第二十七話 今の限界
――ドクン。
驚きの余り、直ぐにその電話を切った。
頭が混乱する……とても嫌な予感がする。
何だ今のは? なんだあの声は?
今の声を思い出すだけで鳥肌が立つ。
「カジュウ殿、そ、その変な音がした薄い石のようなものは一体?」
スマホを見たことがないのだろう、騎士パメラがかなり驚いている。
……だが、今の俺に答える余裕などない。
【……どうした加重、何事じゃ?】
俺の様子に心配したのか、イン子からの念会話が届き、そこで俺は我に返る。
【いや、なんか気色の悪い奴が、俺に連絡をとってきたんだ】
【御主に連絡を? その『からくり』を利用してか?】
【ああ、これは壊れて動かない筈なんだが……それに、気になることも言ってた】
【なんと言っておった?】
【それが気味の悪い声で……「遂に見つけたぞ、雷の一族よ」……ってな】
【……まことか?】
【間違いない、確かに言ってた】
【……ウム、それは御主と妾の事じゃの】
【直接連絡をとってきたんだ、まず間違いなく俺達のことだろうな】
ここで、お互いの念会話が途切れる。
何も言えず、暫く黙ってしまう。
それも当然だ……とても不気味なのだ。
俺は必死で頭を巡らせる。
考えろ……あの電話で、アイツはなんて言った?
思い出せ、重要な意味があったはずだ
遂に見つけたぞ。
この言葉の意味は……俺達を探していたってことだろう。
雷一族。
……これは俺とイン子が、雷の力を使うことを知っている人物だ。
あの不気味で、敵意に満ちた声。
あれは、絶対に有効的な態度ではない。
……憎しみや悪意、恨みに敵意。
そして、憎悪すら感じられた。
俺達を探している、敵意のある人物。
恐らく、会えば相当な確率で襲われる。
……しかも、俺達が雷能力があるのを知ってて襲いかかるつもりなら?
ソイツは相当危険な奴ってことになる。
しかもソイツは、電話をかけてきた。
何か、何か……違和感はないか?
思い出せ、思い出せ、思い出せ!
あ、『ダイヤ虫』を探す時に、俺はスマホをイメージして探した。
……今の奴が、まさかそれと同じ手を使ったとしたら?
「イン子、ついて来い!」
全力で叫んだ後、俺は騎士の馬から飛び降り、全力で駆ける。
遠くで騎士の声がするが、仕方ない。
……済まないな、パメラさん。
この危機を無事に切り抜けたら、王都で一言謝ろう。
俺達は、街道の近くの森の中へ逃げ込む。
「加重……如何致した?」
「如何もなにも、お前はアイツの声を聞いてないからな! ありゃヤバいぞ、俺達は見つかったんだ!」
「見つかった? 其奴にか?」
「ああ、俺は『ダイヤ虫』を探す時に、あの『からくり』を、頭の中で上手く利用したんだ。……それと同じ事を、今の奴にされたんだよ!」
「…………」
イン子が悩んでいるようだが、後だ。
問題は、スマートフォンだ。
確かスマホって、追跡装置みたいのが付いてたよな? その機能が関係あるかはわからないが、持っているのは危険かもしれん。
俺は懸命に穴を掘る。
バレないように、もっともっと深く。
なまじ力があるのか、どんどん掘れる……よし、いいぞ。
一メートル以上は掘れた。
俺は急ぎ、地中深くにスマートフォンを穴に入れる。
……そうだな、イエローダイヤモンドの原石も埋めておくか。
コイツは俺とイン子にとって、とても大事なものだからな。
一応……念の為だ。
既に力の溜まっている一個を除き、五個のダイヤモンドの原石を、スマートフォンの横に埋める。
万全を期し、金貨も埋めておこう。
そう……何事も起こらず、無事だったら取りに来れば良い。
手元に金貨一枚だけを残し、残りの金貨も土に埋めた。
ここの場所を覚えておこう……何か目印はないか?
お……あの木の傷に、この岩の形、良い目印になるな。
手早く地面の土を慣らし、何事もなかったかのようにする。
ふぅ……なんとか間に合ったか。
俺は安堵のせいか、その場に座り込んだ
「しかし御主、そこまで不安か?」
「……イン子、俺はとてつもなく嫌な予感がする。だから、アイツ等……ドワーフのおっさん達を巻きこみたくなくてな。ここからは俺達で単独で王都に向か――」
その刹那――俺の真上。
空にひびが入る。
何かが、ひび割れる音。
そして、空に黒い穴が現れる。
あ、あれは見た……見たことがあるぞ!
「……あ」
「む! なんじゃ?」
その穴から、黒い雷がまるで蛇のように這い出してくる!
――そして、イン子に直撃する。
「なっ! ぬぅああああああ!!」
黒い雷を喰らい、イン子が吹き飛んだ。
影のように、黒い雷がうごめく。
その黒い雷が、おぼろげながらも人型を形成し、影のように揺らめく。
ボヤケているが、巨大な黒の影!
人型の黒い霧の雷!
一体なんだってんだ、あれは!?
「……随分ト探シタゾ、雷神ヨ」
その黒い影が喋る!
雷神? イン子の事か?
「……ぬぅううう、き、貴様は」
イン子が苦しそうに倒れ唸っている。
ッ! ――って俺は何をやってる!
「て、てめぇえええ!! 何してくれとんのじゃあああ!!」
ビシャ!! ――バリッ!!
渾身の雷撃を、黒い人影に撃ち放つ!
「ム?……オオ、オオオオオ!!」
俺の突然の雷撃に、黒い影が驚く。
「このクソがあああ!! まだまだ喰らいやがれえええ!!」
雷の乾いた音が絶え間なく響き渡る。
「てめええええ!! 死ねよ死ね!!」
何度も何度も、俺は自分に出来る最大威力の雷撃を、黒い影に撃ち放った。
「……この……クソ野郎がああ!!!」
――ジリジリッ。
超回復する、俺の霊力と雷力。
そのキャパを越え、全てを使い切る! 全部出せ! 全力で放出する!
「消えろおおおお!! タコ助!!!」
俺の渾身の雷撃が影に炸裂する!
――バリッ! ゴロゴロゴロ。
そして、落雷の後の余韻の音が響く。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
……俺は全力でやったぞ、全力で……!
黒い影を見ると、所々に穴が空いている
手応えは十分あった……だが。
「フ……フハハハ!! フハハハハハハ!!」
ヤツの……黒い影の声が聞こえる。
……ああ、駄目だったか。
……あれだけやって、倒せねぇのか。
絶望の笑い声が、俺に敗北感を与えた。
「久シブリニ傷ヲ負ッタゾ、白イ髪ノ男ヨ……褒メテヤル」
黒い影が、ゆっくり拍手をしている。
……クソ、馬鹿にしやがって!
「久々二、生キル喜ビヲ味ワッタゾ。マサニ刺激的ナ雷デアッタ……礼ヲ言ウ」
黒い影が、ニタァと笑う。
見ただけで、一気に背筋が寒くなる。
何だコイツは……?
この恐怖……天狗の時のイン子以上だ。
【……よいか加重、 そこから妾に力の溜まった『だいあ』を投げてくれ】
念会話! 良かった、無事だったか。
【……平気か?】
【と、言いたいところじゃが……平気ではないの。だがコヤツは余りに危険。御主では無理じゃ、天狗の力で倒すしかあるまい】
俺は息を呑む。
【わかった……頼んだぜ相棒】
【任されよう】
俺は力の溜まったダイアの原石をイン子に投げつける!
それをイン子が見事に口に咥えると、同時、体が一気に光り輝いた。
「アレハ! イエローダイヤモンド!」
黒い影が、驚きの声を上げる。
激しい閃光と共に、周りの空気が凝縮し破裂する!
「遅イゾ雷神! 衰エタナ!!」
その声と同時に、黒い影が腕から体の何倍もの黒い雷を、イン子に向け撃ち放つ!
「ぬあああああ!」
まさに大爆発!
まったく耐えきれず、俺は何メートルも後ろに吹っ飛び、転げ回った。
……イン子は無事か?!
クソ、真っ白で何も見えねぇ!
……段々視界がクリアになっていく。
黒煙に見える人影……あれは。
あ、あれは女天狗、イン子の真の姿だ。
……良かった、変身が間に合っ――。
「――え?」
確かにイン子、以前見た人型の女天狗。
俺も恐れた、人ならざる力の持ち主。
……だが、その偉大な天狗は、全身傷だらけで倒れていた。
「イン子!」
俺は思わずその場に駆け寄ってしまう。
――それと同時!
――ビシャ!!
近距離から浴びせられる黒い雷。
「ぐあああああああああああ!!」
その衝撃に完全に思考が停止する。
ん?
そうか……今のは……俺が食らったのか。
たった……たった一撃で、体がボロボロになっちまった。
指に力を入れる……駄目だ、指一本動かすのも苦しいとは。
だが、諦めるのか?
うつ伏せに倒れていた俺は、全身が黒く焦げている体に、力を入れる。
これくらいなんだ! 加重、立てよ!
俺は必死で立ち上がる。
敵がいるんだ、倒れててどうする!
「クソがあああ!!」
手が、そして足が震える……立っているのが精一杯だ。
……そうだ、イン子はどうなった?
イン子が倒れていた場所を確認する。
く……やはり倒れたままだ。
「ホウ、アレヲ喰ライ立チ上ガルカ……マスマス面白イ、ククッ」
黒い人型の影は、例の背筋が凍るような気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「立ッテイルノガヤット……ガ、ヨクヤッタ白イ髪ノ男。褒美トシテ、俺ノ餌ニナル事ヲ許ス。貴様ハ雷神ノ後ニ、食ロウテヤル」
「……ふ、ふざけんじゃねーぞ! この……影野――」
――ビシャ! バリッ。
「が…………」
……ドサッ。
黒い影による二度目の黒い雷の攻撃で、俺は力なく倒れた。
「雷神ヲ食ラウマデ、貴様ハ寝テイロ」
……クソ、今の一撃は効いた。
目がかすむ……こりゃ助からんか。
イン子だけでも……なんて思ったが。
「「調子に乗るなよ下郎!!」
「グオオオオオオオオオオ!!」
――バリッバリッ!
黒い雷とは正反対の、白い雷光。
まばゆい光の一撃が、黒い影を襲う。
……あれは、イン子の雷撃だ。
女天狗になったイン子の手から、絶え間なく雷撃が繰り出されている。
黒い影は、イン子の雷に縛られる形で、体を硬直させ身動きできずにいる。
「「ぬおおおおおお!!」」
「オ、オノレエエエ! 雷神!!」
雷撃を受けながらも黒い影が、その長い腕を地面に伸ばす。
そして、先程投げたイエローダイヤの原石を手に取る。
……あれは、もう力を使ったはずだ。
なんでそのような意味のないことを?
その黒い影は、イエローダイヤの原石を、自分の口に放り込む。
なんだ?
黒い影が……更にドス黒く輝く!
「ククッ……イエローダイヤモンド!!」
ガリガリガリッ。
く……食ってる!
黒い影が、ダイヤの原石を食っている!
「……千年ブリノ味ダ! 良クゾ持ッテキテクレタ、雷神ト白イ髪ノ男! 感謝スルゾ! クハハハ!」
イエローダイヤの原石を食った瞬間、黒い影が膨張する。
「マダ気ヅカヌカ? コノ石ハ……失ッタ貴様ノ力、ソノモノ! 石ヲ丸ゴト吸収スレバ、以前ノ力ヲ取リ戻セタモノヲ! 愚カナリ雷神!」
黒い影が更に膨張する。
「「なんと……あの石が吾の失った力そのものだったのか!」」
「折角、風神ガ貴様ノ力ヲ奪イ、隔離シタノニ……死ノ海ヲ越エ、ノコノコト俺ノ前ニ現レヨッテ! 愚カナ妹ヲ持ツト苦労スルナ、風神ヨ! クハハハ!!」
「「……そういうことか! だが……吾も希望は捨てぬ……そして思い出したぞ、忌々しい異界の吸血鬼め!!」」
「昔、貴様ノ星ヲ滅ボシタ時ハ、マンマト逃ゲラレタガ……此度ハ逃サヌ!」
【……加重、すまぬがここまでじゃ。この三ヶ月、二百年ぶりの楽しい日々であったぞ】
……イン子の念会話か?
そして、こいつは何を言っている?
【過去に戻すことは叶わぬが……願わくば無事であらんことを】
イン子が、この世に存在しないような発音で、呪文の様なものを唱えている。
「「……磁界放出! 吾の力を持って、この者の時空を超えよ!!」」
「ヌ?! 貴様何ヲ――サセヌグオオ!」
「「下郎! 貴様は吾が相手だ、しばし動くな……そして加重、先程の技の名前……考えてやれなくてすまぬの」」
念会話を返したいが、何故か出来ない! ……やめてくれ!
いやだ……嘘だと言ってくれ。
俺はそのまま雷球に包まれ……イン子が作り出した空の穴に吸い込まれた。




