第四話 原石
マジで本物のダイヤモンドかよ。
しかもこのデカさを見ろ! 一体……末端価格でいくら位するんだ?
末端価格の使い方があっているかわからない……時価にしておこう。
ダイヤモンド。
メッチャ欲しい……くれないかな?
ダメ元最強、聞くだけならタダだ。
「イエローってのは、黄色って意味だよ。……ひょっとして、これって俺を巻き込んだ謝罪の品かなにか……かい?」
拉致った賠償金だ。黙ってよこせ! と本当は男らしく言いたかった。
「フム……欲しければ、それはくれてやろう」
「えっ? マジで?」
何事も言ってみるもんだ。
いや待て待て、怪しさ満点。
危険なことをやらされるかもしれん……なにせ相手は天狗を名乗っているのだ。
「イン子さんよ、そんな高価な品を、無条件で譲ってくるのか?」
「妾はインコではないと言うておろう」
「なら本当の名前を教えてくれ。それか女天狗って呼ぶか? でも女天狗って言いにくいんだよな。種族の名前っていうか、総称っぽいし。だからイン子は愛称ってことで」
「教えたくとも、人には発音が困難ゆえ……ま、下手に名を聴かば、鼓膜が破れる恐れも――いうてもわからぬか」
下を向き溜息をつきながら、イン子は渋々ながら了承した。
「その『だいあもんど』は下に履いておる服の収納にでもしまっておけ」
服の収納? ……ああ、カーゴパンツのポケットのことね。
なんかたまに、大昔のばあさんと話してる気分になるんだが。
「その『だいあもんど』はの、力を溜めることが出来るのじゃ」
「力を溜める? この石にか?」
「大法術を使うには、大量の霊力が必要でな。封印された影響で霊力の回復が悪く、体内に蓄積できる量も雀の涙。だから、その石に移しておったのじゃ」
「……」
「時空を超える大法術を使うため、毎日コツコツとの」
「百五十年じゃぞ! 難儀なことに、元の世界に戻るには、世界との接点も必要なのでな。それも探しておったのよ」
ハァハァと少し興奮気味になっていたが、自分でそれを落ち着けるかのように一呼吸おいてから、イン子は話しを再開した。
「接点を探すのに五十年……合わせると二百年近くじゃ。そしてついに見つけた。それが加重、御主じゃ!」
ドーン! と俺の方に自分の翼を、まるで指差すように向ける。
「お、おう……でもなぜ俺なんだ? 接点なんてないだろ?」
イン子は笑みを浮かべながら、こちらを見つめる。
「それがある。御主が居った場所も重要。高尾山は、妾と縁の深い場所での……よいか? 大事なのは、御主がそこに居った、という事実」
「俺が高尾山にいたから……?」
「縁のある者なら、雷撃ごと受け止めてくれるはずであったが……不幸にも覚醒前の御主だったというわけよ」
「だから何で俺とイン子に縁がある?」
「御主は……雷の神の末裔かの。血は薄そうではあるが。それが妾との縁よ」
――ドクン
「俺が雷の……」
「不可解なのは、御主以外の雷の力を持つ者が見つからなかったこと……まるで消えてしまったかのようでな」
俺が神の末裔で、数少ない生き残りかもしれないだと? ……随分と壮大な話になってきたな。
……ん? 待てよ何か引っかかる。
「つまりイン子も、雷の力を持った数少ない生き残りってことになるよな?」
「ウム。無念にも妾は封印されておったからの……目覚めてからの二百年、同族の気配は、この世界でも感じなかったぞ」
「もしもだぞ? 雷の神や精霊が、急に消えちまったってことは、そいつらも兄さんに封印された、とかはないか? そもそも何でお前は封印された?」
イン子は一点を見つめ、何やら考え込んでいるようで、返事がない。
タイミングを見計らって、再度話しを続ける。
「何か事情があって、妹を助けるために封印した……可能性はないか?」
「ありえる話じゃの……そういう見方もあるのじゃな。兄憎しで思いもよらんかったぞ加重よ、そなたに感謝を」
「い、いや別にそんな礼を言われる程、大したことは言ってないぜ」
なんか照れるな、こういうのは。
「少しは希望が見えてきたの。うまくいけば現状を打破できるかもしれん……今の残りの霊力じゃと……一度が限界かの。よいか加重、決して見逃すでないぞ」
女天狗を名乗るイン子が、何やら重大そうなことを伝えようとしている。
先程まで止まっていた、ヤシの木の上の方まで白い翼を広げて華麗に飛び移り、何やら辺りを探しているようだった。
何か見つけたのか、白い鷹は、フワッと飛び立ち、一気にスピードをあげる。
体全体が雷のように輝いたかと思うと、矢のごとく一直線に。
大きな音と共に砂埃をあげ、凄い勢いで地面に突き刺さった。
――雷だ!
ブワっと鳥肌がたったのは、雷を喰らい続けたトラウマなのか。
一度深呼吸……よし。
黒煙が出ている先に、俺は走り出した。