話 果物

 

 目覚めて暫くは、事情が飲み込めない。

 何度も辺りを見回してから、ようやく現状を理解した。


「……そういや、無人島だった」


 朝のせいか、気温はそれほど高くはなく、むしろ丁度良いくらいだ。

 夜も寒さは感じなかったし、これならば風邪をひく心配もない。


 軽く背伸びした後、軽い足取りで昨日の川に向かう。

 これぞ清流! といった抜群の透明度。

 安心して飲めるってもんだ。


 川で軽く身支度を整えてから、近くにあるスターフルーツをその場で何個か豪快に頬張る……うん、朝食には最適だな。


 何個かドライフルーツを作ってみるか。

 時間はいくらでもある。

 熟していそうな実を何個か選んで、寝床周辺に戻る。


 何個かはスライスにしよう。

 折角、綺麗な星型になるんだから、それを愉しまないのはもったいない。

 無人島に風流を取り入れよう。


 そこそこ硬そうな石をみつけ、それを地面の石に何度か投げつける。

 すると石が割れ、鋭い断面が顔を出す。


 ま、お手製の石のナイフみたいなもんよ。

 キャンプや山登りが趣味なので、こういうことは得意なんだぜ?


 スターフルーツを適当な大きさに輪切りにし、尖った部分の硬い皮は、手で適当に剥いて捨てる。それを平たい石の上に適当に置いて、二日程干せば完成だ。


 ……これでいいか。

 仕込みが終わった頃、イン子がこちらに飛んできた。

 何やら両足に抱えているようだが。


「加重よ、よく眠れたようじゃの」


「おう……って、なんだそりゃ?」


 ズイっと、それを差し出すイン子。

「これはの、忌々しくも妾が封印されておった瓢箪(ひょうたん)じゃ」


 少し驚きつつも、その徳利のような瓢箪を手にとってみる。


 表面を軽く叩いたりしてみるが、思った以上に固くて丈夫そうだ。

 それなのに重さはまったく感じず、むしろ軽く感じる。


 色は茶色。真ん中の細い部分に綺麗な赤い紐が何重も巻き付いており、上部にある、瓢箪のフタと紐が連動して付いてる。


 時代劇で派手な服装の人が、この中に入れた酒を飲んでる映像が頭に浮かぶ。


「見た目に騙されるでないぞ。その瓢箪は兄が生み出した宝具(ほうぐ)の一つなのじゃ。水如き、いくらでも入るわ」


 嘘だろ? 精々、一リットル入るか入らないかの大きさだぞ?


「なぁ、こんな小さな瓢箪に……本当に封印されてたのか?」


「そうじゃ、そんな小さな瓢箪に五百年以上は封印されておった」 


 一見、ただの瓢箪だが、宝具とかいわれると、なにやら良い品に見えてくるぞ。

 表面の艶と光沢が、良い風情を醸し出している。


「これは良いものだ」

  ……本当に良い瓢箪だ。


「確かに良いものじゃが……ふむ、へんなやつじゃの。それよりもお主、その瓢箪をくれてやるわ。水筒代わりに使うのが一番よかろう」


「宝具とか言ってたけど……いいのか?」


「このまま捨て置くのもなんじゃしの。それに元々は兄のもの……これから持ち歩くことを考慮すれば、それが一番よい」


 これは有り難い。封印に使われてたようなものを水筒代わりにするはどうかとは思うが、これから生活していく上で、随分と助けになるだろう。


「ってことなら、ありがたく使わせてもらうぜ。サンキュな」

 腰のベルトに瓢箪のヒモを回し、動く時に邪魔にならない高さに固定する。


「へへ、いい感じだ」

 瓢箪の付け心地を確かめている俺に、イン子が提案をしてきた。


「これで問題なく島を探索できるようになったわけじゃが……これから『だいあ虫』退治をやろうと思うておるが、どうじゃ?」


 異存などない。

「よし! ダイヤ虫退治か。異世界だか何やらわからない世界での、最初の獲物だな」


「その意気よ。では、瓢箪に水を汲んで『だいあ虫』退治に参るとしよう」



 ……瓢箪には、水がいくらでも入るので適当な量で止めました。

 川に沈めると、永遠にブクブクするんで。


 一体どういう構造してるんだ、この瓢箪。



 さて、ここからようやく虫退治作戦だ。

 まてよ、虫退治だとスケールが……。

 いくぞ、ダイヤモンドを手に入れる作戦。

 一気にスケールアップしました。


 イン子が飛びながら進み、俺が追いつくのを木の上で待つ、という動作を繰り返し、どんどん林の中を進んでいく。


 俺も飛びたい……いつか飛んでやる。


 暫くイン子の後をついて行くと、一層茂った場所で一旦止まり「ここでよいじゃろ」と言った後、俺の目線くらいの高さの枝に飛び降りてきた。


「この周囲に、二匹『だいあ虫』がおるの」


 周りを見渡すが、目線では確認できない。

 そういや、初めてダイヤ虫をイン子が倒した時、簡単に見つけてたな。


 何か探すコツでもあるのだろうか。


「なぁイン子、ダイヤ虫が何処にいるのか、わかんのか?」


「妾は動物や生物が放つ生命力――いわば『気』のようなモノを捉え、ある程度の位置を把握することができるのじゃが」


 さすが天狗といったところか。


「だが、まあ聞け。この『だいあ虫』は、少し厄介での。『気』では、まったく探れぬのよ。……では、どうするか? 音じゃ。奴等は微量ながら、音を発しておる。人間には聴き取るのは不可能じゃが。それを捉えるというわけよ」


 犬笛みたいなもんか?


「人には聴き取れない音か、俺じゃ――」 

「――確かに人間には無理……だが、もう忘れたのか? 御主はもはや人ではないと申したはず」


「……」


「あの高尾山で、妾の雷撃を何度も受けておった時……御主は無意識じゃろうが、妾のことを『吸収』しようとしたのじゃぞ? そんなことが、ただの人間にできると思うか?」


 不敵な笑みをうかべながら嬉しそうな声を上げるイン子。


「……俺が? イン子を吸収しようとしたってのか?」


 イン子は嬉しそうに笑っている。

 何が楽しいんだ……逆にちょっと怖いぞ。

「その結果、妾と御主が『同化』したのじゃ。ほんの僅かだがの。『だいあ虫』を見つけるなぞ、簡単なことよ」


「俺がイン子と同化……ある程度繋がったってことか?」


 軽くパニックになっている俺の頭に、不思議な事がおきた。



【つまり、こういうことも出来るぞ】



「――な!」

 イン子の声が、俺の頭に直接響くように届いた。

 今のはなんだ? 

 更にパニック状態になるが、俺を落ち着かせるかのようにイン子の声が届く。


【安心せい。これは御主の頭に、心に直接話しかけておるだけじゃ。妾と御主は一部が既に同化しておるのでな。このように心にも繋がりがあるのじゃ】


「心にも繋がりがあるのじゃ?」

 驚きのあまり、インコ相手にオウム返しをする始末。


 これも頭がパニックになっているせいだ。


「……なぁこれって、俺の思ってることが解ってしまったりするのか?」


「御主の心を読めるか、ということかの?」

 そうだと返答し、軽く頷く。


「それはない。これはあくまで心に語りかけるだけじゃ」


 試しに、心の中でありとあらゆるイン子の悪口を思いつくまま言ってみる。



 ……何事もないようだ。本当に心の中までは読めぬらしい。

 あんなことまで言われて怒らないなら大丈夫だろう。


「同化した者同士、雷能力を駆使すれば、直接心に話しかける事が可能になるのよ」


「妾は御主以外の人間にも、波長が合えば声を届けることはできるのじゃが、その場合は一方通行でな。だが御主ならば妾と会話出来るはず。まぁ少しやってみよ」


 心に直接の会話を……雷能力で?

 急に言われてもな、力の使い方がよくわからない。


「やってみるが……コツはあるか?」

 そうじゃなと言って、イン子は暫く考え込んでいるような仕草を見せる。


「まずは御主のやり易いもので置き換えてみよ。今は目の前に居るから、見つめればできそうじゃが……いずれは、離れた場所でも出来るようにしたいからの」


 確かに、声に出さないで話せることが出来れば何かと便利だ。


 他人に気づかれずに会話が出来るメリットは計り知れない。

 この力が必要になる時もあるだろう……習得するべきだ。


 ……そうだな。

 ズボンに入れたままにしていた、壊れて動かないスマホを取り出した。


「それは?」とイン子が興味津々に、顔を覗き込んでから聞いてきた。

 スマホ、携帯電話を見るのは初めてなのだろう、まぁ当然か。


「こいつは携帯電話といってな、まぁ残念ながら壊れているが、この機械――じゃなくて、この『からくり』を手に持った者同士なら、どこまで離れていても、コイツを通して会話ができるんだ。日本中、全国どこでもだ。へへ、すげぇだろ?」


 俺は携帯をイン子の目の前に持っていき、色々な角度でみせてやる。


「ほう、この『からくり』を持っておれば会話ができるのか……しかしまぁ随分と精密というか、よくできておるのう。ここまで文明は進歩しておったのか」


 携帯を一通り見せた後、俺はポケットにしまう。


「俺はこのカラクリを使う感じで、今のやつをやってみようと思う」


 まずは目を閉じ、イン子を思い浮かべる。

 電話をかけるイメージ……よし、まずは番号を決めよう。


 ……天狗だからテン。『一〇』。


 キーパットを想像し『一』『〇』と打つ。


 つながれ……このピリピリとした……お、この感覚――。



【もしもし】



【亀よ亀さんよ、じゃな】


「おおお! できたっ!」


 なあ? 俺ってマジ凄くね?



「今の力の応用よ、だいあ虫の波長を探し、捉えるのじゃ」


 イン子に頷いた後、意識を集中する。


 探す……耳を澄ます……雑音を閉ざす。

 ダイヤ虫をイメージして電話……だめだ、まったく返答がない。


 俺って、マジ全然凄くありませんでした。


 ダイヤ虫に電話をかけるイメージ、これが駄目なんだ。

 警戒している相手にいくら電話をしても無駄なのと一緒。

 ダイヤ虫に居留守を使われれば終わりだ。

 切り口を変えてみるか、発想の転換だ。

 そうだ……ダイヤ虫を罠にかける。


 まずは、電話をイメージ……でも相手はイメージしない。

 その代わりに、この周囲一帯に手当たり次第、電話をかける。

 そして、ワンコールで切る。


 通称、ワン切り。俺はこれを繰り返した。


 雷力を駆使したイメージだけでだ。

 ワンコールが気になり、返答してくるダイヤ虫をひたすら待つ。



 すると、『キーン』とした音が、微かに頭に響いた気がした。

 音にならない音、微かに……頭に響く。

 間違いない、ミツケタゾ。


 草に隠れて姿は見えないが……いたぞ。

 おそらく、直線で十五メートルの距離。

 その場に向かって疾走る――いや、気がついたら既に疾走り出していた。

 しかも、ありえないスピードでだ。


 そしてその場に付くと同時に、全力で全身から雷を放出する。

 激しい音と同時に、周囲の地面から噴煙がまきおこる。



「ギュゥ」


 耳に届いた音は、ダイヤ虫の断末魔。

 心の内を、今はうまく説明できない。

 命を奪ってしまったという罪悪感と、獲物を仕留めたという爽快感。

 それが、ごった煮のように入り混じった不思議な感覚だ。


 地面に目を落とすと、黄色いダイヤ虫が煙をあげて死んでいた。


「すまん……大事に使わせてもらうよ」


 俺はそう呟き、ダイヤ虫に手を合わせる。

 決意を新たに、もう揺るがない。

 この異世界で生きていくために、これからも命を奪っていくのだから。


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