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異世界に鷹、さんだぁバード!  作者: 赤塚ハシラ
一章 無人島編
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第三話 正体


女天狗(めてんぐ)? 天狗って女の……天狗ってことか?」


 予想外の正体に驚き、女天狗を名乗るその白い鷹を、ついぞ観察してしまう。

 女天狗は、どうじゃと云わんばかりの表情を浮かべながら胸をはっている。


 いや、鳥の胸肉を見せられても。


「いや、どうみても鳥にしか見えねぇが……『変身』するのか?」


「変身とは少し違うがの、普段はこの姿で過ごしておる。力の消耗も少なく、人目につかぬという利点がある……別に人など恐れているわけではないが、色々と面倒での」


 女天狗は、小さくため息をつく。


「本来の姿はいずれの。カジュウ、加重よ。(わらわ)(いかづち)を放ち、御主をこの場に引き込んでしまった話をしたの?」


「加重の発音はどっちでもいいぜ。話を最初に戻すが、正直今でも落雷を喰らって、こんな場所に連れてこられたことにムカついてる、だが、さっきの話を聞くに、お前さんにも事情があってだな、その、色々とやばかったが最善はつくした……ってことだろ?」


 女天狗は小さく頷く。


「恐らく、妾は消滅しておったろう。御主も、どうなっておったかわからん」


 あのままだと死んでいたってことか。

 俺を引き込んだと言っていたが……少なくとも死んではいない。

 でも、凄く痛かったのは事実。

 マジで死ぬかと思ったし……普通、何十秒も落雷を浴び続けることなんてってありますかね?

 だが俺は、広い心と優しさを持つ男。

『かじゅうくんは、いつもやさしいね。お顔いがいは』……と、幼い頃の初恋の女の子に言われた事がある程の男なのだ。

 ……思い出したら悲しくなってきたぞ。


「とにかく『すまぬ』って謝っただろ? 一応は許してやる、一応な。俺は心が海よりも広いんでね」


「一応か……確かに無礼じゃった。加重よ、すまなかった。心より謝罪しよう」


 女天狗を名乗る、赤い顔をした白い鳥は、小さい頭を深く何秒も下げた後、ゆっくりとこちらに視線を戻した。


「……」

 間違いない、今のは本気の謝罪だ。

 俺はこの時点で、コイツに一切のわだかまりがなくなった。



「色々と言いたいことはあったが、謝罪を受け入れた。だからもう謝るなよ? ……天狗って――いや、女の天狗か。天狗って男のイメージが強くてよ。場所によっては神様みたいに(まつ)られてるだろ? 高尾山もそうだったし。 それが人にも頭を下げたりするんだなって……ちょいと驚いたんだよ」


 女天狗はすぐに何か察したのか、少し笑いを含む声で返答してきた。


「御主の思う天狗がどうなのかは知らぬが、悪いと思えば頭を下げるぞ、滅多にはないが。それに妾は少し特別での。他の天狗は全て男なのじゃ。それに(おなご)のほうが男どもより、人当たりもよかろうて、フフ」


 いや女性の方が気難しい場合が……そう思ったのは俺だけではないはずだ。


「ゴホン……あー天狗って、一体何人くらいいるんだ?」


「本来は、大天狗(おおてんぐ)と称されていた者のみを、天狗と呼ぶのじゃが……そうだの、妾と兄と……数人もおらん」


 更に女天狗は話を続ける。


「天狗を(した)い、人が山に籠もる。仮面等で顔を隠し、山伏等の姿で何年も修行を重ねる……やがて認められると眷属(けんぞく)になれるのじゃが、所詮そやつらは、天狗の眷属になった人間。生まれというものは変えられぬものよ」


 天狗と言えば、顔が真っ赤で山伏姿、そして下駄を履いて大きい団扇を仰いでいるイメージだ。

 その、俺の知ってる大半の山伏姿の天狗は人間ってことか?

 だが『眷属』ってまさか……。


「眷属……俺を親しい存在だと言ってたな? 俺も眷属ってのになったのか?」


「いや、御主は眷属でないぞ。……まずは事の経緯を説明したほうがよかろう。そこに座り、妾の話を聞くがよい。質問は後にせよ」

「わかった。あと年齢も教えろよ」

 焦る気持ちを抑え、胡座(あぐら)をかいて大人しく聞くことにした。



「年齢はいずれな。……あれはの、五代の犬公方が統治する江戸近くの山中での出来事よ。ある日、妾と兄の間でイザコザがおきての……いわゆる兄妹喧嘩というやつよ。その時、不覚にも兄の瓢箪(ひょうたん)に封印されてしまっての」


 五代将軍って一体何年前だ? それに……瓢箪に封印、ときたか。

 映画、漫画、アニメ、ゲーム……小説の中だけの、まるで『おとぎ話』。

 ここに来る前の俺なら、恐らく鼻で笑っていただろう。

 だが、今は違う。

 今……その『おとぎ話』のような世界の中にいるかもしれないのだ。



「封印の間は意識はなくての。封印が解け、気がつけばこの見知らぬ島よ。目覚めてすぐに兄を探したのじゃが……ここが無人島だとわかるのに、そう時間はかからんかったわ」


「兄に仕返ししようにも、行方もわからぬ。ここがどこかもわからぬ。それに長期の封印の影響で、力の殆どを失っておってな」


「……」


「天狗に顕現(けんげん)するにも、力の源である霊力(れいりょく)という力が必要になるのじゃが、封印の影響か霊力が殆ど回復しない体になっておる」


 話は一旦そこで終わり、女天狗はヤシの木の窪みに顔を入れると、(くちばし)を使って、石のようなものを取り出した。

 黄色い石のようなものを咥えながら、グライダーのように滑り降りてきた。


「ふぉれほれもひほ。うへほるふぁひょい」

 石をくわえたまま何か喋った後、俺の手に落とす。


 多分だが、ほれ、これを見よ。受け取るがよい……だと思う。

 渡す物があるって最初に言えば良いのに。


 渡された黄色い石は、かなりの大きさ。

 縦横共に、四センチくらいだろうか?

 中は透き通っており、手を入れれば、綺麗になりそうだ。


 なんかの原石、なんの宝石だ? 全くわからんぞ。

 しかし参ったな、こんな所でリアルが関係してくるとは。

 プレゼントするような女なんていなかったからな……。

 思い出したら悲しくなってきたぞ。


「高価な石なのか? 知ってるのはダイヤモンドくらいだが。あれは無色だしな。あ、イエローダイヤモンドってのもあるか? ……そんなわけねーよな、ハハ」


「いえろ? だが、ようわかったの。確かに『だいあもんど』じゃ」



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